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2007年4月 2日

音楽のイノベーション。

イノベーション関連の本を読んでいると、iPodおよびiTunesの事例がよく引用されています。ハードウェアだけでなくiTunesというデジタル音楽配信の仕組みを統合して、流通全体を設計したところが革新的である、という趣旨が述べられていることが多いようです。

アップルの戦略はビジネスモデルとしても参考例に出されることが多いですね。6月11日にiPhoneが登場することも明確になったようですが、さすがアップルという感じです。米国EMIのCIOが「アップルを見習え」と携帯電話業界を痛烈に批判した記事もありました。CNET Japanの記事から引用します。

Nicoli氏は「Appleは、人々が手に入れたいと思うものを作っている」と述べるとともに、「人々はiPodやiTunesのシンプルさや操作性の良さを気に入っている。Appleはそういったことを達成するために白魔術や黒魔術を用いているわけではない。彼らはコンシューマーの要望に耳を傾けているのだ。そして、そういったことはAppleの専売特許であってはならない」とも述べた。

確かにiTunesは便利で、CDから録音する際に曲名を検索するCDDB(Compact Disc DataBase)はなくてはならないものに感じます。曲やアーティストの情報がデータベース化されていて、そのメタデータが無償で提供されていることがうれしい。

常時接続(自宅はFTTH)の環境ではなかった頃には、CDDBはいまひとつ使えなかった気がします。いちいち接続してデータをダウンロードするのが面倒だったし、接続したところ「データがありません」などのエラーが表示されて、接続するんじゃなかった、と脱力したこともありました。そんなときは自力で曲名を入力したものです(泣)。ネット環境を含めて便利な時代になったものだなあと思うとともに、その便利さがデフォルトになっていくと、便利じゃないことが逆にマイナスになるのではないでしょうか。

「あったらいいのに」をカタチにすることが発明だと思うのですが、イノベーションではそこに「わくわく」感が必要です。欲しかったのはモノだけじゃなかった、ということにぼくらは気付き始めています。モノを持つことによって生まれる気持ち(満足感であったり、誰かに自慢したかったり、あるいはいつも近くに置きたいような欲求)が大事です。

モノ(製品)に求められるものは、最終的にそのわくわく感であり、その感じを味わえるのであれば別のモノじゃなくてもいい。有形のものから無形のものへ、ぼくらの求めているものが変わってきたのかもしれません。

パッケージから無形のものへ

デジタル音楽配信がなぜ潮流なのか、ということをもう少しマクロに考えてみると、

「有形のものから無形のものを重視する時代へ」

という変化があると思います。社会を包み込むこの大きな動向から、著作権などの知財が重要になってきている、創造性や哲学などが重視されつつある、製造業からサービス業への移行が顕著になる、ソリューションを提供する企業が注目を集める・・・など、さまざまな無形重視の動きが顕著になっているような気がします。多くの本で書かれていますが、確かにぼくもそう感じています。

SNSやブログで重視されていることも同様ですね。日記のデータが大切なのではなく、読んでくれたりコメントをくれたりするひととの「つながり」や、書いたときの自分の「想い」が大事ではないか。もし、その想いを持続することができれば、テキストなんか消しちゃってもかまわない、とぼくは思います(乱暴ですが)。過去を忘れてしまうから日記として書き留めておくことが大切なのであって、永遠に物事を記憶できる人間アーカイバー(戦隊モノみたいでかっこいいな、アーカイバー)のようなひとは、きっと文字として書き残す必要はないでしょう。でも、ぼくらは忘れてしまうから書いておきたくなる。

音楽に関しても、音楽によって得られる感情が最も大切でしょう。ぼくはブックレット付きのパッケージが好きなのですが、場合によってはジャケットなどのパッケージはおまけであって、かさばって邪魔なだけです。歌詞やライナーノーツも大事ですが、インターネットで閲覧できれば別にCDといっしょに入っている必要はないかもしれない。

そもそも音楽というのは記録される前に、演奏されるものであったはずです。

街角で、あるいは祭祀の場で、音楽は演じられるものだった。それがレコードなどのメディアに記録されるようになって、いろいろと余計なものが付属するようになったのではないでしょうか。シンセサイザーが登場して、演奏しなくても打ち込みで音楽を作れるようになって、プロモーションビデオなどというプロパガンダ(宣伝)の方法まで出現して、どんどん複雑になってきています。それはそれで楽しいからよいのですが、では今後どうなるのか。

ミュージシャンの進化と回帰

どこかに書かれていたことですが、次のような未来を思い描きました(どこに書かれていたのか思い出せないのですが・・・)。

録音された音楽は、最終的には一部を除いてほとんどが無料でネットで配信されるようになるのではないか。その見解はあながち間違いじゃない気がしています。複製も自由。DRMについての議論も活発にされていますが、スティーブ・ジョブズのDRM不要論は、ある意味、正しいのではないでしょうか。

