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2008年1月17日
「カンブリア宮殿」村上龍 テレビ東京報道局
▼Book08-002:地道だけど斬新、変化を生み出す経営者の資質。
カンブリア宮殿 村上龍×経済人 テレビ東京報道局 日本経済新聞出版社 2007-05-26 by G-Tools |
企業活動において、採用や社員の教育は重要な意義があると思います。といっても、ぼくは人事でも経営企画のセクションに所属しているわけでもないので、踏み込んだ話はできないのだけれど、終身雇用制が崩壊して実力主義の社会になったとしても、だからといって年功は意味がないわけではない。オトナたちは次の世代を育てていく必要があるのではないか。
家庭を持って子供を育てるのも大事ですが、社会において若いひとを育てることも大事。育てる場所は、必ず学校じゃなきゃいけないということはないでしょう。会社だって十分に教育の場になります。というか、仕事を通じて学ぶことは学生時代の何倍もあります。
さらに、会社や学校という組織の枠組みにとらわれなくても、ブログを通して若い世代を育てることもできるはず。ソーシャルネットワークという考え方でとらえると、インターネットの登場によって時空を超えた交流もできるようになりました。ネット全体が大きな学校ともいえる。だから、どんなひともセンセイになれるし、セイトにもなれる。といっても教師になるためには、まず自分自身が教師として成熟していなければならないのですが(苦笑)。
しかしながら、ひとを育てるのはテキストによる表層的な情報ではありません。やはりひとがひとを育てる。どんな知識も、それが語られる人間があるからこそ意味を持つような気がします。テキストの向こう側に、あったかいブレインが感じられるからぼくらは学ぼうとする原動力を得られる。
反面教師というのもあり、企業の不祥事などで企業のトップが頭を下げている姿などをみると、やっちゃったなあ、あれはまずいなあ、と思う。一方で、企業のリーダーが書いた素晴らしい本などを読むと、こういうひとになりたいなあ、ちょっと努力してみるかなあ、と考えます。
どちらかというとマスコミもブログも不祥事や揚げ足取りに脊髄反射しがちですが、ぼくはむしろ後者の立場でいたい。素晴らしいひとたちの言葉に触れたい。
というわけで(うーむ、やはり前置き長すぎ。苦笑)、積極的に素晴らしいひとたちの言葉を吸収している今日この頃。樋口泰行さんの「変人力」に続いて読み終えたのが、「カンブリア宮殿」でした。この本は作家の村上龍さんが経済人と対談するテレビ番組を書籍化したものです。
以下22人の経済人との対談が掲載されています。
・張富士夫(トヨタ自動車会長)
・福井威夫(本田技研工業社長)
・大橋洋治(全日本空輸会長)
・後藤卓也(花王取締役会会長)
・古田英明(縄文アソシエイツ代表取締役)
・堀威夫(ホリプロ取締役ファウンダー)
・岡野雅行(岡野工業代表社員)
・松浦元男(樹研工業社長)
・笠原健治(ミクシィ社長)
・近藤淳也(はてな社長)
・伊藤信吾(男前豆腐店社長)
・宋文州(ソフトブレーン創業者)
・野口美佳(ピーチ・ジョン創業者)
・寺田和正(サマンサタバサジャパンリミテッド社長)
・渡邉美樹(ワタミ社長)
・吉田潤喜(ヨシダグループ会長)
・高田明(ジャパネットたかた代表取締役)
・平松庚三(ライブドアホールディングス社長)
・澤田秀雄(エイチ・アイ・エス会長)
・北尾吉孝(SBIホールディングスCEO)
・原田泳幸(日本マクドナルドホールディングスCEO)
・稲盛和夫(京セラ名誉会長)
最初のほうはさすがに伝統のある大企業の社長のお話なので、正直なところ日本経済新聞のPR記事(記事体裁の広告ですね。企業がお金を払って掲載する記事)のような感じがして、いまひとつ読むのに努力が必要だったのですが、それでも大企業のトップのふつうの姿が対談から浮き彫りにされています。そして、日本のモノづくりを代表するような岡野工業、樹研工業の話あたりから、個人的には興味を惹かれてぐいぐい読み進みました。
特に、男前豆腐店の社長である伊藤信吾さんの話が面白かった。そもそも父親が豆腐屋をやっていた、というのがきっかけかもしれないけれど、そこで豆腐を究めようと覚悟を決めたわけです。というよりご本人には、覚悟を決めたという自覚はなかったのかもしれません。次の部分がいいと思いました(P.166)。
