2013年3月24日
会社を「作る」 7つの基本。
創造的なことが好きです。クリエイティブでありたいとおもっています。クリエイティブであることは、アーティストや小説家、デザイナーなどの職業に就いたひとだけにもたらされる恩恵や特権だとぼくはおもいません。どのような職業に携わっていても、どのような人間であっても、ぼくらは毎日の生活を創造的に変えることができると信じています。
ブログのタイトルに「Lifestyle Innovation」と掲げていますが、日々の生活を革新的なスタイルに変えることがこのブログの目的でした。そして創造的な生活を標榜して、ぼくはいろいろなものを 「作って」 きました。
ブログを書き続けること自体が創作ですが、掌編小説を書いたこともあった。「日記のように音楽を作る」をコンセプトとして趣味のDTMでオリジナルの曲を制作してブログで公開したこともありました。そして今年の2月に考えました。今度は会社を作ってみようかな、と。
小説を書くように人生を生きることができるとすれば、その人生はとてもしあわせではないでしょうか。映画や小説は所詮作られたもので現実は別、現実は映画や小説のようにうまい展開なんてあり得ないよ、と考えることもできますが、人生という物語のなかでは自分が作家であり、自分の脚本で動くことのできる唯一の主役なのです。
したがって誰かから与えられた人生を生きるのではなく、みずからの裁量で創造的かつ自由に自分の「人生というシナリオ」を紡いで生きることは夢ではないはず。けれども残念なことに、自分の人生が創造的なものであることをみずから放棄しているひとたちも多いものです。
先日、母校である成城大学の映画研究部のイベント「第一回成城シアター」に参加しました。
学生たちの映画作品を5本上映するイベントだったのだけれど、就活が学生たちに暗い影を落としていることを1作目に上映された「ごみ置き場漂流記」という作品を鑑賞して感じました。
「ごみ置き場漂流記」は、就活の面接で叩きのめされた学生が、ゴミ置き場に閉じ込められてしまうという内容でした。面接試験でゴミのような存在として扱われる主人公が悶々とした生活を送っていると、ある日、大学のゴミ置き場に閉じ込められてしまう。ゴミのなかから拾ったトランシーバーを使って、病気のために外出できない少女と交流するという象徴的な映像で、観ているぼく自身にも閉塞感が伝わってきました。
確かに就活できない学生たちは「外に出られずに閉じ込められている」と感じることが多いでしょう。しかしながら、外に出られないという閉塞感は、実は自分の思い込みが生み出した錯覚に過ぎないこともあります。扉を押せば、実は重く閉ざされていた扉は簡単に開くかもしれない。
そうはいっても、やはり扉を押して外にでることは怖いし、ぼくらはうまい扉の押し方を知らない。だから外に出る前に躊躇ってしまう。あるいは諦めてしまうのではないでしょうか。
* * *
ぼくのことをお話ししましょう。
2011年の10月。ぼくは15年間勤めてきた会社を解雇されました。うつ病のせいで、ふつうの会社員のように毎朝定時に出勤して仕事をすることができなくなってしまったからです。
辛かった。うつ病は、罹患してみないとその辛さがわからない病気だとおもいます。そして、中途半端に患っている間はまだましなほうで、どすんと落ちて、そのあとにもう一度どすんと落ちるような段階がある。
そのときにどうなるかというと、日々起き上がることができずに、ぽろぽろ泣いているだけの自分になってしまう。死ねばどれだけ楽になるかとおもうのに、死ぬことすらできない。ただ毎日を生きながらえている。永遠の長い暗闇のような生活に落ちる。
いま振り返ると1日16錠もさまざまな薬を飲んでいたせいだったかもしれないのですが、ぼくは酷い過眠に悩まされていました。とにかく起きられない。1日の3分の2を眠っているなどという日はざらで、ほとんど自室に寝たきりで動けない。置物のようになっている。
とはいえ、動けないということは許されませんでした。ぼくには家族があり、失業手当と退職金をもらっていましたが、日々の生活のなかで食いつぶしてしまうばかりで、収入を得る必要がありました。そこで月に1~2回は布団から身体をひっぺがしてハローワークに行き、求職活動をしていました。
ところが学生たちの就活の厳しさとは別の意味で、ぼくの転職もまた厳しいものだったのです。かなり年をくっているせいもあるかもしれませんが、応募した会社は書類選考の段階でことごとく落ちた。数えてみたところ24社落ちていたのですが、ぼくにとっては50社ぐらいに落とされた感覚です。そうして8月にやっと契約社員の口をいただくことができたのですが、その会社にもうつ病で行けなくなってしまって、2012年の12月に退職しました。
