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2006年3月12日
範列と統辞。
難しいことを思い出しちゃったので、メモとして書いておくことにします。しかしながら難しいことなので、よく理解していません。間違っているかもしれない。ほんとうはきちんと調べて書きたいのですが、あくまでもメモ、ということで。
学生の頃に記号論を学んだとき、範列(パラディグム:Paradigms)と統辞(サンタグム:Syntagms)という言葉を知りました。ソシュールの考え方を基盤に、ローマン・ヤコブソンというひとが定義したようです。
どういうことかというと、「僕は電車に乗ってきみに会いに行く」という文章があったとき、時間的な推移で線的に統合されている「僕」「乗って」「行く」という言葉は、統辞関係にある。一方で「電車」という乗り物は「タクシー」だっていいわけです。駅まで遠ければ、タクシーつかまえた方が早い。この文章ではタクシーのように、現前では選択されなかったけれども頭脳のなかには存在している交通機関のような言葉は、範列関係にある(のではないかな?)。書かれていない背景にある言葉、「ぼく」が選択しなかった言葉は範列関係ということです。
音楽でいうと、メロディというのは時間的な文法によって流れていくので、統辞的な関係にあります。一方で、和音というのはメロディの背後で範列的な広がりを作るものかもしれない。マッシュアップやリミックスは、もともと統辞的な力でつながれていた曲を分解して、あらたな統辞関係を(ときには強引に)創るということかもしれません。ただ、ひょっとするとその関係は、あまりつながりが強くないものだったりもする。ぼくはDTMで創った曲をmuzieで公開しているのですが、「Wakusei」という曲ではベースラインは変わらずに、その上に乗るメロディと和音的なものがどんどん変化していく、ということをやろうとしました。それは範列的な展開をめざしていたのかもしれません。
映画では、たとえば緊迫したサスペンスのシーンで、まったく関係のない窓の外の空が映し出されたりすると、範列的である。いままさに誰かが殺されようとしているわけで空どころじゃないでしょ、と思うのだけれど、効果的に使った場合、そのカットが映画に深みを与えることにもなります。しかし、このようなカットを多用すると空間的な広がりはできるけれども、逆に物語的な力は弱くなる。映像詩的な要素が強くなるわけです*1。
乱暴ですが、範列=詩的表現、統辞=小説的表現という方法論になるかもしれません。横と縦の関係といえるかもしれない。そもそも、ぼくがこのことを思いついたのは、プレジデント3.20号の特集「「考え方」革命」のなかで、縦の論理と横の論理という思考プロセスについて書かれていたからです。縦と横、のほうがわかりやすいですね。ついでに高さを付け加えると、立体的になりそうです。
一方で、検索エンジンやテキストマイニングの世界においても、語と語のつながりが重要になってきます。自分の日記内における言葉と言葉のつながり方(文脈)は、統辞的であるといえるでしょう。一方で自分の使っている言葉と、誰か他のひとのブログのなかにおけるその言葉の使われ方は範列的になる。
先日クリエイティブ・コモンズについて書いたところ、phenotexさんからトラックバックをいただいたのですが、ぼくにとっては「受験」と「著作権」は統辞的な関係にない言葉でした。ふたつの言葉のつながりが考えられなかった。しかしながら、phenotexさんのブログで、赤本が訴えられたというニュースを知り、うわっと思った。同じ内容を扱っているブログも参考になるのですが、まったく違ったところから範列的なつながりができるのも面白い。知識の幅が広がるわくわく感があります。
と、まあ、ぼくはこういう理屈っぽいことを考えるのが好きなんだと思います。
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■記号論の本をもう一度ひもとこうと思ったのですが、本棚のどこに入っているか探すのが面倒で断念。インターネットで検索したところ、以下、非常に充実しているテキストに出会いました。Googleのめざしている世界かもしれませんが、本のテキストがインターネット上でアーカイブされたら、ものすごく便利になるような気がします。社会が変わるんじゃないだろうか。内容自体を知りたいときには別に本という形態じゃなくてもいい。でも、紙の質感は捨てがたいですけどね、個人的には。
Semiotics for Beginners-初心者のための記号論-
http://www.wind.sannet.ne.jp/masa-t/
■こちらはPDFファイルです。東京大学の講義資料のようです。
http://ocw.u-tokyo.ac.jp/course-list/interfaculty-initiative-in-information-studies/information-semiotics-2005/lecture-notes/2003-5.PDF
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*1:参考:Semiotics for Beginners-初心者のための記号論-
http://www.wind.sannet.ne.jp/masa-t/hannretutougo/hannretutougo.html
投稿者 birdwing : 2006年3月12日 00:00
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