自作DTM×ブログ掌編小説シリーズ2
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ハーフムーン
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作 BirdWing(鳥)

 ぼくらは肩を寄せ合い、公園の隅っこにあるベンチでハンバーガー
とポテトを分け合いながら食べていた。街灯の向こう、覆いかぶさる
ようにして深い木々が繁っている。そのあいだから月がみえる。半月
だ。レモンをスライスしたような月を眺めながら、ぼくは彼女にキス
をした。バーンズとポテトフライの匂いに紛れて、甘ったるい彼女の
くちびるの味がした。

 月がみえるね。なんとなく間合いがとれなくてぼくは呟く。そうね。
彼女はちいさな声で同意して、ぼくの胸に鼻のあたまを押し付ける。
あのう、臭わないかな、お風呂入ってなくて。ぼくは真剣に心配をし
た。へいきよ、わたしだってくさいもん。彼女が言ってくすくす笑う。
つられてぼくも笑った。

 ホテルに泊まるお金がなくなって、昨日はひと晩中ファーストフー
ドで過ごした。冬じゃなくてよかった。そう思う。凍えてしまわない
だけでもまだましだ。ふたりでいるとあたたかいのだけれど、そのぬ
くもりも冬の厳しさには勝てないだろう。秋はまだこれから。残暑の
厳しい日が続いている。けれどもいずれ冬はやってくる。冬になった
頃、ぼくらはどうしている?

 十五歳というのは面倒くさい年齢だとぼくは思う。子供ではないの
だけれど、大人には遠い。というか、ぜんぜん子供だったりする。ス
カートからまっすぐに伸びた彼女の脚がまぶしくて、ぼくは月の方角
へ目をそらした。ぼくらはお互いによくわからないまま抱き合った。
それが愛し合う行為なのかどうかもわからずに身体を重ねた。その結
果としてもたらされた彼女の変化を、彼女の両親に気付かれた。そう
してぼくらは逃げている。逃げ場所なんてないのだけれど、とりあえ
ずはふたりの両親から、大人たちから逃げている。

 咳をする彼女の身体の揺れがぼくに伝わる。大丈夫?うん、へいき。
彼女はくちびるの端をすっと横に広げて笑みをつくった。でも、やっ
ぱり疲れているのがわかる。彼女は裕福な家庭に生まれて、何ひとつ
苦労なく育ってきたひとなのだ。ヴァイオリンを習っていて、年に2
回は海外へ旅行する家に生まれた大切なひとり娘なのだ。ごめんね。
ぼくは意味もなく謝ってしまう。どうして?なぜ謝るの?彼女がぼく
をみつめるのがわかる。いや、そのう……。ぼくは理由をうまく言え
ない。あたしは後悔していないよ。きみを好きになってよかったよ?

 ぼくは泣きそうになった。

 だから話をそらした。月ってさ、地球の影で満ち欠けするでしょう?
月がいちばん明るくなるときってさ、地球と太陽の位置が重なってい
ないときなんだよね、きっと。ぴったりと地球と太陽と月の位置が一
緒になるとき、皆既月食っていうんだっけ、月はみえなくなる。でも、
それって別にたいしたことじゃないよね。なんていうか、空が曇って
いれば月なんか見えないことがあるし。あれ? 何を話そうとしてた
んだっけ。よくわからなくなっちゃった。

 気が付くと、ぼくはぼろぼろ涙を流していた。ばかねえ。彼女が苦
笑しながら、ぼくにハンカチを差し出した。鼻をかもうとしていると、
いつの間にか近づいていた制服の大人がぼくらに声をかけようとして
いるところだった。静かな声で制服のひとは言った。ちょっと、きみ
たち……。

 ハンカチを投げ捨てて、ベンチから立ち上がる。逃げろ。囁いて彼
女の手を引いた。あ、ちょっと待ちなさい。あわてて追いかけようと
する声を後ろに聞いて、ぼくは逃げる。大人たちから逃げなければな
らない。でも、逃げている大人たちに近づいているのではないか。

 吐き気がした。彼女がつんのめって転んだ。お腹をおさえている彼
女がいとおしい。いつまでもいっしょにいたい。いっそのことふたり
で老人になりたい。いられるのだろうか。いられるのなら。なれるの
だろうか。なれるのなら。でも無理なのかもしれないと弱気になる。
ぼくはきみにふさわしくない。ぼくはきみを不幸にしている。確実に。
好きになることで確実に。

 ぼくは十五歳を嫌悪した。

<了>