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2007年2月 8日

「分析力のマネジメント」ジム・デイビスほか

▼book005:抽象的な概念よりも、ダイレクトな言葉が効くのでは。

4478331243分析力のマネジメント―「情報進化モデル」が意思決定プロセスの革新をもたらす
鈴木 泰雄
ダイヤモンド社 2007-01-13

by G-Tools

分析というタイトルに惹かれて購入したのですが、読み進めながらどうもすっきりしないものを感じました。個人・部門・企業・最適化・革新という企業が情報化を移行する5段階のモデルはわかりやすいのだけれど、抽象的な言葉が多く、ぼくの頭のなかで焦点を結んでいかない。

なぜだろうと感じながら表紙の裏をみて気付いたのですが(気付くのが遅すぎますが)、この本はどうやらビジネスインテリジェンス(BI)大手SASの啓蒙のための本らしい。共著として書いている作者はすべて、SASのコンサルタントのようです。なるほど。分厚いのに安価なのは、たぶんいくらか制作費も出ているからでしょう。また、導入事例が架空のメーカーになっているのは、販促・啓蒙としての雰囲気を意図的に消そうとしているからかもしれません。

法人向けサービスの啓蒙本を批判するつもりはないのですが、こういう本を読むと、非常に残念です。こうした作り方では啓蒙の効果を挙げられないのではないか、と考えてしまうからです。

というのも、SASというのは非常に優れたBIツールだと思うので、どうしてダイレクトにSASはこんなにすごいと書かないのだろうか、とじれったさを感じてしまう。もちろん、SASの詳細を述べた技術書もあるだろうと思うのですが、経営者向けであっても、遠まわしに啓蒙することが果たして効果的なのか、と考えます。BI導入したりさらに進化させようと考えている経営者にとっては、概念的なものよりも、ダイレクトにビジネスに直結する効果のほうが関心があると思う。具体的なシステム導入のメリットを書いた方が説得力があるのではないでしょうか。

もちろん、ダイレクトに製品やサービスの凄さを解説する本は、ある意味、自画自賛的な印象があるので嫌うひともあるでしょう。けれども、問題は誰をターゲットとするか、ということです。「分析のマネジメント」というタイトルから想定されるのは、企業の情報部門担当者かもしれないのですが、書かれている内容はそうでもない。では、経営者向けかというと、そうともいえない。非常に概念的な内容なので、コンサルタントがコンサルタントのために書いた本のような気がします(というと、SASを販売するパートナーのコンサルタント向けでしょうか)。読者の設定がなんとなく曖昧です。

この本を読んでいて、いちばんすっきりしたのは、巻末に掲載されていた(日本の)NTTドコモの事例でした。長いページを割いて解説されていた5段階のBIの進化も、この事例によってイメージすることができました。事例がいちばん説得力があります。実は、NTTドコモのDREAMSというシステムについては、過去にBI関連のセミナーで話を伺ったことがあり、関心を持ってもいました。ただし口頭で聴いていただけだったので、まとまった資料があると参考になります。

もしぼくが情報部門の担当者であれば、事例のページをコピーして上の人間に提案することもできる。一方で、5段階の進化・・・という概念的なページを持っていくことはできません。それを持っていったら「要点をいいたまえ。で、きみは何がしたいのだ!」と怒られそうです。経営者の方々は多忙です。情報の進化は・・・と基礎から講釈するよりも、結果で説得するほうが早いのでは

コンサルティングのフレームワークとしてこのBIの5段階について考えてみると、エンタープライズ(大企業)に特化したフレームであり中小企業には適応しにくいこと(というのは、BIが大企業向きなので当然ですが)、直線的な進化の構造に疑問を感じること、という2点に問題を感じました。特に後者については、本書のなかでも触れている部分がありましたが、ヒューマンリソースとしては進化しているが技術がともなわないなど、マトリックスのような形でとらえたほうが、非常に混沌とした情報化の現状には合っているような気がしました。2月6日読了。

※年間本100冊プロジェクト(5/100冊)

投稿者 birdwing : 2007年2月 8日 00:00

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