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2007年3月 3日

DTM×掌編小説:リワインド。

春めいてきました。外出したくなるような陽気ですが、長男くんは発熱、次男くんは喘息、奥さんは花粉症という感じで、外出がままならない状態です(泣)。体調が回復してぼくは元気なのに。

最近は毎週、趣味のDTMで創った新しい曲をブログで公開しているのですが、音楽関係のインスピレーションを感じていて、ぼーっとしていると勝手に音が聴こえてきて困った状態です。そんなわけで、金曜日の夜から土曜日にかけてまた新しい曲を創りました。今回は曲×掌編小説というハイブリッドなスタイルで紹介してみたいと思います。ほんとうは映像を付けたいのですが。

春めいてきたということで、今回、創作活動をしながらイメージしたのは卒業と再会です。3月になると卒業式のシーズンかと思います。それは別れのシーズンでもあるのですが、また同窓会などで再会できる機会もある。同窓会といえば、最近「ゆびとま」のサイトがいろいろと問題もあったりしたことを思い出しますが(苦笑)、古い知人に会うのはとても大切な時間だと思います。そんなノスタルジーと貴重な時間を音にしたいと思ったのですが、まずは曲を創りながらイメージした世界観を掌編小説にしてみました。こんな感じです。

自作DTM×ブログ掌編小説シリーズ01
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リワインド。
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作:BirdWing

ふたりは海のみえる田舎で育ち、やがて高校を卒業する時期を迎えた。

少年は背だけは高かったけれどもどこか頼りない感じで、いつもうつむきがちに文庫を読んでいた。服装といえば、洗いざらしのジーンズにTシャツあるいはオフホワイトのシャツばかりが多かった。少女は3つ年下の妹を持つ地元では伝統のある企業家の長女として大切に育てられ、真っ黒に日焼けしていた。少しだけわがままだった。

彼等にも名前はある。名前はあるのだが、いま名前には触れないでおこう。ふたりはどこにでもいる少年と少女であり、名前は特に重要ではない。少なくとも、この物語のなかでは。この物語はありふれたささやかなエピソードのひとつにすぎないのだから。それはまだ携帯電話もメールもなかった遠いお伽話のような昔のできごとである。

少年は都会の大学に進学を決めた。薬学の道に進みたかった。少女は高校を卒業すると、地元の短大に進学しなければならなかった。彼女も彼と同じように都会の大学に憧れたのだが、両親の許しを得られなかったからだ。少女はそのことで3週間はふくれて両親と口をきかなかった。彼女も頑固だったが、その彼女を生んだ親はもっと頑固だった。親には勝てない。結局のところ諦めて仕方なく地元の(地味な)短大への進学を決めた。

むこうに行ったら手紙を書くから。夏休みや冬休みには帰省するし。少年は言った。

ふん、どうかしら。並んで歩く春のおだやかな海辺の突堤で、彼女は彼の方を見ないで先を急いだ。楽しいことがいっぱいありそうね、きれいなひともいそうだよね、都会だもんね、こんな田舎とは違うよね。自分で言った言葉に悔しくて傷付いて、少女は泣きそうになった。

関係ないよ。

ぽつりと少年は言う。関係ないよ、じゃなくてもう少し言うことないのかね、ボキャブラリーが貧困なやつ。本ばっかり読んでるくせになんなのよ。彼女は心のなかで毒づいた。

そうしてふたりは黙って海辺を歩いた。陽射しが海に反射して眩しかった。しかし、言葉は少なかったけれども、少年はほんとうに彼女のことを大切に思っていた。どんなときにも。変わらない気持ちで。

やがて上京して大学に通いながら、彼はちいさな書店でアルバイトをして(レジが暇なときにはやっぱり文庫を読んで)、毎月、彼女に手紙を書いた。といっても彼は文章を書くのが何よりも苦手だったので(本を読むことと文章を書くことは必ずしも比例しない)、必要最低限のことしか書かなかった。

昨日食べた学食のメニューのこと、いま読んでいる本のこと、老教授の厳しい講義などなど。

少年から毎月のように送られてくる必要最低限な手紙を読んで、少女は苛立った。どうしてきみが好きだとかそういうことのひとつも書けないのかね、あいつは。行間から必死に彼の生活を読み解こうとするのだけれど、右上がりの万年筆の筆跡以外には何も読み取れない。彼女はサークルに入って新しいボーイフレンドを作った。そしてすぐに別れた。そのあいだにも、少年は手紙を送りつづけた。学食、本、老教授などなどの繰り返し。彼女は一度も返信しなかった。好きだ、のひとことでも書いてくれば返信してやる。そんな意地をはっていた。

