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2014年7月21日
そしてビブリオの海へ。
そろそろ梅雨明けでしょうか。海の日。東京はうっすらと青空が見えて、太陽の光が降り注いでいます。やっぱり海の日はこうでなくっちゃ。ええと、海に出かけるつもりはないのだけれど。
久し振りにブログを書きます。書いておかなければとおもいつつ、放置していたことです。もう2か月前になりますが、5月17日(土)、お台場の東京カルチャーカルチャーで開催された「第2回ビブリオバトル社会人大会決勝戦!」というイベントに参加しました。そのときのこと、そしてイベントから影響を受けて広がった読書の世界について書きます。
ビブリオバトルについては耳に挟んでいました。なにやら、バトル参加者が持ち時間のタイムリミット内でおすすめの本を紹介して、観客の判定により勝負を決めるとか。面白そうだとおもっていたのですが、なかなか行ってみる機会がありませんでした。
しかし今回は、ゲストバトルとして、次男がバイブルのように読んでいる『へんないきもの』の著者、早川いくをさん、マイコミのエッセイを読んで文章に惹かれて著書『ハジの多い人生』を買い求めた岡田育さんが登壇されるということで、これは行くでしょ!と参加を決めました。
■カルチャーカルチャーでカルチャーショック
当日のお台場はいい天気。りんかい線東京テレポート駅のかっちょいい建物を出ると、広々とした風景に観覧車が見えて和みました。インドアに引きこもってひたすら仙人のように仕事を続けていた自分には、バツグンの爽快感。スマホのナビにしたがって、てくてくとZepp Tokyoへ。
東京カルチャーカルチャーに入場すると、いちばん良さそうな場所に席を取りました。周囲のひとたちは「おお」「やあ」と顔見知りの方が多いようで、若干閉鎖的な雰囲気に居心地悪さを感じたのですが、ビールを飲んでいたら、そんな気分も薄れていきました。
ビブリオバトルがはじまり、第一部は社会人大会の決勝。じゃんけんで順番を決めると、ひとり5分間の持ち時間で、おすすめの本を語っていきます。会場内には大きなプロジェクターが設置されているので、ひとりひとりの顔もしっかり見えます。
会場内はカーテンが閉められて暗い。ミラーボールが回ってる。司会の方も「晴れた日にこんな暗い場所にお集まりいただき(苦笑)」などと話されていましたが、ぼくは平気でしたね。というのは社会人バンドをやっていた頃に、快晴の日曜日に真っ暗な地下のスタジオにこもって練習をしていたことがあったから。天気がいいから外に出よう!というのは健全な考え方ですが、まあ外にでなくてもいいじゃない、と考えています。
迷ったのは、ワンドリンクオーダーなのでビールを頼んだのですが、食事を食べようかどうしようかということ。びみょうな時間(11;30開場)だったので昼食抜きだったんですよね。お腹が空いてしまって、たこ焼きだったかカレーうどんだったか、食べようかどうしようか最後まで悩んでいました。
いきなりショックを受けたのは、最初のおじさん(失礼)の発表。発表というか、あれはプレゼンそのものですね。5分間きっかりで完璧にお話しされていました。これは凄い。なんという素晴らしいプレゼン能力だろうと感動。
次に会場からの質疑応答で、ムダな質問がないということ。サラリーマン時代にセミナーに参加したときには、たいてい質疑応答の時間に、勢いよく手を挙げて自慢話をして終わっちゃうひととか、何が質問なのかさっぱりわからないけど延々と演説するひととか、そんなうんざりするような質問者に多く出会ったのだけれど、ビブリオバトルの質問は簡潔で、本質を突いた短い質問ばかりでした。そういうルールなのかもしれませんが、観戦者の知的レベルもかなり高いのではないか、と感じました。
5人の方がプレゼンしました。そのうちふたりがマンガ、というのが意外でした。別にマンガは本じゃないとは言いませんが、小説や文章で書かれたものを取り上げるひとが多いだろうと勝手に考えていたので。優勝した女性の方のおすすめもマンガでした。
ひとりの方が小池田マヤさんの『聖☆高校生』をおすすめされていましたが、あ、このマンガ家さん知ってる!とおもって懐かしくなりました。
聖・高校生 (1) (ヤングキングコミックス) 小池田 マヤ 少年画報社 1999-05 by G-Tools |
かなり昔に『すぎなレボリューション』という作品があり、ちょっと読んだら嵌まってしまって全巻コンプリートしちゃったことがあったんですよね。『すぎなレボリューション』は地味で内気なOLさんが、いきなりモテはじめて複数のイケメン男性とお付き合いするようになり、破綻したあげくにケバくて強い女性にブレイクするお話でした。『聖☆高校生』も近いものがあるのではないかと想像。
すぎなレボリューション 全8巻完結 [マーケットプレイスセット] 小池田マヤ 講談社 by G-Tools |
ちなみに、次のゲストバトルも含めて男性のプレゼンは、エロ濃度高めでした(笑)晴れた土曜日にカーテンを締め切った室内で、フェラチオだとか、女性用バイブレーターの歴史だとか、金玉袋についての解説を聞くのはシュールではあるが悪くはないな、という気がしました。でも、美しい女性がたくさん観戦していらっしゃったのですが、大丈夫だったのでしょうか。というか、そういう美女を前にしてエロ談義を爆発させる登壇者に敬意を表します。なかなかできないですね、度胸のない自分には。
社会人バトルの次には、ゲストバトルがありました。
■岡田育さんと早川いくをさんにサインもらった!