自分は社会に求められていない人間かもしれない。やっと得た契約社員の仕事すらうつ病で失い、メールや郵送で不採用の書類をいただくたびに、ぼくはそうおもいました。もう社会に復帰できないのではないだろうか。不安がこころをよぎります。部屋に閉じ込められたまま朽ちていくのかな、もうどこへも行けなくなってしまったのかな。途方もない絶望感がぼくにはありました。
しかし、その絶望のなかでぼくは考えました。雇ってくれる会社がなければ、自分で会社を作ってしまえばいいじゃん、と。
何もないということは裏返して考えれば無限に可能性があるということで、しかし外の世界に救いを求めてばかりでは何もはじまらない。いまここに存在するぼくのなかに未来を拓く扉がある。
そうしてぼくは急遽自分の人生を「作り」はじめました。覚悟を決めて会社を作ることを真剣に考え、猛烈に起業についての勉強をした。それが2月19日のことであり、ぼくがまず何をしたかというと社名を決めました。英文表記まで考えました。そして長年趣味で培ったブログ構築のノウハウを駆使して、一晩で会社(となるはず)のWebサイトを立ち上げました。
とにかく時間はあった。無職なので。そして身体がおもうように動かない反面、ものすごい深いところまで思考することができた。まずぼくがやったことは知人に対しての宣言です。起業を考えている、ということをメールしました。そのときには自作のWebサイトのほかには何もありませんでしたが、行動を起こして、ついに今月3月21日に法人登記を完了し、自分の会社を設立しました。
「株式会社ソーセキ・トゥエンティワン」。
それがぼくの会社です。
オフィスは自宅、社員はいまのところぼくだけです。
あ、ひとり社員の候補がいます。イラストレーター・ジェイといって、キャラクター開発専門のスペシャリストです。といっても彼が働くことができるのは、10年後ぐらい先でしょうか。要するにぼくの次男、小学校4年生で10歳の息子なのですが(笑)
「パパは会社を作ることになりました」と家族に話したとき、いちばん興味深そうにしていたのが次男でした。「きみはぼくの会社で仕事したい?」とたずねると「うん」というので、何がやりたいか訊くと「イラストレーター」とのこと。そこで彼を社員に任命し、画用紙で名刺を作ってあげました。
ちなみにイラストレーター・ジェイが描いたイラストはこれです。
ぶたちょ、という名前だそうです。
* * *
就活できないなら起業しちゃえば、とか、会社にとらわれずにノマドで仕事しよう、とか、ネット界隈では前向きなのか無責任なのかわからない発言が注目されています。
起業したぼくがいうのもどうかとおもいますが、可能であれば、若いひとたちは一度きちんとした会社に就職したほうがいい。大手企業ならではの教育を受けて、いろいろなことを学んでほしい。それから起業しても遅くはないとおもいます。人生、焦ってもいいことがないとおもう。
行き場を失って、追い詰められてぼくは起業しました。だからこそ短期間で法人登記を済ませて、とにかく必死だった。その必死さをぼくは他人に求めたりしないし、やっぱ起業でしょ、ベンチャー万歳と煽るつもりもありません。ぼくはこういう生き方しかできなかっただけであり、ちっとも起業が凄いとはおもっていないのです。だいたいこれから食っていけるのかどうか、家族を養っていけるのかどうかさえ見通しが立っていません。
とはいえ、起業を考えている方のために、ちょっとした処方箋というかレシピを残しておきたいとおもいます。1ヶ月のあいだ起業に没頭したぼくが学んだことのエッセンスを7項目にまとめました。起業したいひとは参考にしてください。
■会社を「作る」7つの基本。
基本の1:
屋号で個人事業主にするか、商号で株式会社にするか。未来に向けた構想が会社の形態を決める。
起業といっても、いちばん簡単にできるのは個人事業主として屋号を名乗る起業です。勝手に職種なり肩書きを名乗ってしまえばそれが起業になる。多くのライターやデザイナー、士業の方は「○○事務所」などと屋号だけを付けて仕事をしています。能力や資格を起点として生活費を稼ぐために起業するのであれば、それで十分です。
しかし、ぼくが考えたのは、屋号で商売する個人事業主として起業した場合、特定の枠組みに仕事が制限されてしまい、事業を大きく展開していくことができないのではないか、ということでした。株式会社という形態をとれば対外的に社会的信頼が得られるため、自分の能力を超えたプロジェクトを仕掛けることができるメリットがあります。要するに志の大きさではないでしょうか。将来的に拡張したいビジネスをめざすなら、株式会社として起業するほうが、やりがいがでかいとおもいます。責任も多いし、やらなきゃならないことも個人事業主と比べるとたくさん増えますが。
基本の2;
会社の顔だから社名には拘りたい。ネット系で起業するならドメイン取得は必須。
名は体を表すといいます。企業名はビジネスをする上で常に使うものであり、企業として対面的には顔となりますから、きちんと考えた方がいい。企業名をおもいついたとき、ぼくは何度も口頭で繰り返してみました。「はじめまして。ソーセキ・トゥエンティワンの外岡と申します」というように。
