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2006年12月25日

私的ウェブ人間論-1:情報の参照

梅田望夫さんと平野啓一郎さんの対談による「ウェブ人間論 (新潮新書)」は非常に興味深い本でした。もっと読みたい、と久し振りに感じた本です。

しかしながら、もっと読みたい、という気持ちを突き詰めていくと、自分はこう考える、という表現に結びつくのではないでしょうか。つまり、Web2.0と同様に書籍2.0というものがあるとすれば、印刷された本は変更不可能だけれど、そこにブログなどで付加情報を加えていくことが可能なはずで、多様な解釈を試みる、読者として書かれた議論に参加する、本に書かれたことを刷新していく、という可能性がひろがります。

それがブログ時代における新しい書籍の在り方のような気もしています。本を読む、ブログで感想を書く、誰かと話し合うというように、本とネットが連携した楽しみがもっと増えていけば、活字嫌いな子供たちも本を読み始めるのではないでしょうか*1

そんなわけで、一年の締めくくり(まとめ)として、また2007年というすぐそこにある未来の自分を考えるために、今日から数回に分けて、「ウェブ人間論」に書かれていることから考えを深く掘り下げてみたいと思います。

▼ウェブ人間という進化

梅田さんは、あとがきで本のタイトルについて次のように書かれています。引用します(P.202)。

ところで『ウェブ人間論』というタイトルの本書は、「ウェブ・人間論」と「ウェブ人間・論」との間を往来していると言える。
ウェブが広く人間にどう影響を及ぼしていくのか、人間はウェブ進化によってどう変容していくのだろうかという意味での「ウェブ・人間論」。
グーグル創業者や世界中に散らばるオープンソース・プログラマーのようなウェブ新世界を創造する最先端の人々、ウェブ進化とシンクロするように新しい生き方を模索する若い世代、そんな「ウェブ人間」を論ずる「ウェブ人間・論」。
この二つの「論」が「クモの巣」の放射状に走る縦糸と同心円を描く横糸になって、本書は織り成されている。

検索によってまだ誰も使っていない本のタイトルを付けるという梅田さんらしい考え方なのですが、ぼくはといえば、後者の「ウェブ人間・論」のほうが面白いと思いました。というのも、前者においてはウェブと人間はまだ融合していない印象があるのですが、「ウェブ人間」というのはそれこそスパイダーマンのように、突然変異(ミュータント)のような感じがする。

ちなみにシリコンバレーで働くひとたちの新しいスタイルを紹介した本に、渡辺千賀さんの「ヒューマン2.0 web新時代の働き方(かもしれない)」という本もあります。

ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)
渡辺 千賀


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ちょうど本日購入して読み始めたのですが(現在、P.52を読書中)、この本、いいです。ブログそのままの文章で、ものすごく歯切れがよくて爽快な感じ。脚注も楽しくて、ついつい読んでしまいます。実は、まだブログがよくわからない頃に、渡辺千賀さんのブログ「On Off and Beyond」に無謀にもトラックバックしたことがあり、コメントまでいただいちゃったのですが、実はひええなほど凄いひとだということにその後に気付き、無知って怖いな、恐れを知らないことって無謀だよな、でもしあわせかも、と思ったものでした。そんなことが起きるのもブログのよさだったりします。トラックバックという参照による恩恵です。


▼参照するひと、収集するのではなくて


ウェブは集合知(Wisdom of Crowds)である、といわれます。既に2005年に梅田望夫さんはブログで複数の方の見解を踏まえつつ集合知について書かれているのですが(上記の渡辺千賀さんの記事も引用されています)、多様性・独立性・分散化・集約性という4つの観点から、インターネットが知を集約するシステムとして優れているという視点は、ぼくには疑いようのない事実であるように思いました。


この視点から導き出される「ウェブ人間」の特長は、「所有」するのではなく「参照」するというスタイルが特長的ではないでしょうか。多くの議論で既に述べられていることだと思いますが、自分で持っている知識ではなくても、あそこに行けばあるよ、あのひとが知っているよ、という情報があるだけでいい。ナビゲーターや標識のようなものかもしれませんが、情報の方角を示すことも、有意義な情報に成り得る。


