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2007年3月31日
「天才論―ダ・ヴィンチに学ぶ「総合力」の秘訣」茂木健一郎
▼book012:天才もひとりの人間、でこぼこな人生を容認すること。
天才論―ダ・ヴィンチに学ぶ「総合力」の秘訣 (朝日選書 818) (朝日選書 818) 茂木 健一郎 朝日新聞社 2007-03-16 by G-Tools |
東京国立博物館でダ・ヴィンチの「受胎告知」が公開されていますね。観に行きたいのですが、うちの家族はこういうことに対して異様にノリが悪い。パパはひとりで行っちゃうもんね、と拗ねてみたくなります。子連れで行くようなものでもないかもしれないし。
既に何度もブログのなかで文章を引用させていただいたのですが、茂木健一郎さんの「天才論」は、レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯を茂木さんの視点から再構築しつつ、創造性について、あるいはぼくらが創造的に生きるためのヒントを示してくれる本です。前半部分のダ・ヴィンチの仕事について解説されている部分は、なるほどなと思うもののそれほど深い知的な刺激はなかったように思うのですが、後半からの待ってました!という感じの茂木さん真骨頂的な言説には考えさせられるものが多くありました。
総合力の重要性を説きながら、「でこぼこ」のある人間であることを肯定するところが茂木さんらしい。すべての力を平均的に持っていることが大切ではなくて、知的好奇心の網を多方面に広げながらも、いびつな個性を発揮する。そんな不器用な生き方をあたたかくみつめる視点がやさしくて、読んでいてほっとします。
天才というのは天から与えられた才能だから、なりたくてなれるものではないし、そもそもダ・ヴィンチにはなれません。けれども天才もまたひとりの人間であるということを理解するとき、才能や作品の意味が変わる気がしました。
ダ・ヴィンチは遠い過去の手が届かない存在ではなくて、同じ人間として、ぼくらのように仕事もしながら、いろんな悩みや変わった癖(ダ・ヴィンチのようにホモセクシャルな趣味はありませんけどね)なども抱えつつ生きてきたわけです。作品は凄いけれど、人間として考えるならば、ぼくらとそれほど変わっているわけではない。そういえば、ダ・ヴィンチ的なひとはどこにでもいます。プチ・ダ・ヴィンチになら、なれそうな気もする。いや、なれないかー。
正確な解剖図を描くことができた彼は、実は人間を(愛情の外で)機械的に見ることしかできなかった、というダ・ヴィンチの特異な感覚について触れられている部分には、興味深いものがありました。
ここで茂木さんは、彼は人間を機械的にとらえる目と文学(芸術)的にとらえるふたつの目を持っていたことを指摘されています。文学的な視点からは、たとえば愛するひとの身体はロマンティックな感情でみつめる。ところが、科学的な視点からはそのメカニズムに注目することになり、性愛の行為もひとつの生殖活動にすぎなくなる。確かに文学的な視点と科学的な視点という「ふたつの目」を獲得し、共存させることは難しいものです。難しいけれども「ふたつの目」があるからこそ世界の見え方は面白くなると思うし、ふたつの目があるにもかかわらず、結局は偏った生き方しかできない人間にぼくは魅力を感じます。
バランスなんて崩しちゃってもいいじゃないですか。ときには常識なんてひっくり返してしまってもいい。けれども、子供たちの世界に関していえば、バランスを崩した存在は異端ではあり、だからこそバッシングを受けたりいじめにもあったりする。いつでも平均的な人間が求められるし、常識があることがいちばんだと思われているものです。だからみんな同じスタイルになる。
常識や効率と創造性は、まったく違った価値観のもとにあるものかもしれませんね。ただし、究極の理想は、常識や効率を追求しながら創造的であるという折衷案かもしれない。
大人たちが考えるべきことは、バランスを崩した「でこぼこ」な子供たちを守ってあげることでしょうか。でこぼこな能力のなかに未来を変える天才の芽がある、ということをきちんと理解することであって、でこぼこを一生懸命に潰して均してしまうことが教育ではない。でこぼこを生かすような環境を整えておくことだと思います。決して、社会からはみ出した存在にするのではなくて。
自分のなかにある「でこぼこ」がいとおしく思えること。でこぼこの自分のままでいいと安心できること。天才にはなれないけれども、できれば自分の子供たちは準・天才的に育っていってほしいものですよね。そのためには無理矢理に常識を押し付けるのではなく、何時間やっても飽きないぐらいに興味を持った何かを支援してあげることも必要でしょう。そして、でこぼこのままでいいんだよ、と言ってあげることが大切かもしれません。3月26日読了。
※年間本100冊プロジェクト(12/50冊)
投稿者 birdwing : 2007年3月31日 00:00
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