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2007年5月 5日

「男の品格―気高く、そして潔く」川北義則

▼book07-015:孤高を恐れず、気高く生きる覚悟のために。

4569652115男の品格―気高く、そして潔く
PHP研究所 2006-04

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思考するブロガーでありたいぼくは、いろいろなことを考え、ときに考えすぎて消耗することさえあります。まず"どう生きるべきかを考える時間は途方もなく無駄である"と仮に言ってみましょうか。どう生きるかなど考えなくても、いまを充分に生きればいい。ぐちゃぐちゃ考えていないで生きろ、行動しろ、という視点です。

けれども人生の密度を高めるためには、たとえ万人にヒンシュクをかってもオレはこう生きる、という行動指針のようなものが重要になることがあります。既成のステレオタイプな考えではなくてもよい。自分なりの価値判断でかまわない。自分の規範(ルール)を持っている男は強いと思います。なんとなくハードボイルド的でもあります。

男にとって生きる規範となるものが美学です。美学は決してきれいごとではない。オレは人生の闇の部分すなわち汚れちまったかなしみだけを引き受けて、ダークサイドに生きていくぜ(ふっ)という選択および価値判断もひとつの美学です。ちょっと辛そうですけどね。無理してそうだよな、これは。決して泣き言を言わないというのも美学です。簡単そうで、なかなかできないことです。どうしても愚痴や辛さは口から零れてしまうので。

あるいは嫌われようが批判されようが、その先に出口がないばかりか荒涼とした大地が広がっていようが、ひとりの人間に徹底的に愛情を注ぐこと、あるいはひとつの分野の仕事や研究を穿ちつづけることもまた美学でしょう。映画や小説のなかにはそんなストーリーがいくつもあります。が、しかしながら現実には、あまりあり得ない。どこかで折り合いをつけてしまうものです。もっと効率よく考えましょう、無駄だからやめときましょうと思う。

しかしながら、無駄なことに対して途方もない費用と時間を費やす生き方こそが、川北義則さんの考える最上の「男の品格」のようです。見返りも求めないし、横並びに誰かがやっているから自分もやるのではない。自分で選び、自分で責任を取る。その覚悟について書かれた本です。そう、覚悟なんですよね、大切なのは。

ビジネスでは効率化が重視されますが、実は効率ではないところに人生の価値があったりもするものです。生活を豊かにするためには「遊び心」が必要です。遊びという言葉からは一見いい加減な印象がありますが、ほんとうの趣味や遊びは、いい加減に適当にやるものではない。趣味や遊びだからこそ真剣にやる。ここまでやったから遊びは終了というものではなく、遊びには限界がありません。無限につづけることができる。だから、徹底的にお金も時間もかけて、あるいは遊ぶために健康管理をして体力を万全にして臨むのが大事である、と。恋愛も同様とのこと。ホンモノの恋愛は命がけであるから、めったにできるものではないと書かれています。

男は遊びのための金を年間100万円用意しろ、というような提言があって、ううむと思ったのですが、「無駄金をどれだけ使えるかが、その人間の器を決めるともいえる。」という一文には圧倒的な何かを感じました。ちまちまと消費しているぼくは、だから器がちいさいのか(苦笑)。

ただ、自分のことを考えてみても、ブログや趣味のDTMには途方もない時間や費用をかけているのですが、これが遊びなのかもしれません。ブログに関していえば、ライターとして原稿料をもらって書くのだとしたら、きっとここまで注力することはないと思います。なんだ○万円しかくれないなら、このぐらいの文章でいいか、と割り切ることもきっとある。もちろん、そんなビジネスライクな職業原稿書きが多いからこそ、費用以上のクオリティや成果をあげるライターが評価されるのだと思いますが。

この本では、いくつも矛盾した見解が出てきます。趣味を究めろ、恋愛は他人の女とするものだ、他人の幸せだけ考えて男は自分の幸せなど考えるな、と述べたかと思うと、趣味で熱くなるのはみっともない、家族が大切、自分だけ幸せになればいい、などと力説されたりしています(苦笑)。ある意味、破綻している。さっき言ってたこととまったく反対じゃん、という提言が多い。

でもですね、ぼくはこの矛盾した提言にむしろ信頼を感じました。世のなかはひとつの理論で解明できるものではない。さまざまな正解が複雑に入り組んでいるものだと思います。また、いずれかの正解を選ぶ覚悟は重要ですが、頑なに守り通すことがよいとはいえない。違うと感じたら潔く捨てる覚悟も必要です。それがしなやかに生きることでもあるわけです。

そして、対立項を同時に存在させようとするときに創造性が発揮され、イノベーションが生まれるのではないでしょうか。いわゆる、小型だけれど高性能、という相反する要件を同時に成立させる無理な難題に取り組むことによって、飛躍的に進歩してきた技術分野は多いと思います。欲張りであることが大切なんだな。

しなやかな生き方の例としては、ハンプトン・ルトレンドという人物のエピソードを引用されていました(P.198)。株で儲けたカリスマ的な存在だった彼は、問題を起こしてどこかへ消えていたのですが、十数年後に現れたときには生き方を180度変えてしまっていたそうです。ストイックな過去のライフスタイルをまったく変えて、煙草は吸う、酒はがぶ飲みする、美味いものを食べる、という徹底的に「いまを楽しむ」スタイルになっていたとのこと。

抑制されたライフスタイルを厳しく評価するかつてのエグゼクティブたちからはヒンシュクを買ったようですが、自分に正直な生き方から彼はまたカリスマになったとのこと。ちなみに「男ならもっと顰蹙を買うことを考えよ」ということも書かれていました。確かに顰蹙を買うことを恐れていると、人間は(というか男は)ちいさくまとまってしまうものです。危なっかしい不良のほうがかっこいい。

他にもいくつも面白いエピソードを引用されていて、川北さんの美学に考えさせられるところがたくさんあります。ちょいワルオヤジなどという言葉もありましたが(もう死語?)、ファッションとか、おしゃれな店を知っているとか、そういう面だけが強調されていた印象もあります(それってちっともワルくないのでは)。大切なのは考え方のような気がしますね。そして川北さんは、考え方はもちろん「経験値を増やすこと」が大事だと述べられています。いくつも恥をかいて、顰蹙を買って、痛い目をみてはじめて、かっこよくなれるのかもしれません。

とはいえ、こんな本を読まなくても粋に生きている男性もたくさんいる。うらやましいものです。読みかけの本を置いていたら「男のひんかくっ(ぐいっと腕を上に)・・・ってなにさ?」と奥さんにからかわれました。「やせ我慢することだよ」と答えておきました。5月1日読了。

※年間本50冊プロジェクト(15/50冊)

投稿者 birdwing : 2007年5月 5日 00:00

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