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2007年2月 1日

パターン認識とインサイト。

先日購入した「Think!」という雑誌が非常に興味深かったので、この雑誌の特集である「戦略思考トレーニング」をきっかけに、戦略的思考とイノベーションについて考えています。奥の深いテーマだと思うので、すぐに結果が出るものではありません。さまざまな本を読んで知識を補充しつつ、継続して考えていくつもりです。しばらくは発展途上のエントリーとして、思いついたままにメモしていくことにしましょう。

「Think!」No.20には、「戦略を考えるフレームワーク――基本ツールの実践的活用法」というアクセンチュアの秦純子さんの記事がありました。コンサルティングの現場でよく使われる思考の枠組みを整理されていて、とても分かりやすい記事です。個々の用語については考えることが多いのですが、全体をまとめて考えたことはあまりありません。ちょうどいい機会なので、記事で取り上げられている用語について確認してみます。

戦略思考のフレームワークまとめ

経営用語集などを参考にしながら用語をまとめてみました。

名称概要
3CCustomer(顧客)、Competitor(競合)、 Company(自社)
5Forces1)新規参入の脅威、2)代替品の脅威、3)売り手の交渉力、4)買い手の交渉力、5)競合他社
バリューチェーン分析調達/開発/製造/販売/サービスの連鎖によって顧客に向けた価値が生み出される考え方。
4PProduct(製品) 、Price(価格) 、Place(流通) 、Promotion(広告)
AIDMAAttention(注意) 、Interest(興味、関心) 、Desire(欲求) 、Memory(記憶) 、Action(行動)
CRMピラミッド戦略層(Strategy)、知識層(Knowledge)、業務プロセスおよび人・組織層(Processes and People)、ソリューション・テクノロジー層(Enabling Technologies)
PPMProduct Portfolio Management。成長率を縦軸×相対的市場シェアを横軸として、「金のなる木」、「花形製品」、「問題児」、「負け犬」の4象限のマトリクスで分析。
PLCProduct Life Cycle。新製品として市場に投入され姿を消すまでのサイクル。導入期→成長期→成熟期→衰退期。
PDSPlan→Do→See。
PDCAPlan→Do→See→Check→Action。

前半の3つはポーターでしょうか(といってもぼくは「競走優位の戦略」を読んでいません。読もうと思ったのですが、8000円をはたく価値があるのかどうか考えてしまった)。4Pはあまりにもクラシカルではあるのですが、Wikiぺディアによるとジェローム・マッカーシーが1961年に提唱したとのこと。次のAIDMAも古典的なフレームワークですが、アメリカのローランド・ホールが提唱した法則のようです。

CRMピラミッドについては知らなかったのですが、アクセンチュア考案のオリジナルだそうです。そして、お馴染みのPPMは(ピーター・ポール&マリーではなくて)、ボストン・コンサルティング・グループによるフレームワークです。PLCについては、ジェフリー・ムーアの「ライフサイクル・イノベーション」に出てきたこともあり、ぼくとしては現在いちばん馴染みの深い用語でした。そして最後の2つについては説明するまでもなく、カイゼンが得意な日本人に最もよく知られているフレームワークではないでしょうか。

パターン模倣の戦いを超えるには

ところで、これらの戦略思考のフレームワークを知っていることは大切ですが、フレームワークがあれば戦略が立案できるかというと、そんなことはありません。喩えると、テンプレートがあれば優れた企画書が書けるわけではない、と同じように。

フレームワークは思考のスピードを上げるための引き出しであって、それ自体が万能ではないということに留意すべきだと思いました。もちろん型をたくさん知っていれば、ああこれはBパターンだなとか、こっちはVパターンできたか、というパターン認識は可能になる。漠然とした現実において、パターンを頼りに世のなかの戦略をある程度読むことができます。夜空をみて星座を認識するようなものでしょうか。つまりパターン認識があれば最初から、これはどういう意味だろうと考える処理をしなくても全体や傾向を掴めるため、思考の速度は格段と上がります。そしてスピードアップして短縮した時間を、自分の戦略立案に使うことができる。

しかしながら逆に、杓子定規な型にはめてしまうことによって、現実をステレオタイプな認識でしかとらえられなくなる弊害もあります。創造的な発想の飛躍ができなくなる。型にとらわれて、自由に発想できなくなる。また、同じパターン認識ができる競合同士の競争になったとき、差別化ができません。

ちょうど本日読み終えた御立尚資さんの「戦略「脳」を鍛える」という本に、同じようなことが書かれていました。「はじめに」から次の一文を抜粋します(P.2)。

だれかが成功パターンを見つけ出すと、多くの企業にモノマネされ、その戦い方では差別化できなくなる。そうすると別のだれかがユニークな戦い方を考案し、勝ちを収める。囲碁・将棋の定石と同様、経営戦略も発見・模倣・陳腐化・イノベーションを繰り返すのがその特徴であり、「定石を超えた戦い方のイノベーション」こそが、戦略の本質なのである。

