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2007年1月30日

「イノベーションの軸」前野拓道

▼book07-003:ポッドキャスティングでいいのかどうか・・・。

4806527599イノベーションの軸
経済産業調査会 2006-11

by G-Tools

世界各国がイノベーションを重視し、日本でも政府が掲げた「新しい考え方でつくる」というスローガンによって考えることが重視されつつある――そんな政治的な観点から、さまざまな書物、映画、文芸作品などジャンルを横断して取り上げ、革新的なソリューションを生み出すための思考とは何か、ということについて考察されている本です。しかしながら、率直な感想を述べてしまうと、この本はダメだ・・・と思いました。

ぼくは雇われて書評を書いているライターではないので、あくまでも私見によって(たとえベストセラーでなくても)自分がよいと思ったものは絶賛するし、ダメなものはダメだと誠実に言いたい。それをポリシーとしたいと考えています。そこでぼくは正直に言うのですが読後に、これじゃあダメだ、イノベーションどころではない、と強く感じました。

何がダメかということを考えてみると、ポッドキャスティングというソリューションありきで構成されていて、その結論を導くためにロジックを組み立てているからです。前半では幅広い分野を横断する知見にわくわくして、おおぼくもこういう文章を書きたいぞと思ってみたり、何枚も付箋を貼ったりもしたのですが、第6章以降の後半は、率直に言って読むに耐えない内容でした。ひどいと思います。というのも、世のなかの事象を取り上げつつ、かならず最後は"こんなときにはポッドキャスティング"で落としてあるからです。まるで水戸黄門の印籠のようにポッドキャスティングが出てくる。その度に、またか...と、いい加減うんざりでした。

たとえば高齢化社会の到来を踏まえて、おばあちゃんと子供のコミュニケーションにポッドキャスティングという提言もあるのですが(P.170)、はたしてポッドキャスティングが最適なソリューションなのでしょうか。FOMAが進化して完全にテレビ電話になれば、電話という手段のほうがお年寄りには身近だと思うし、一方でWiiにカメラのような周辺機器が付属すれば、ゲーム機から爆発的に利用が拡大する可能性もあります。あまり賢いとはいえないないぼくでさえそれぐらい考えられるのに、お年寄りにポッドキャスティング、という発想は無理がありすぎると思いました。新しい考え方を生み出すよりもまず先に、思考停止しているのではないか。

仮説ありきでロジックを組み立てるのは、コンサルティングの常套手段ではあります。けれども一方で、オプション(選択肢)をいくつも考察するのも大事ではないでしょうか。新しい考え方とは多様性を容認することである、と著者は本のなかで書かれているのに、ポッドキャスティングがあらゆる問題を解決する、という一元論的な結論に強引に導く論旨には大いに疑問です。

と考えると、前半の政治の問題や考える時代の到来という論点とポッドキャスティングというソリューションのあいだにも、大きな溝があります。まったくつながらないものを無理やりに接合している。たくさんの引用によって説得されそうになるのですが、どれだけ情報を積み重ねても、この論旨は違うなと感じました。

しかしながら、こういうロジックを使うことは多いですね。データベースを売るためにCRMを提案するとか、提案したい結果を導くために情報を収集するとか。それは世のなかのペイン(痛みや課題)に目をつぶってしまうことになりかねません。まず、現状をしっかりとみつめ、耳を澄ますこと。そして、現状から導き出される結果を可能な限り誠実に「考える」こと。その上で、優先順位を付けてほんとうの結論を見出すことが重要ではないかと思いました。また、ブロガーがいちばん嫌うのは、ほんとうによいものを薦めるのではなく、商業的な(あるいは政治的な)意図により、現実をねじまげて提案するような姿勢ではないでしょうか。頭のいいひとは得てして結論から入りがちですが、もう少し現実をみつめたほうがよいのではないか。頭の悪いぼくはそう思います。

非連続的な思考、飛躍する考え方の重要性についてブログに書いたのですが、それは発想の転換であって、売りたいがためのものを無理やりに持ってくるものではないと思います。ポッドキャスティングには可能性を感じているのですが、それが効果的に使われる場所を論じるには、政府の施策ではなく、ぼくらの生活を分析する必要がある。さらに可能性を論じるためには技術的なことも深く掘り下げる必要があるのですが、この本では、少しもそのことには触れていません(きっと技術がわからないおじさんに向けて書かれているのかもしれません。そういうおじさんたちはこの本を読んで短絡的に、これからはポッドキャスティングだ、とか言っちゃうんでしょうね。どういうものかも分からずに)。

茂木健一郎さんの講義を聴くときには、ポッドキャスティングって便利だと感動しましたが、この本を読んで逆にイノベーションとしてポッドキャスティングを推進しようとする考え方に眉唾なものを感じたというか、疑問が深まってしまいました。

ポッドキャスティングの啓蒙のために書かれた本であれば、もっと直球勝負で(考える時代やイノベーションなどの言葉を振りかざさずに)書いた方がよいのではないでしょうか。逆にイノベーションについて書くことが目的であれば、ポッドキャスティングは内容の一部にとどめておくべきか、むしろ不要な気がします。1月30日読了。

※年間本100冊プロジェクト(3/100冊)

投稿者 birdwing : 2007年1月30日 00:00

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