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2007年10月20日

[DTM作品] 真昼の球体。

既に最新号が出てしまったのですが、BRUTUSの10/15号は「言葉の力」という特集で、いまだにぱらぱらとめくって読んでいます。この雑誌、永久保存版になりそうな感じ。

特別付録は「心の詩集」で、30人の方のおすすめの詩を掲載しています。いくつか印象に残った詩があるのですが、田村隆一さんの「言葉のない世界」がとても印象に残りました。この詩を推薦しているのはサトエリ(佐藤江梨子)さん。抜粋が掲載されています。以下、引用します。

BRUTUS 言葉のない世界

言葉のない世界は真昼の球体だ
おれは垂直的人間

言葉のない世界は正午の詩の世界だ
おれは水平的人間にとどまることはできない

言葉のない世界を発見するのだ 言葉をつかって
真昼の球体を 正午の詩を
おれは垂直的人間
おれは水平的人間にとどまるわけにはいかない


言葉が鋭角的に研ぎ澄まされています。この詩のなかでは、垂直的人間という上昇志向でラジカルな表現もよいのですが、ぼくが注目したのは「真昼の球体」です。なんだかよくわかりませんが、いい。「まひるのきゅうたい」と口のなかで転がしてみても心地よい。

というわけで「真昼の球体」という言葉を一人歩きさせて、イメージした曲を趣味のDTMで作ってみました。このイメージの背後には「言葉のない世界」が広がっているつもり。以下、ブログで公開してみます。


■真昼の球体(2分25秒 3.34MB 192kbps)

作曲・プログラミング:BirdWing


ぼくの作るモチーフとしては多いのですが、ハレーションを起こすような光に溢れた正午のイメージ。アスファルトの上に濃い自分の影が焼きついていて、ゆらゆらと陽炎が立ち昇っている。まるで真空のように自分のまわりだけ静かで、密閉された空間のような正午に取り巻かれている。濃密な時間です。

しかし、楽曲としてはごちゃごちゃして、いまひとつでしょうか。ピアノのメロディからできましたが、最初から最後まで同じフレーズで構成しています。

参考にしたというか、目指したかった音は(ぼくのはエレクトロニカ系なのでぜんぜん違うけど)ポール・ウェラーでしょうか。やはり硬質な音の背景には、硬派なロックの文脈を持ってきたい。「Wild Wood」というアルバムの1曲目でアルバム全体の雰囲気を印象付ける「Sunflower」です。YouTubeのPVは埋め込み不可のようなので、リンクを以下に掲載します。

■Paul Weller - Sunflower
http://jp.youtube.com/watch?v=6fajXLj4i1w

B000UNXZKEWild Wood
Paul Weller
Yep Roc 2007-11-27

by G-Tools

ふたたび田村隆一さんの詩に戻るのですが、硬質な言葉の連鎖。いいですね。結晶化された言葉という印象がある。BRUTUSにはこの詩が収録されている講談社文芸文庫の「腐敗性物質」という詩集が掲載されているのですが、これ持っている気がする。どこいったかなーと探そうとしたら本の雪崩にあいました。うーわー(流され中)。

4061975633腐敗性物質 (講談社文芸文庫)
講談社 1997-04

by G-Tools

気を取り直して。ぼくの書く言葉はどちらかというとやわらかめなのですが、たまに一人称を「おれ」に変えて書きたくなるときがあります。中学生がタバコを吸っているみたいなイメージになって、さまにならないんですけどね(苦笑)。

ちなみに、BRUTUSで「言葉のない世界」という詩について解説されている佐藤江梨子さんの言葉もいい。「熱い生き方にクールな文体、生き様に憧れてしまいます」として次のように書かれています。引用します。

私はどうしたら人に愛されるか、どうしたら嫌われずに済むかっていう、どちらかというと寺山修司的な考え方を持っている人間です。でも19歳の頃から愛読している田村隆一さんの詩を読むと、言葉で時を止めることも、息を止めることも簡単にできるんだって感じてしまう。私は自称「やきもち焼きの天才」なんですが(笑)、マイナス部分の自分を自慢してしまうあたりにも、通じるものを感じます。攻めの言葉ではないけれど、決して折れない強靭さを持っている言葉。本当に尊敬している、大好きな作品です。

わかる(笑)。愛されなくても平気な人間って、いないと思うんですよね。「愛されなくてもいいと強がる人間」はいるけれども。結局のところぼくは、ブログでモテる思考よりも愛する思考を、のようなことを書いたのだけれど、それは強がりの美学だと思う。愛されなくても大丈夫な人間なんて、どこにもいない。できれば、愛されたい。それもいちばん大切なひとに。

しかし、その強がりを「真昼の球体」という閉塞的な孤独をあらわす言葉の結晶に閉じ込めてしまう詩人。そのひりひりするような切なさにぼくは惹かれます。そして、そんなイメージを音にできればと思いました。できてないような気もするけど(苦笑)。

投稿者 birdwing : 2007年10月20日 21:53

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