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2007年10月22日

「働く理由―99の名言に学ぶシゴト論。」戸田智弘

▼名言で編む仕事のテツガク。

4887595654働く理由 99の名言に学ぶシゴト論。
ディスカヴァー・トゥエンティワン 2007-07-12

by G-Tools

座右の銘って、よく言われますよね。偉人などの名言を心に刻んで行動規範としたり、挫けそうなときに自分に言い聞かせたりする言葉です。残念ながら、ぼくはそういう言葉を持っていません。もし就職活動などの面接の場で「あなたの座右の銘は何ですか?」などと質問されたらフリーズしてしまいそうです(苦笑)。

他人に座右の銘を語るようなときでは、「成せばなる」のような当たり前の言葉では印象が薄いので、自分なりのチョイスと理由付けが必要になります。どんな言葉を選ぶのか、というセンスが重要であり、個人のテツガクを感じさせるものでなければならない。

就活のエクササイズとして、座右の銘を探す、というのはイコール自分探しにもなるような気がしました。自分のオリジナル名言であってもいいと思うんですけどね。借りてきた偉人の言葉ではなく。

「働く理由--99の名言に学ぶ仕事論。」は、キャリアカウンセラーである戸田智弘さんが、仕事とは何かと考えつづけるなかで出会った数々の名言と対話しながら、働く理由についてテツガクを組み立てていく本です。

99の名言が引用されているのですが、名言と呼ばれる言葉はそれだけで力があります。したがって、偉人の言葉の力が強すぎて、戸田さんが言おうとしている趣旨が霞んでしまいがちな部分もあると思いました。引用された言葉のベクトルに引っ張られて、散漫な印象の部分もあります。引用って難しいなあ。

ブログも同様でしょう。ブログの場合には特に書き手の都合のいいように、書かれたエントリーの一部を切り取ることもできるわけで、場合によっては引用元からまったく意味が変わってしまうことがあります。

結局のところ、言葉って何?と考えると

「解釈の具体化」

かもしれません。リアルをどう切り取るかという解釈が言葉になる。たとえば赤い頬を「リンゴのほっぺた」と比喩的な表現を使ったとき、信号機やケチャップなどさまざまな赤いものの選択肢からリンゴをチョイスする。その現実の切り取り方=解釈が重要です。

「リンゴのほっぺた」というのは使い古された言葉でクリエイティビティを何も感じさせないのですが、手垢の付いた解釈は言葉としても切れ味が悪くなるし、コピーライターや小説家は、どれだけ新鮮な解釈によって読み手のアタマのなかにさわやかな風を吹かせることができるか、光を溢れさせることができるか、ということが重要になるとも考えられます。

しかし、その解釈の飛躍は、突拍子もないところから出てくるわけではありません。才能さえあれば努力もせずに飛躍できるというものではない。思考の飛躍を才能のあるひとだけに与えられた特権として考えると話は終わってしまうのですが、一般的なぼくらであっても思考を飛ばせることはできる。しかし、飛ぶまでのあいだには、地面を這うような助走が必要になる。

仕事にも通じるところがあります。ぼくは企画という仕事に携わっているのですが、世間一般で考えられている、ちゃらちゃらとした企画とはかけ離れていて(というのもどうかと思いますが)、その作業はものすごく地味です(苦笑)。こつこつと積み上げていくことが多い。

しかしながら、多くのスポーツや芸術などで同様なように、基礎ができていないところで飛躍もできないんですよね。基礎ができていないところで飛躍すると、短期的には目新しいかもしれないけれど、ぜったいに弱さやボロさが露呈する。音楽であっても、才能にばかり走りすぎると薄っぺらになる。ハッタリの才能に甘んじることなく、いろんなことを吸収し、人生経験を積むことが間接的によい仕事を生み出すことにもなります。したがって、そこには時間がかかる。

ここがですね、若いひとにはよくわからないことではないか。かつて若かったぼくも同様だったのだけれども(苦笑)。

ある程度の飛躍を可能にするためには、時間が必要なのです。こつこつと積み上げていく時間が大切になる。よい仕事をするためには、焦らずにじっくりと熟成させることが大事なこともある。このことを戸田さんは次のような法則であらわしています(P.164)。