岡田育さんはショートカットの聡明な美しい方でした。いや、そこがポイントではなく(そうでもないか、おもわず見とれてしまったので・・・)ぼくが興味を抱いたのは彼女がおすすめしていた、平山瑞穂さんの『四月、不浄の塔の下で二人は』という小説です。
四月、不浄の塔の下で二人は 平山 瑞穂 中央公論新社 2013-09-21 by G-Tools |
岡田さんは「この小説は、ひとりの少女が世界と出会う物語」という解説をされていたかとおもいます。小説の主人公は、新興宗教の閉鎖された社会で現実社会との接触がまったくない状態で育った16歳の女の子です。彼女はある使命のために外部の社会に出るのですが、まったく社会の常識を知らない。そこでひとつひとつ社会について学んでいく。
購入しようか迷ったのですが、先日図書館で借りることができたので、一気に読みました。素晴らしい小説でした。感想はフェイスブックにまとめたものを引用します。
一方、早川いくをさんは、『好辞苑』というエロい単語を辞書ではどう解説しているか、という本を取り上げました。あまりの話の面白さに大爆笑。わいせつな言葉をわいせつではないように解説しようとしたあまりに、かえって妄想を掻き立てる解説文になってしまっているという指摘で、こういう本をどこからみつけてきたんだろう?チョイスする早川さんのセンスも凄いな、とおもうと同時に、トークがめちゃめちゃユーモラスで、こういうひとだから『へんないきもの』のような本が書けるんだなあと痛感しました。
イベント終了後、持っていった本に岡田育さんからサインをいただきました。見返しの黒い紙に銀色のペンで書いていただき、サインのために作ったオリジナルの印を押していただいて満足。サイン中に間がもたなくてつまらない話をしてしまったのだけれど、こういう会話を岡田さんは一番嫌いなんじゃなかったかな、とおもって後でちょっと後悔。サインいただいた本は宝物です。
続いて、早川いくをさんとお話しして、会場で購入した『ウツ妻さん』にサインいただきました。実は、早川さんは以前勤めていた会社の神宮前のオフィスで同じフロアで働いていた時期があり、ちょこっとだけ面識があるのです。年賀状をお送りしたら、カプセルに入ったご自身の写真の年賀状をいただいて、そのインパクトはいまも覚えています。
ウツ妻さん 早川いくを 亜紀書房 2013-10-16 by G-Tools |
この『ウツ妻さん』なのですが、イベント後に読んで冒頭で不覚にも泣きました。
ぼく自体がうつ病を患い、仕事を続けられなくなって前職を解雇された経験があります。「うつみたいな気分なんて誰でもなるものでしょ?」と勘違いされている方もいるのですが、うつ病はそのうつな気分が「日常生活を正常に維持できないレベルに達したもの」であり、かつ「精神的な状態が身体的に影響を与えるレベルになったもの」とぼくは考えています。具体的に言うと、ぼくはふだんと同じように起床して出社できない状態になってしまったし、不安による胸部の圧迫感で呼吸困難に陥った経験があります。
早川さんの本で感動したのは、うつ病になった奥さんへの「忍耐力」「情報収集」「理解」です。うつ病は人間性と切り離すことが重要ではないかと経験から考えるのですが、早川さんは、とにかくぼろぼろ泣いたり不条理なことを言い出す奥さんに耐え、どうすべきか情報収集し、理解に努めようとしています。奥さんのために絵本まで作っちゃうのは凄い、とおもいました。もはや愛情を超えている気がする。
たくさんのうつ病に関する本を読み漁りましたが、うつ病に悩む方、そしてそのご家族の方にこの本は大いにおすすめします。難しい解説書より役立ちます。そもそも実体験が記されているノンフィクションであり、共感するとともに、奥さんが「レインボーマン」に傾倒したエピソードには大笑いしてしまいました。
うつ病は治そうとやっきになるよりも、周囲のひとたちも含めて共存の中からベストで楽な生き方を選んでいくことが大切だと考えています。あるいは生きる楽しみを見出していくことが大切でしょうか。新居の契約金100万円が消えてしまってもいいじゃないですか。どんなに失ったり損なわれたりすることがあっても、自分の価値は誰にも貶められないことを信じていけば「だーいじょーぶ」なのです。
『ウツ妻さん』、いい本です。
ちなみにこれが岡田育さんと早川いくをさんのサインです。載せちゃっていいのかな。でも、うれしかったので載せちゃいます。
■早川ワールド炸裂。『カッコいいほとけ』が超面白い!
