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2006年5月26日

「メタファー思考―意味と認識のしくみ」瀬戸賢一

▼book06-038:思考すべてがメタファー。

4061492470メタファー思考―意味と認識のしくみ (講談社現代新書)
講談社 1995-04

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文章術のレトリックとして認識していたメタファーが、実は世界をとらえる意識の働きであり、英語であっても日本語であっても、例えば「明るい」という表現は光にあふれているという現象だけでなく、「見通しが明るい」のようにクリアになったことに使われるという指摘が面白いと思いました。しかしながら、表現方法の解説に終始していて、もう一歩高いレベルの見解まで到達していないところが残念という気がします。全体の大半を費やされている例文については図表としてまとめて、そのなかの特長的な表現についてさらに深い考察ができるのではないでしょうか。モノの運動を分類して、すべてを丁寧に解説されているのですが(この運動を分類したアイコン自体は興味深いものがありました)、なんとなく読んでいて焦点がぼけていく印象があります。

たとえばぼくが面白いと感じたのは、「乗り越える」と「回避する」という表現ですが、例えばこれを岩ではなく「課題を乗り越える」「課題を回避する」といったときに、課題は物質ではないけれども岩のような物質に思えてくる。そして、「乗り越える」は課題をよじ登って「上」をよいしょと通過するのに対して、「回避する」は岩の「左」もしくは「右」を遠回りする印象があります。そして「上」には「上流」のようなポジティブな印象がある。だから、「乗り越える」は自発的かつよいイメージなのですが、「回避する」のほうはいまひとつ前向きではない。到達点および、向こう側へ行く、という目的は同じであったとしても、です。

さらにこれが何か、ということを考えたのですが、人間が地面に足をつけて立つ生き物だからではないか、と思いました。つまり地面という「道」を行くことは簡単にできるのだけど、重力に逆らうことには抵抗がある。けれどもこの抵抗を突き抜けて向こう側へ行きたいという思いを実現することが理想でもある。「乗り越える」の究極は「飛ぶ」だと思うのですが、地面から遠く離れて空へと向うことが、長い間の人間の夢であったかもしれません。もちろんいま飛行機で飛ぶ夢は実現していますが、人間そのものはやっぱり飛べない。背中から翼でもにゅーっと伸びるぐらいに進化すれば別ですが。

というのは、この本から考えたぼくの稚拙な考察ですが、この本のなかに点在している視覚的メタファー、空間的メタファーについての考察を横断して、さらに文学や映画をその視点から考察を加えて論じると、面白いと思いました。そういう意味では、さまざまな示唆を与えてくれる本ではあります。5月26日読了。

*年間本100冊/映画100本プロジェクト進行中(38/100冊+33/100本)

投稿者 birdwing : 2006年5月26日 00:00

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