ここにも書かれているのですが、パターン化されたときにその型はもう過去のものになります。まさに「後講釈で定石化する」ということであり、文章においても同様でしょう。書いたとき、その言葉はもう誰かに引用されたり模倣されることが必須であり、ほんとうに新しいことをやろうとすると、定石から永遠に闘争(もしくは逃走)しなければならないわけです。

ということを書いていたら、坂本龍馬のエピソードを思い出しました。これもまたWikiぺディアから引用します。

当時土佐藩士の間では長刀をさすことが流行していた。あるとき龍馬の旧友が龍馬と再会したとき、龍馬は短めの刀を差していた。そのことを指摘したところ「実戦では短い刀のほうが取り回しがよい」と言われ、納得した旧友は短い刀を差すようにした。次に再会したとき、旧友が勇んで刀を見せたところ龍馬は懐から拳銃を出し「銃の前には刀なんて役にたたない」と言われた。納得した旧友はさっそく拳銃を買い求めた。三度再会したとき、旧友が購入した拳銃を見せたところ龍馬は万国公法(国際法)の洋書を取り出し「これからは世界を知らなければならない」といわれた。もはや旧友はついていけなかったという。 -- これは龍馬の性格を鮮やかに描写しているものの、あくまで逸話であって史実ではない。逸話の起源は、定かではない。

旧友が龍馬を真似て短い刀を手に入れたときには、銃を出す。さらに龍馬の模倣をして銃を持ってきたときには、国際法の洋書を携帯している。目立ちたがり屋といえばそれまでですが、枠組みにとらわれない軽やかな生き方がいい。龍馬にはかなわんぜよ、という感じでしょうかね。ぼくも龍馬のようになりたいものです(というか、先日ドラッカーになりたい、とか言ってましたが・・・。なりたいものが多すぎですが)。

龍馬の生き方は、イノベーションを追い求めるぼくには理想形です。それが史実ではないとしても。

インサイトによる跳躍

「戦略「脳」を鍛える」という本には、フレームワーク合戦から一歩抜け出すための「定石を超えた戦い方のイノベーション」のヒントとして、インサイト(Insight)を鍛えるという方向性が提示されています。日本語にすると「直感」あるいは「洞察力」とのこと。

ぼくにとっては、このインサイトという言葉が懐かしいものでした。というのもアカウントプランニングという手法を学んでいたときに、重要なキーワードだったからです。私見によるため、かなり歪んだ見解かもしれませんが、消費者が潜在的に抱えている感情や購買行動などに注目し、定量的な分析ではなく定性的な分析によってキーワードを抽出、最終的にはアカウントプランナーの直感からトレンドの発見をめざす、そんな手法だったと記憶しています。

つまり、100人の90%がA製品が好きだという統計的な結果に着眼するのではなく、10人がA製品のこんなところが不満だとわいわいがやがや話しているようなこと、いわゆるアンケートでいうところのフリーアンサー(自由回答)に着目するわけです。実際に語られた生の言葉から、深層心理的な部分も含めた新製品開発のヒントを探る。ただ、科学的な手法ではないんじゃないかという感触もあり、若干抵抗を感じていたのも事実ですが。

とはいえ、ネットの登場や脳科学などの研究により、最近では逆に「直感」こそがコンピュータにはない人間の大きな特長である、という見解が多くの本に書かれています。このフレームワークを全面的に支持することも問題かとは思うのですが、インサイトが戦略のカギになるという主張には頷けるものもあります。

というのは、フレームワークと違って、インサイトは真似が出来ないからです。テンプレートはこっそり使い回しができるけれど、世界の何に注目し、どんなアイディアを立案して文章として具現化できるか。それは簡単に真似はできません。個々の力量が問われます。

インサイトの重要性を考えつつ、再度「Think!」という雑誌を見直しているのですが、神戸大学の三品和広教授の「45歳でCEOになるための戦略トレーニング」という記事で、戦略とは競争優位性を構築するものである、とまず定義し、競争優位性を構築する2つの条件として、以下のように書かれていました。

第1の条件は、サスティナビリティ(持続性)で、効果が長持ちするということです。第2の条件は、模倣が難しいこと。競合が簡単には真似できないものでなければ、戦略として通用しません。

シャープの液晶開発を事例として挙げられていますが、1970年から30年以上かけて液晶分野における優位性を確立することができたとのこと。つまりかなり上空から長期的な視点で眺めて、地道な積み重ねをしていかないと、他社と差別化できるような優位性は確立できない、ということです。

パターン認識、戦略論、フレームワークなどの知識だけをその場しのぎで強化しても高く跳躍する力にはならない。直感は磨こうとしても磨けるものではないので難しいのですが、プロの職人が身体で体得しているような技を窮めることが戦略的思考を跳躍させる第一歩ではないか。そのためには時間もかかるし、努力も必要になる。そんなことを考えています。というか考え中です。

投稿者 birdwing : 2007年2月 1日 00:00

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