一般に企業名は短く覚えやすいほうがいいといわれますが、ぼくはすこしばかり長くても(ちょっと変でも)創業者が気に入っているものでよいとおもいます。企業名の発案と同時にロゴのデザインも手がけましたが、最終的には専門のデザイナーさんにブラッシュアップをお願いしました。といっても出世払いということで無償でやっていただきました。ありがたいことです。
企業名の考案と平行して動いたのはドメイン取得でした。ドメインとは、なんとか.comのように記載されるネットのアドレスで、ネットで商売するなら企業名とシンクロしているほうがいい。ぼくの考えている事業は、電子書籍をはじめとするデジタルコンテンツ全般に関する企画・制作・販売だったので、ドメイン取得は必須と考えられました。実際にドメイン取得のために使わせていただいたサービスは、家入一真さんがはじめたムームードメインです。ドメインにもよりますが、1000円以下の年間契約で希望するドメインを取得できます。支払いにはカード決済はもちろんコンビニ決済もOK。オススメです。
基本の3:
オフィスや従業員は後からでいい。起業は、ひとりでマイクロ規模ではじめる。
起業はちいさくはじめて大きく育てることができればいいんじゃないかな、と考えます。採算性が確実ではない事業に対して、最初から固定費となるオフィスや従業員のことを考えていると、フットワークが鈍くなります。最悪の場合は、オフィスも決まってないし従業員もいないし起業は無理だ、と諦めてしまう。
会社登記時に本店の所在地は重要になり、また取締役を何人置くかによって定款という書類の記述も変わる。取締役による代表者の選出や委任状なども必要になるので、設立場所と社員の問題は大事ではあるのですが、ぼくは自宅を創業時の本店所在地として定め、従業員はゼロ、取締役ひとりの会社としてはじめました。
優先順位を考えれば、どんな事業を展開するか、という構想が大事だとおもうのです。事業領域や事業計画をすっとばして、オフィスや従業員の整備に注力するのは経営の方向性から考えると何か間違えている気がします。もちろん起業にはいろいろなパターンや規模があり、場所や従業員にこだわらなければならない起業もあるでしょう。しかし、最初はスモールスタートでよいのでは。
ちなみにぼくは3~5年後には本社所在地を移転し、従業員を雇用できるような会社を考えています。軌道に乗れば、の話ですけれども。
基本の4:
1円起業でも株式会社登記のために30万円はかかる。お金は必要。
かつて株式会社を設立するためには、最低でも1000万円の資本金が必要でした。しかし会社法の改正により、現在では資本金が1円でも起業できます。それなら簡単だとおもうかもしれませんが、実際に株式会社を登記するだけでも、印鑑の作成(会社の実印(丸印)ひとつ、銀行印(丸印)ひとつ、角印ひとつの計3本)でおよそ2万円、公証役場における定款の認証に約5万円、認証の印紙に4万円、法務局に届けるときの登録免許税の収入印紙代として15万円、司法書士のような方にお願いするのであればその費用がかかり、合計で30万円ほどかかると考えていたほうがいいとおもいます。
ぼくはお金がなかったので、公証役場における定款の認証は電子認証を選びました。しかも電子認証を代行してくれる会社を探して、9,800円でやってもらった。電子認証の場合、印紙代の4万円が不要になります。さらに法務局へ行って登記も自分でやったので、司法書士さんにお願いする費用を節約できました。とはいえ、それなりに失敗もあり苦労もしたのですが。
ちなみに資本金は会社の信用度をはかる目安でもあり、300万円ほど用意したほうがいいと書かれている本もありました。また設立登記のための費用が30万円ほどかかるということを書きましたが、もっと大切なことは、設備資金や運転資金を考えることです。会社を設立してから数ヶ月は収入ゼロのこともあるわけで、そのための貯蓄や支援を考えておくことは大切です。
ぼくの場合、日本政策金融公庫というところに創業時の融資を相談しましたが、借入金の3分の1は自己資本として持っておく必要があるなどを条件として出されて、設立前の融資は断念しました。日本政策金融公庫では面談などがあり、借り入れができるまで1ヶ月ほどかかります。無借金経営が健全だといいますが、ぼくは必要な資金は融資を受けてでも確保すべきだと考えています。ただ、融資に関する知識や計画は必要ですね。
基本の5:
定款や申請書類は怖くない。定款はテンプレートを使って書き、その意義を考えることが大事。
会社を登記するためには「定款」という書類が必要です。定款は会社の憲法と言われることもありますが、基本的には商号や代表者(取締役)、本店所在地、株式発行数、事業概要などを定めるものです。