と、考えていたら、タイムリーにも今日、EMIが「EMI、デジタル音楽の「DRM撤廃」発表へ」というセンセーショナルな発表をしていました。なるほど、それでiTunesやiPodなど、アップルを擁護した発言があったわけですね。この戦略のための布石だったか。EMIのアーティストの筆頭といえばビートルズなのだけれど、彼等の楽曲もDRMなしになるのでしょうか。

そもそも過激なことを言ってしまうと、録音してデジタルデータ化する時点で複製されることは前提としてあるわけで、コピーするな、と言うぐらいなら、録音するな(デジタルデータで流通させるな)、という気もする(言いすぎだ、これは。苦笑)。ただし、作られたものを改ざんするのはNGですね。それは創造者の権利を侵している。

ダウンロード販売の売上は増加しつつあるようですが、今後は消費者からお金を取り立てるのではなく、ダウンロード数によってプロバイダから収益を得る、というモデルがあってもいいのではないでしょうか。音楽コンテンツは、より広告的になるかもしれない。個人の音楽ファンが支持するアーティストの曲を紹介したり、あるいはコピーさせることによってアフィリエイト的に収益を得る、ということも考えられそうです。ファンが口コミで儲けるイメージでしょうか。広めた対価としてお金をもらう。その一部がアーティストにも還元される。

加えて、ダウンロードに関しても、各個人がファイルを持っている時代は終わるのではないでしょうか。各自がハードディスクを持っている必要はなくて、どこかのサーバーに共有のものがあればそれで済むことです。メタデータだけ端末に持っていれば、あとは聞きたいときにサイトにアクセスすればいい。

要するにインデックス情報だけ持っている時代です。本に例えると、書籍カードのようなものだけ自宅にあって、あとはすべて図書館にある感じ。カード情報と蔵書はひもづいていて、ほしいときに引っ張り出して読む。読んだら戻す。自分の部屋には所有しない。

というのも、最近、自宅でPCを使っているときには、ステレオもiPodも使っていないことがあるんですよね。myspaceとかYouTubeのサイトにアクセスして好みの楽曲を再生している。オンデマンド配信によるネットラジオ的な感覚かもしれません。もちろん好きなアーティストの曲をじっくり聞き込むときは違いますけど。

楽曲ファイルが無料になったら、アーティストは儲からないじゃん、ということになりますが、ライブで収益を得ればいい。ライブの場における熱気や演奏の音響感は、ぜったいに会場でなければ体験できないものであって、デジタルによる再現は不可能です。もちろん立体映像などで擬似的に臨場感を再現できるようになるかもしれませんが、それでもきっとライブには勝てない。ライブに勝る臨場感はありません。

そんなわけで、情報化時代がさらに進化すると、ミュージシャンは逆に原始的になって、ライブ活動を重視するようになるという、勝手な予測です。

投げ銭的なもの、あるいは

とはいえ、やはり商業的な音楽においては大勢のスタッフが関わっていて、スタジオ代をはじめプロモーションのためにコストもかかっているわけです。ビジネスである以上、それがアマチュアとの違いでもあります。だから、録音された音源を無料にされてはたまらない。もちろんアマチュアだって、時間をやりくりして苦労して作品を仕上げているから、規模は違うとはいっても、貰えるものならお金くれ、という感じはあるかもしれないのですが。

もし、これは!と思うような作品があれば、投げ銭的な支援のシステムがあるといいかもしれませんね。などと考えていたところ、はてなをはじめとして、いくつかのサイトには既に投げ銭システムがあるらしい。

しかしながら、こつこつと趣味のDTMをブログで公開していて思うことですが、ぼくの場合は、やはり感想をいただくことがいちばんの励ましになるものです。

投稿者 birdwing : 2007年4月 2日 00:00

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4 Comments

PORORI 2007-04-03T04:55

お邪魔致します。「黒川伊保子」で飛んで参りました。遅ればせながら「恋愛脳」、素敵な本ですよね☆女の私でも、ちょっと違うかな、というところは無きにしもあらずですが、男性の気持ちが凄くわかりやすくて、あれを読んでから彼氏とケンカしなくなりました(笑)たくさんの誤解やすれ違いが、あの本によって解かれるといいですね♪
そして、今日のエントリを拝見したところ、なんとDTMをなさるんですね!私もそれらしきことに、ごくわずかに、片足突っ込んでますので、二つの嗜好の一致に驚きました。内容も文章も素敵なブログですね♪きっとまっすぐで素敵な方なのだろうと推察致しまして、コメント差し上げた次第です。
長々と駄文失礼致しました。頑張って下さい!