やがて1年が経過して、ふたりの高校の同窓会が行われることになった。

夏は海外旅行に、冬はスキーに出かけていて、すれ違いばかりで彼と会う機会のなかった少女だが、彼も同窓会に参加するということを聞いてなんとなく落ち着かない。その年は雪が降らないあたたかい年で、サクラの花もちらほらと咲きはじめていた。青空に透けてぼんやりとしたサクラを見上げながら、彼女はため息をついた。

同窓会の日、少女はボストンバックを用意した。そしてその袋のなかに、たくさんの封筒を詰めた。

詰め込んだのは、少年に出せなかった手紙だ。書いたけれども出せなかった返信の数々をボストンバックに詰め込んで、よいしょと担ぐと、自転車に乗った。あいつにこれを突きつけてやる。手紙のバクダンを自転車のカゴに入れると、ハンドルを握って思い切りペダルを漕いだ。

木漏れ日のトンネルの下を潜り抜け、新緑の道を走り、風に巻き上げられた前髪を押さえながら、全速力で駅までの道を急ぐ。駅で少年と待ち合わせていた。1年ぶりに彼に会う。笑顔で会うことができればいいんだけれど。風景をどんどん後ろに追いやりながら、少女は思った。自分が前進すると風景は後退するのね。そして呟いた。

わたしって、いま、世界を巻き戻していないか?


<了>

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そして、趣味のDTMで創った曲は以下です。

■rewind(3分7秒 4.29MB 192kbps)※3/4ミックスダウン修正





作曲・プログラミング:BirdWing

まったく上記の小説のようなイメージはないかもしれませんが(苦笑)。DTM的にはここ数ヶ月で創ってきたアプローチをそのまま踏襲しています。Sigur Rosテイストを維持しつつ、エレクトロニカな感じ。どちらかというと今回はポップスをイメージしていて、リズムとしてはハウスでしょうか。SONAR付属のGroove Synthを中心にリズムを創っています。コード進行はひとつしか使っていません。同一進行のなかでどれだけアレンジを変えていけるか、ということを考えてみました。それは同一のフレームワークで多彩な発想をする、という思考方法に似ているような気がします。

ループ素材を使ったリズム、女性ボーカル素材については部分的にサラウンドをかけています。PCの出力をステレオにつないで聴いてみたところ、ものすごくサラウンドがかかりすぎて、スピーカーの後ろから音が出てくる感じで若干気持ち悪さも感じました(苦笑)。立体的な音像は大切ですが、やりすぎないほうがいいのかも。

曲と小説とどちらが先かということはなくて、曲を創りながら、いまぼくが創ろうとしている曲はどのようなイメージなのだろう、ということを考えたときに、まず自転車でサクラの風景を走っているイメージがありました。これはどういう風景なのだろう、ということを曲を創りながらぼんやりと考えていたら、物語が浮かんできた。そして、SONARを立ち上げたままテキストエディタで小説を作りつつ、小説で浮かんできたシーンのイメージをまた音にフィードバックする、というようなことをやりました。

映像化するならば、監督はぜったいに岩井俊二監督で(笑)。

「リリィ・シュシュのすべて」や「花とアリス」の感じでしょうか。少し甘ったるい感じもするのですが(前者の作品はかなりせつないけれど厳しい現実を描いているとは思いますが)、岩井俊二監督の世界観でぼくも曲を創っていました。大好きな映画監督のひとりです。

B000066FWUリリイ・シュシュのすべて 特別版
岩井俊二 稲森いずみ
ビクターエンタテインメント 2002-06-28

by G-Tools
B0001AE1X6花とアリス 特別版
岩井俊二
アミューズソフトエンタテインメント 2004-10-08

by G-Tools

リワインド(rewind)という言葉で思い出すのは、テープで音楽を聴いていた頃に、カセットデッキなどにあったボタンですね。テープがメディアだった頃には巻き戻すことが必要だった。その時間がもどかしくもあったのだけれど、のんびりした時代だったのかもしれません。いまiPodなどでは楽曲の検索は必要だけど、巻き戻しは必要ではありません。人間の記憶、というか過去も巻き戻しできるといいのですが。

さて、曲が完成してほっとしてビールを飲んでいたら睡魔に襲われ、夕飯も食べずに眠ってしまいました(苦笑 奥さんに怒られそうだ)。日曜日は子供たちと遊ぼうと思います。そんなわけで日曜日の早朝(というか土曜日の深夜?)3:25に起き出して、書きかけだった日記を更新しています。

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■3/4 追記
曲作り+小説書きにくたびれてしまって、もういっかという感じでアップロードしたのですが、音のバランスがよくないな、と思って聞きなおしていたところ重要なミスを発見。作成した曲のラストのパートでベースをすべて抜いていたことに気付きました(苦笑)。どうも音が薄いと思ったらベース入っていなかったか。そんなわけで、修正版をアップロード。修正にあたって若干音も加えたりしています。でも、まだ部分的に納得がいかないですね。きりがありません。

投稿者 birdwing : 2007年3月 3日 00:00

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