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2006年7月 8日

持続する方法。

3歳の息子(次男)と散歩をすると、最近はクルマのナンバープレートに書いてあるひらがなをずーっと読みつづけています。それで、ひらがなとひらがなをつづけて、「つ・せ・ってなんだろう?」と聞いてくる。もともと意味のないナンバーなんだけれど、彼はそれをつないでしまうようです。なんだろうね、と答えてしばらくはその意味について考え込んでしまうのですが、言った本人はまったく気にしているようではなくて、ほかの風景に夢中になっている。

ナンバーを読みつづけながら散歩していたら、一台のアルファロメオのナンバーが777でした。おお、7が揃っている、となんとなくうれしかった*1。次男は最近数字も読めることは読めるのですが(よんじゅうしちが好きらしい)、7が揃っていていてもどうでもいいようで、あんまりうれしそうじゃなかった。「おすい」というマンホールの蓋に書かれた文字の方が気になっていたようです。

どの本に書かれていたのか、いま忘れてしまって思い出せないのだけど、777という数字が重なるような、日常の生活におけるちょっとした偶然を楽しむことが、人生をより豊かなものにしてくれる、というような記述があったような気がします。たぶん、アルファロメオのオーナーは狙ったのかもしれないけれど、レシートのなかの合計金額が777なんてこともあったりする。時計をちらっと見たら、数字が揃っていたなんてこともある。くだらないな、と思うことも多いのだけど、そんな生活に存在するちいさな偶然を楽しんでいたい。

というのも、いま海原純子さんの「格差社会」という本を読んでいるのだけど(P.66)、日本の社会では「満足」が得られにくい社会のようです。そもそも人間は獲得したものに慣れてしまう心理学上の特性があり、宝くじがあたったとしてもその幸福感を持続できない。1年間でふつうの心理状態に戻ってしまう。大きなかなしみのようなマイナス要因も同じで、こちらはよくわかる気がしました。たとえば親しい人を失ったときに、かなしみが数年も持続していたら、たまらない。大きなかなしみも、大きなよろこびも、数年経つとふつうの状態に戻ってしまうように人間の心はできているようです。だから一度しあわせを得てしまうと、もっとしあわせを求めたがる。どんなに周囲から恵まれているような状況であっても、本人は満足しないという状況も生じるようです。

アメリカンドリームというように、権力によるシステムが機能している社会では、「がんばれば報われる」という、夢をみることができます。ところがアフリカのような社会においては、システムが機能していないので、がんばっても報われない。そういう社会では、成功者に対しては、汚い手を使ってうまくやったんだろう、というやっかみでしかみられない。日本もアフリカ的ではないか、と海原さんは書いています。

鋭い視点だとぼくは感じたのですが、確かに日本では出る杭は打たれる環境があり、成果主義といってもがんばったものが必ずしも成功を得るようにはなっていない気がします。「ぬけがけと嫉妬の日本社会」という章のタイトルにも鋭い洞察を感じていて、だからこそ同質化を執拗に追求しようとする。調和こそ美しい、という大義を掲げて、その実は、異端なものを吊るし上げて追い出す文化があり、しかしどちらかというと追い出された人材の方が成功していたりするものです。グローバルな社会で成功するのは、むしろ個性をきちんと確立した異端者の方であり、そのクリエイティビティを発揮できないような社会になっている。

このような社会でしあわせであるためには、ぼくは社会的な評価、マスの価値、統計的な指標という常識を疑って、より個の在り方を考えた方がいいのではないかと思いました。それは、777というナンバープレートを発見して、ちょっと楽しかった、というようなよりプライベートな価値の発掘という方向かもしれません。

そのいちばんよい方法が、ブログでちょっとした個人的なしあわせを書くこと、ではないでしょうか。いま、企業の記事をブログで書けば小遣いがもらえるようなサービスもあるようですが、なんとなくネットワークビジネス的な不自然さも感じています。急に、化粧品や健康食品などの記事を書きはじめたブロガーもいますが、あまりに宣伝的であると、なんとなくひいてしまう。ぼくはやはりどんなにちいさなことであっても、そのひとの個人的な生活や考え方がみえるブログに惹かれます。真摯に、誠実に生きているひとたちの言葉を読みたい。

しあわせを持続する方法は、ちいさなしあわせに対する感度を高めて、日々を一度きりのものとして有難く思うことなのかもしれません。

*1:9日の夜10:52にこのページにアクセスしたら、カウンターが67777でした。1個7が増えた。ちょっとうれしい。

投稿者 birdwing : 2006年7月 8日 00:00

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