birdwing_tn 2007-04-03T20:04

はじめまして、PORORIさん。コメントありがとうございました。黒川伊保子さんの本を読まれたんですね。彼氏とのケンカが減った、というのはすごい効果だと思います。男性としては、あの本に書かれているように女性に生きてもらうと、もう何も言えなくなる気がします。とはいえ、たまにはケンカも必要です。ケンカをすることによって絆が深くなることもあるので(笑)。余計なお世話ですが・・・。

おっ。PORORIさんもDTMをされているんですね。ブログを拝見したのですが、渋谷系とか。グロッケンの音色を取り入れたりしているところ、いいですね。ぼくも小山田圭吾さんなど好きなので、ひょっとしたら作っている音楽は近い傾向にあるかもしれません。PORORIさんの音楽を聴いてみたいです。ぼくの作った音楽のほうは、プロフィールのページでまとめて聴くことができますので、もしよければどうぞ。

最高のお褒め言葉ありがとうございます。えーと、「まっすぐ」というのは合っていると思います。でも、現実のぼくに関していえば「素敵」はどうかな、と(苦笑)。いつも体調不調で、ぼーっとしている冴えない人間でございます。

PORORIさんも頑張ってくださいね!!

PORORI 2007-04-03T23:43

黒川伊保子さんはとっても愛らしい方ですよね!しかも知的で、たおやかで…。凄く憧れるし、自分も彼女のようになりたいと心から思います。でも、私はまだまだ子供なもので、ちょっと男性本位すぎないかな?とか思ってしまいますね~…彼女は仏様ですよ(笑)でも、仏様になれるほど、旦那さまのことを愛していらっしゃるからでしょうね~。そうなりたいものです。。あ、ケンカは、ほっといてもそのうちまた殴り合うと思いますのでご心配なく(笑)というのは冗談で、意見のぶつけ合いや話し合いでお互いを理解する機会は不可欠ですよね♪

渋谷系まで読んで下さったんですね!ありがとうございます。あれはオリジナルバンドのCDを作ってまして。内輪なので公開とかは多分しないと思います(>_<)それが終わったら、本格的にDTMの勉強をしようかと思っております。小山田圭吾がお好きなのですね~。コピバンでフリッパーズギターしましたよ♪残念ながら私はオザケン派ですが(^^ゞbirdwingさんの音源、なんだか素敵なニオイがします…時間があるときに絶対聴きます!!

お褒め言葉だなんて(笑)思ったままですよ♪まあ、実際は…わかりかねます(笑)でも私、初めて昔の人が文通で恋をしたためていた気持ちがわかったのです。素敵な言葉を使える人は、絶対素敵な人だと思いました!他のエントリも拝見しましたが、文字から漂う浮遊感に、すっかり惚れ込んでしまいました。

これからまたお邪魔することがあると思います。お子ちゃまな私ですが、その時は何卒宜しくお願いします。

それでは、また。

birdwing_tn 2007-04-04T00:53

黒川伊保子さんの境地に達することができるのは、たぶん30代後半から40代にかけてではないでしょうか。PORORIさんは若いので、ゆっくり時間をかけて磨けばよいと思いますよ。男性も同じで、やはりダンディなやさしさやかっこよさが身に着くのは、40代以上でしょうね。ぼくとしては、外側はもはや難しいものがありますが(苦笑)、せめて内面だけは磨いていきたいと思っています。

おお。フリッパーズギター、懐かしい!コピーされたんですね。オザケンもいいじゃないですか。「犬キャラ(犬は吠えるがキャラバンは進む。現在では改題されてdogs)」は名盤だと思います。何度も聴きました。最小限のバンド構成でせつない世界を聴かせてくれます。「暗闇から手を伸ばせ」とか「天使たちのシーン」とか。そういえば、何年か前のインストのアルバムは買ってないなー。

>文字から漂う浮遊感に、すっかり惚れ込んでしまいました。

ど、どうもです(照)。自分ではわからないのですが、微妙なふわふわ感があるみたいですね、ぼくの文章は。ただ、ぼくは説得力のある言葉を使えるようになりたいとも思っています。なかなか心に響くような表現ができなくて。

ぼくは恋文なんて恥ずかしくて書きませんが、書くとすれば自分の表現力を全部投入して、全力でまっすぐに書くような気がします。なので、凄いことになりそうです(苦笑)。そんなものもらったら困惑されて嫌われそうですが。

ただ、文章・ノットイコール・実際のひと、なので、文章に騙されないようにご注意くださいませ(笑)。きっとほんとうに素敵な男性は、ぐちゃぐちゃブログなんて書かないでしょう。ははは。

いつでも気軽にお越しください。ぼくもPORORIさんのブログを継続して拝見いたします。

>お子ちゃまな私ですが、

お子ちゃまじゃないと思いますよ。しっかりとした丁寧なコメントだと感じました。ブログの文章も楽しいし、さりげない日常の切り取り方が上手いと思いました。

ではでは。

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