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2007年9月30日

[掌編小説] 青い鳥のおはなし。

Twitterというミニブログを併用しているのですが、そちらでは文字制限(140バイト:2バイトの日本語の場合、70文字)があって長文は入力できません。長文を入力すると画面で怒られてしまいます。

そもそもTwitterは、What are you doing? というサブタイトルにある通り「いま何してる?」という言葉でつながるというコンセプトでサービス展開されたブログでした。つながることもできるので、SNS的でもあります。そんなもの何に使うんだ?という批判もあったのですが、かしこまって書かなくてもいいので、メモ代わりとチャット風のプチコミュニケーションに何かと利用しています。

ところで、妄想過多なぼくは、ぼーっとしているあいだに曲を考えたり、物語を考えることがよくあります。

土曜日に仕事の待ち時間を利用して15分ばかりでささやかな物語を書き上げたのですが、それをTwitterにアップしてみました。「ついったー掌編小説」という試みだったのですが、Twitterはアップしたものから下に送られていくため読みにくいので、ここで全体を再掲載してみます。


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青い鳥のおはなし
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作:BirdWing

空が大好きな少年がいました。
とてもきれいな青空のある日、
「ぼくはこの青空を、これから10年のあいだ好きでいるんだ!」
と、少年は空を見上げて誓いました。

ところが空は、少年に冷たい雨を降らせました。
空に悪気があったわけではありません。
雨は生き物にとっては、とても大切な恵みなのです。
けれども、その冷たい仕打ちを勝手に勘違いした少年は、
むっかー!こうしてやるっ!
と、空に向かって石を投げつけました。

重力の法則にしたがって、投げた石は少年の頭に。
ぽこん。きゅう。
少年は意識を失いました。

***

目覚めてみると、少年は
一羽の青い鳥になっていました。

どうしたんだこれは。でも、ぼくは飛べるぞ!
彼は空の高みに向けて飛び立ちました。
これで大好きな空に近づくことができる!
ところが、どこまでいっても空に近づくことはできません。

青い鳥は空のために歌を歌いました。
けれども、その歌は空には届きませんでした。
青い鳥は羽を抜いてペンにして想いを書き綴りました。
けれども、その文字は空には届きませんでした。
いたたまれなくなった彼は、空に向かって飛び立ちました。

***

どれぐらい飛んだことでしょう。
凍えるような寒さに、ふと見上げると
頭上には、きらきらと輝くオーロラが。
その光の帯はまるで夢のようでした。

きれいだなあ。
そして青い鳥は思いました。
空に届かなくてもいいや。
こうして、きれいな空を見守ることができれば。

星が降り注ぎ、月がなんども満ちたり欠けたりするあいだ
彼は空を見守り続けました。

そうしていつか、静かに、
青い鳥は疲れた羽を閉じて、深い眠りに落ちたのでした。
とてもしあわせそうな顔で。
青空を見上げていた、少年のときの顔つきで。

<了>

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Twitterでは上記の物語を1行ごと投稿していったのですが、リアルタイムでコメントをいただいてものすごくうれしかったです。書いた直後に感想をいただけるなどということは、印刷の出版ではあり得ないことですよね。すごい時代になったものです。

えー、ここからは物語の書き手の立場から理屈っぽいことをメモするので、純粋に物語だけを楽しみたい方は読まないほうがよいでしょう(苦笑)。

構造主義の流れで、昔話を機能から構造化したのはウラジミール・プロップだったかと記憶しています。Wikipediaのウラジミール・プロップのページに「昔話の形態学 (Morphology of the Folktale)」として昔話の構造31の機能分類があったので引用します。

01.「留守もしくは閉じ込め」
02.「禁止」
03.「違反」
04.「捜索」
05.「密告」
06.「謀略」
07.「黙認」
08.「加害または欠如」
09.「調停」
10.「主人公の同意」
11.「主人公の出発」
12.「魔法の授与者に試される主人公(贈与者の第一機能)」
13.「主人公の反応」
14.「魔法の手段の提供・獲得」
15.「主人公の移動」
16.「主人公と敵対者の闘争もしくは難題」
17.「狙われる主人公」
18.「敵対者に対する勝利」
19.「発端の不幸または欠如の解消」
20.「主人公の帰還」
21.「追跡される主人公」
22.「主人公の救出」
23.「主人公が身分を隠して家に戻る」
24.「偽主人公の主張」
25.「主人公に難題が出される」
26.「難題の実行」
27.「主人公が再確認される」
28.「にせ主人公または敵対者の仮面がはがれる」
29.「主人公の新たな変身」
30.「敵対者の処罰」
31.「結婚(もしくは即位のみ)」

ぼくが書いたのは昔話ではありませんが、プロップの機能から考えてみると、次のような機能を組み合わせて作っているのではないかと思います。

「加害または欠如」 →石を投げる
「主人公の新たな変身」 →青い鳥になる
「主人公と敵対者の闘争もしくは難題」 →歌を作る、文章を書く
「主人公の出発」 →飛び立つ
「主人公の移動」 →オーロラの見える場所へ移動
「発端の不幸または欠如の解消」 →しあわせに眠る

物語を考える上では、このような機能や構造が重要ではないか、と考えています。いま本棚のどこにあるかわからずに探し出せないのですが、映画のシナリオ(脚本)作法の「ハリウッド脚本術―プロになるためのワークショップ101」 にも同様のことが書かれていました。

484590117Xハリウッド脚本術―プロになるためのワークショップ101
ニール・D・ヒックス
フィルムアート社 2001-03

by G-Tools

長男くんが大好きなドラゴンクエストなどのRPGも基本的には伝承されてきた昔話などの機能を組み合わせて作られていることが多く、新しいようで実は古い。

そして実はこのフレームワークを認識することが、世のなかという「物語」を読み解く上では重要になってくるのではないでしょうか。もちろんフレームワークに固執すると、たとえば「起承転結」的な呪縛にとらわれて動きがとれなくなりますが、そこで意識的に「結」を別の機能に置き換えてみるとか、そんな発想がイノベーションを生むのではないか。

物語をデザイン(=設計)するという観点から、そんなことを考えてみました。

投稿者 birdwing : 2007年9月30日 16:34

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