その後、早川さんから本をいただきました。『カッコいいほとけ』です。
カッコいいほとけ 早川 いくを 幻冬舎 2011-09-08 by G-Tools |
この本が超面白い!仏教に関しては、教えに焦点を当て、仏教的な心の持ち方であるとか、迷いのない人生の送り方など啓蒙書が多い気がしています。しかし、この本は人生指南でも何でもありません。仏教に登場するキャラに焦点を当てたカルト本です。
さまざまな宗教が合体したり、インドやチベットや中国を伝承するうちにキャラが変遷していったミュータント化を追いかけた「仏教キャラクターカタログ」あるいは「エンタメ仏教本(帯の文言)」なのです。くまモンやふなっしーなどいわゆる「ゆるキャラ」が流行していますが、仏教キャラはおもいつかなかった。そうきたか。
『カッコいいほとけ』では、文殊菩薩、普賢菩薩、阿修羅など、仏教に登場するキャラをバトルカード風の解説と、その変遷を「清純派アイドルは昔こんなAVに出演していた!」的な週刊誌のゴシップみたいな調子で暴いていきます。ときおり強調される太文字部分も秀逸。いやー大笑いしながら読みました。
しかもイラストは、あの『へんないきもの』の寺西晃氏。ちょーカッコいいほとけキャラが、へんないきものとして迫力の画筆で描かれています。このほとけたちのイラストも素晴らしい。
残念ながら『へんないきもの』のように『カッコいいほとけ』はブレイクしませんでいたが、ぼくの中ではマイブームだったりします。この本を片手にお寺を回りたいですね。仏像を拝観しながら、思わず笑っちゃいそうですが。
■ビブリオの海へ。だから読書はやめられない
先日、千田拓哉さんの『人生で大切なことはすべて「書店」で買える』を読了しました。この著者はずっと気になっていた方で、やっと出会えることができた、よかったという感じです。
人生で大切なことは、すべて「書店」で買える。 千田 琢哉 日本実業出版社 2011-07-28 by G-Tools |
高校時代はマンガしか読まなかったのに、大学4年間で1000万円分4万冊の本を購入して読んだとか。20代に向けた本なのですが、読書に対する姿勢、本を愛する気持ちに共感しました。たとえば次のような章タイトルと内容が心に刺さりました。
・本を読んでいる人はタフになる
・あなたの本棚はあなたの将来の鏡
・苦手な本を読むことは苦手な人と付き合うための予習
・本から学べなければ何からも学べない
・当事者意識、問題意識を明確にして読む
・ハズレ本を当たり本に変えられるのが知性
・勝手に読み間違えていく人がどんどん挑戦し成功していく
・いつも群がっている人は真の成功者にはなれない
本はひとが書いたものである以上、そのひとと同等の価値があるという考え方に同感です。どんな創作も表現である以上、書かれたものには書き手の世界観や価値観が滲み出すものです。それを感じ取れるかどうかは読者次第。読者の感性によります。千田拓哉さんはマンガも本の1つとして認めているし、スピードも自由、量や質も関係ないけれど、読んでもいないのに「ベストセラーには面白いものがない」と斜に構えて批判するような態度は戒めます。確かにそうかもしれません。
上記の項目にもありますが、どんなものからも「面白さ」を引き出すのが「知性」という見解にはあらためて考えさせられました。たとえば「ツイッターがつまらない」と物知り顔で言うひとは、面白さを引き出せなかった自分がつまらないだけで、知性がないだけかもしれない。
机の上にどんと分厚い本を積み上げて「この本は3万円したんだぜ」とか「オレは年間300冊本を読むんだ」とか「いまこんな難しい本を読んでいるんだ。きみは読んでないよね」とか、どーでもいい自慢をする陳腐な人間にはなりたくありませんが、読書を楽しみ、楽しさを分かちあえる人間でありたいとおもいます。
ビブリオバトルをきっかけに、読書の新しい楽しみ方をひとつ知りました。電子書籍にしてもリアルな書店にしても、本を探すことが楽しくなりました。あらたな本との出会いを期待しています。ビブリオの海の向こう側に。
投稿者 birdwing : 2014年7月21日 19:29
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