つまり、「ウェブ人間」はコレクター(収集するひと)ではなくて、参照するひとかもしれませんね。というのは、これだけ情報が膨大になると、個々がアーカイブしようとすると、莫大な容量の個人のストレージがなければ追いつかない。ハードディクスなら増設すれば済む話かもしれませんが、ぼくらの脳を増設することはできない。だから他人の脳を借りる、他人の脳を参照するわけです。


個人的かつアナログな話でお恥ずかしいのですが、年に100冊読むと決めてから、ぼくの書棚は莫大に膨れあがりつつあります。いま背中の1メートル手前まで本が押し寄せてきている。しかしながら、例えばハードカバーであれば2000円近いものをわざわざ購入して所有する必要があるのか、というと疑問を感じる。これもまた個人的にロングテールな状況になっていて、ほんとうに大切な本は、膨大な書棚の一部分でしかない。あとは内容すら忘れているものも多い。けれども、とんでもないときに、ああそういえばあの本のアレが読みたい、あれどこにあったっけ?と思うこともある。


古くは図書館というシステムがあり、またビデオレンタル、古本屋というビジネスも生まれてきましたが、メディア(記録媒体)というものがなくなると、コンテンツ自体を貸し出す形に進化していく。YouTubeも引用されることに意義があり、もちろんコンテンツが消されてしまうこともあるのですが、いつでもそこで観ることができる、という手軽さがよい。


▼インデックス情報の価値


位置情報(あの情報があそこにある)という情報だけをアーカイブしておけば、個々の情報の負担はものすごく楽になります。情報をインデックスする、ということかもしれません。


と考えていて、どこかで読んだ記憶があるな、と思ったら、朝日新聞の東京本社の編集局長である外岡秀俊さんが書かれた「情報のさばき方―新聞記者の実戦ヒント」という本にあった言葉でした。


情報のさばき方―新聞記者の実戦ヒント (朝日新書)情報のさばき方―新聞記者の実戦ヒント (朝日新書)
外岡 秀俊


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5つの基本原則を挙げられているのですが、その第一が「情報力の基本はインデックス情報である。」ということでした。学生時代に本好きだった外岡さんは数千冊の蔵書があったそうですが、田舎に送ろうとダンボールに詰められた本をトラックの荷台に放置しておいたところ、それらが全部消えてしまった。けれどもそのときに、かえってすっきりした気分になったとのこと。それから物としての情報を捨て、インデックス情報を重視するようになったと書かれています(P.26)。


偶然にも、渡辺千賀さんの本にも、読んだ本は処分するという話もありました。大量の情報を楽しみ、執着することなくその情報の波を泳ぎきる逞しさというか気軽さも、「ウェブ人間」の特長かもしれません。そんな軽さ、フットワークのよさを見習いたいものです。


そのためには、ぼくの場合、まず背中に壁のように迫ってきている本棚の本をなんとかしなくちゃ、という感じでしょうか。一年もあとわずかで終わろうとしていますが、なかなか忙しくて片づけている時間も気力もないのですが。


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さて。ここからは余談です。クリスマスだというのに、どういうわけか自分の知的強化をはかりたい気分が高まってしまい、本日も書店で7冊もの本を購入。ついでに、音楽CD(DVD含む)も3枚購入。あまりにも軽量化した財布にはっと気付いて青ざめましたが、気持ちはなんとなく豊かな感じです。年末の楽しみがたくさん増えました。


Takamineのギターを中古で購入したのですが、Takamineのサイトで押尾コータローモデルのギターがあることを知り、このひとはどういう音楽を演奏するのかな、なんか名前からするとあやしそうだ、と思っていたのですが、本日某CDショップで試聴して、一曲目の「Big Blue Ocean」を聴いて思わず涙出ました(いやほんとうに)。ハーモニクス響きまくっているし。5曲目の「クリスタル」もいい。ぼくのツボかも。明るい。明るいんだけど切ない。衝動的に購入してしまいました。某ショップでCDを試聴しながら泣いていた冴えないスーツ姿をみかけたひとがあれば、それはぼくです。

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DVD付きなのですが、DVD観ている暇がありません。そういえばBECKの「The Information」のDVDもまだ観てません。


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YouTubeでみつけました。


■押尾コータロー - Big Blue Ocean


*1:ということを書いて、渡辺千賀さんのブログを読みにいったら、まさに「Book Club」というエントリーでした。アメリカでは定期的に集まってわいわい本について語り合うことが盛んなようです。なんだか楽しそう。

投稿者 birdwing : 2006年12月25日 00:00

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