うーん苦手だ、面倒だから行政書士さんにお願いしたいと考えてしまいますが、そんなに恐れることはない。ぼくはお金のない状態で起業を考えたので自分でやらざるを得なかったけれども、ネットを探せば定款のひな形(テンプレート)をいくつもみつけることができます。大事なことは、その書類で何を定めようとしているか、ということを見極めることではないかと考えます。
事前準備としてインターネットで複数の場所から定款のテンプレートをダウンロードし、定款を研究することは大事かもしれません。また、定型的ではなくて、独自色を出してもかまわない。参考図書で、経営理念を定款に入れると創業者の理念が残る、というアイディアを読んで、実際に実行しました。定款の第三条でぼくは経営理念を次のように記載しました。
当会社の経営理念は、"創造業"という新たな事業領域を標榜し、デジタルコンテンツにより21世紀の新たな日本の文化を切り拓くことを使命とする。インターネット社会における物心、ならびに現実とバーチャルな世界の両方の幸福を追求するとともに、人々の革新的なライフスタイルを実現し、人間、社会の進歩発展に貢献する。書類を揃えて法務局に書類を提出したのですが、不備があるとして提出を求められ、ぼくは家に帰って書類を追加の書類を作りました。何が足りなかったかというと、代表取締役の選任に関する書類でした。ぼくひとりしかいないのでいいじゃんとおもったけれど、取締役会を開いてぼくが代表に選任され承諾しましたという実印を押した書類が必要とのこと。ちょっと笑った。何人かの自分の分身が、ぼくの部屋で会議を開いているところを想像したからです。お役所の文書はどこか滑稽なところがあります。けれどもそれがお役所の仕事であり、滑稽を笑うよりも出すべきものはきちんと提出すべきです。
基本の6:
ネットには、あらゆる知識が掲載されている。あらゆるサービスが存在する。
法人登記という未踏の分野に対するチャレンジは不安も多かったのですが、あらためてネット環境のすばらしさを実感しました。ネットを調べると何でもわかる。ちょっと面倒なところはネットを介して助けてくれる会社がたくさんある。あっという間になんとかなるものなのです。参考までにぼくが活用したサイトを掲載します。
トラスティルグループ 会社設立・サポートセンター
http://e-kaisya.org/
会社設立全般のアウトソーシングもお願いできるようですが、ぼくは定款のテンプレートを使わせていただき、電子認証の部分だけをお願いしました。非常に丁寧かつ誠実な対応をいただき、わざわざ確認の電話までいただきました。
ハンコヤドットコム
http://www.hankoya.com/
印鑑をセットで注文しました。完成前にデザインの校正をメールで行うことができるので安心です。しかも早い。
電脳名刺サービス
http://card.denno-saurus.com/index.php
ブラウザ上で名刺のデザインができ、ロゴなどの画像を貼り込めます。また、紙の見本を依頼すると無料で郵送してくれるところも便利です。
基本の7:
参考図書も大事。本で読んでネットで補足する。本は図書館で借りるだけでなく購入すること。
インターネットで調べることも大事ですが、図書館に行ってみたところ、会社設立に関する本もたくさんありました。そのなかでもとても参考になり、貸し出し期間以降も参考にしたいと考えて購入したのは『5人の女神があなたを救う!ゼロから会社を作る方法』でした。
5人の女神があなたを救う! ゼロから会社をつくる方法 | |
平林 亮子 前澤 三恵 藤田 真弓 石井 清香 六波羅 久代 税務経理協会 2008-11-21 売り上げランキング : 396449 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
いやー女神さんたちには救われました。基本的な法人登記の流れについては、この本で勉強して、ネットの情報で補足しました。
その後、購入した『会社の設立・資金繰り・申告・節税、ぜんぶこれ1冊でわかります』もとても参考になる本です。
会社の設立・資金繰り・申告・節税、ぜんぶこれ1冊でわかります 広瀬 元義 あさ出版 2012-02-17 by G-Tools |
こちらの本は設立時というよりも、これから資金繰りなど会社を運営するにあたってお世話になりそうです。
* * *
ものすごい長文エントリを書いてしまいましたが、語りたいことはまだまだあります。ぼくの会社、ソーセキ・トゥエンティワンの出版レーベル「創世記21」から電子書籍を出したいぐらいです。
ここに書いたすべては、ぼくが法人登記をした1ヶ月間に体験したことであり、ぼくの体験に基づいた1次情報です。かなりレアなケースもあるかもしれませんが、株式会社を設立したい、起業したいというひとは参考にしていただければとおもい、ネットの片隅にそっと置いておくことにします。
投稿者 birdwing 日時: 15:25 | パーマリンク | トラックバック