「可能性」×「10年間の連続」=「才能」

そして、戸田さんが引用されているモーパッサンの言葉が非常に端的だけれど力がありました。

才能とは継続する情熱のことである。

畳み掛けるように引用されていますが、同様の言葉をいくつかまた引用します。

これは小説家としての問題だけではなくて、夢を持ったときに、どんなものでもいまの世の中は十年その願望を持ち続ければ、必ず成就するというふうに思いますよ。十年間なにかに熱中するということは、好きなことであってもなかなか難しい。逆にいうと、十年間がんばるという気持ちでいれば、大抵成就します。――高橋克彦
私は「ある方面での職業的成功とは、適性&かけた時間の総和であって、才能の問題にあらず」と考えている。――本多信一
才能というのは、その人が小さい時から自分の孤独と傷を癒すために、必死で自分を肯定しようとしてきた結果のことなんです。――小倉千加子
物事を成就させ成功させる力は何か、その力の中にはむろん能力があろう。だが能力は、必要な条件ではあってもじゅうぶんな条件ではない。じゅうぶんな条件とは、その能力に、起動力・粘着力・浸透力・持続力などを与える力である。そのような諸力を、私は執念とよびたい。――土光敏夫
「夢」っていう言葉は、とても綺麗な言葉ですが、ある意味では生ぬるい。それで事が成し遂げられるかと言えば疑問です。どうあってもこれを実現したいし、また実現しなくちゃならない・・そういうこだわりや固執、つまりもっと泥臭いものが必要じゃないかと思うんです。――錦本彰

これらはすべて自分という個のなかに帰属する言葉なのですが、一方で、才能は他者という社会のなかにある、という発想も書かれていて、こちらも重要ではないかと思いました。

力を注ぐことは大事なのだけれども、社会と調和しないことであれば成就するのも難しくなる。自分が求めていることと社会のマッチングができれば、成就の可能性も高まります。それは自分が何ができるか、ではなく、企業にとって何を貢献できるか、ということを説いたドラッカーの発想にもつながるところがあります。

そして、他者や社会性を考慮しつつ、

自分の人生は自分で選ぶ

という自律性が重要ではないでしょうか。マジック・ジョンソンの次の言葉に打たれました(P,144)。

「お前には無理だよ」と言う人のことを聞いてはいけない。 
もし、自分で何かを成し遂げたかったら、
できなかったときに、他人のせいにしないで、自分のせいにしなさい。
多くの人が、僕にも「お前には無理だよ」と言った。
彼らは、君に成功してほしくないんだ。
なぜなら、彼らは成功できなかったから。
途中であきらめてしまったから。
だから、君にもその夢をあきらめてほしいんだよ。
不幸な人は不幸な人を友達にしたいんだよ。
決してあきらめては駄目だ。
自分のまわりをエネルギーであふれた、
しっかりした考え方を持っている人で固めなさい。
自分のまわりをプラス思考の人で固めなさい。
近くに誰か憧れる人がいたら、その人のアドバイスを求めなさい。
君の人生を変えることができるのは君だけだ。
君の夢が何であれ、それにまっすぐ向かって行くんだ。
君は、幸せになるために生まれてきたんだから。

アランの幸福論からの次の言葉にも通じると思います(P.229、232)。

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意思に属する。
成り行きにまかせる人間はみんなふさぎこんでいるものだ。
どんな職業も、自分が支配しているかぎりは愉快であり、
自分が服従しているかぎりは不愉快である。

自分の人生は自分で決められるものであり、会社が何にもしてくれない、と言うのであれば、別にその会社に執着することもなく、辞めてしまえばいい。その自由が個々人にはあると思います。愚痴や不満、反省をしている時間があれば、次に何をすべきかという時間にあてたほうが有意義です。

淡い夢、理想などというメルヘンは企業には必要がなく、重要なのは確固とした未来に対する構想であり、そのための戦略であり、積み重ねていく実績だと思います。という現実主義に立脚しながら、それでもあえて夢というカタチのないものを語ることができるか、ということをリーダーの要件として考えたいのですが。

仕事は仕事、遊びは遊び、という割り切る発想もありだとは思うのですが、最近、ぼくはその効率的な発想に疑問を感じています。仕事にも遊びにもとことん没頭すると楽しいじゃないですか。身体を壊してはどうかと思うのですが、寝食を忘れて没頭するような仕事/遊びがいい。

いまぼくは仕事も、そして趣味の世界も最高に楽しい。完全にうまくいっているわけではありませんが、厳しさに対しても自分で選択しているという考え方にシフトしようと考えています。そして、ぼくを支えてくれたり、成長させてくれたり、刺激を与えてくれるひとの存在に感謝したいと思っています。10月19日読了。

投稿者 birdwing : 2007年10月22日 23:26

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