伊藤 最初に職業を選ぶ時から、たぶんもうマーケティングは始まっていると思うんです。この業界に自分が身を置けば、ほかと違うものができるかもしれないと考える。だからその感覚はありますよね。学校を卒業する時に働きたい企業ランキングというのがあるじゃないですか。あそこに豆腐屋は絶対ない。もうそれだけは言い切れます。旅行会社に行きたい人、テレビ局に勤めたい人......。それは僕だって勤めたかったですよ(笑)。でも、学校だったり縁だったりで、入れないというのがある。「しょうがねえなあ、世の中つまんねえなあ」というところからのスタートです、僕は。
環境を選ぶのではなく、環境を創る考え方に近いと思います。企業に採用してもらうのではなく、自分で仕事を創り出していく。世のなかに合わせるのではなく、世のなかを創り出す。だから直感的によいと思えば、市場のデータなどは必要ない。
ぼくがこの本を読んでいて痛感したのは、経営者というのは、もちろん大きなビジョンを描いてはいるのですが、結構地道で、あるいはふつうであって(という言い方も微妙ですが)、いま直面していることのなかから独創的な発想をしていく、ということでした。ほら吹きではない。抽象論を振りかざす哲学者でもない。夢見がちなリアリストです。
だからどんな危機もチャンスに変えるのでしょうね。豆腐にもイノベーションはある。伊藤さんは「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」というネーミングの豆腐を作ってしまうのですが(どういう名前でしょうか、これ。笑)、豆腐なんて古い、かっこわるい、やっぱり洋食だー、と逃げるのではなく、豆腐屋である自分をしっかりと受け止めて、覚悟を決めて、豆腐でできることを考える。名前はもちろん味にも徹底的にこだわるわけです。ぼくには覚悟が足りないような気もするのですが(苦笑)、現状に足を踏ん張って逃げ出さずに続けていけば、どんなチャンスも何らかのかたちで生かせるのではないか。
ただ、やっぱり変わってるなあ、と思ったのは男前豆腐店ではみんなが、チャールズとかトムとか、あだ名で呼んでいるということでした(笑)。バンドのノリらしいのですが、「チャールズ、1番に電話ですー」「トム、あの取引どうなった?」などと社員が話していたらおかしい。あ、でも考えてみると、ネットの社会ではハンドルで呼び合うことがあるから、むしろ先端かもしれない。
同様に発想の転換の面白さを感じたのは、ソフトブレーンの宋文州さんの言葉で、「お客様は神様だ」「営業は足で稼ぐ」「営業は人柄だ」「営業はセンスだ」という日本企業の営業では古くから鉄則とされているような言葉に疑問を投げかけます。そして次の言葉に頷きました(P.184)
宋 営業の仕事は、売ることではないんです。お客さんを知ることだと思うんです。お客さんを知らなければ売れません。
次もなかなか含蓄があります。
営業は体育会系がいいと言います。「なぜ?」と聞いたら「体力があって、頭を使わないから」。それでなぜ提案ができるんですか。
大多数が考えている常識に、なぜ?と投げかける。その問いのセンスが経営者には必要なのかもしれません。自由主義社会の格差は健全というワタミの渡邉さんの言葉にも、同じような印象を受けました。渡邉さんは飲食チェーン店を起点として学校経営もされているのですが、国に教育を任せておくことはできない、として民間からの教育についても考え続けられているようです。
みずからが抱いた疑問に徹底的にこだわり、その疑問を機会に変えていく。社会に取り込まれるのではなく、自分自身が変化の起爆剤となる。マクドナルドの原田さんの次の言葉にも共感を得ました(P.334)。
原田 世の中の変化についていこうなんて、とんでもないですよ。変化についていったら負けます。トレンドをつくらなければいけないのです。
原田泳幸さんのインタビューに共感を得たので、その後「とことんやれば、必ずできる」という本を購入したのですが、この本からも多くのことを学びました。
優れた経営者の資質について、いくつか気付いた点はあるのですが、まだ整理しきれていません。行動しながら考える、という吉田潤喜さんの考え方にもヒントがあるような気がします。樋口泰行さんにも感じたことですが、優れた経営者はパワフルです。思考力を支える行動力がある。
と、この本をひとつのインデックスとして、そこからさらに気になった経営者が書いた本を読み進めていきたいと考えています。優れた経営者の言葉は、ぼくらを元気にしてくれます。それがきっと日本を元気にしてくれるのではないでしょうか。1月4日読了。
■公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/
投稿者 birdwing : 2008年1月17日 00:00
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