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2008年3月 8日

「プロフェッショナルアイディア。」小沢正光

▼Book08-008:広告の思考、現場のノウハウ。

4844323679プロフェッショナルアイディア。欲しいときに、欲しい企画を生み出す方法。
小沢 正光
インプレスジャパン 2007-02-28

by G-Tools


アドマン(広告のクリエイター)が発想するときのバイブルとしてはジャック・フォスターやジェームズ・W・ヤングの本が古典的といえますが、「プロフェッショナルアイディア。」は博報堂執行役員エグゼクティブディレクターの小沢正光さんが長い現場で培ったノウハウをわかりやすく解説された、発想を仕事とする考えるひとのバイブルともいえる本です。日本版フォスターあるいはヤングという感じ。アイディア開発法について、さまざまな示唆を与えてもらうことができました。

さすがに広告の現場で活躍されてきた方の言葉だけあって、切れ味が鋭い。まず、各項目の見出しタイトルで唸らされます。たとえば、ぼくが注目したのは次のような言葉でした。

・プロのアイディアは思い付きではない。(P.4)
・コンスタントに結果を出す。(P.8)
・完全性より適時性。(P.44)
・「わかる」は「分ける」。(P.78)
・バックキャスティング。(P.104)
・律速要因。(P.160)
・進歩は階段状。(P.174)

ぼくはアイディアにおいてはキャッチコピーの重要性を感じています。一言で言うと・・・という部分で切れ味がなかったり、そうそう!わかるわかる!のような共感を生まないアイディアはいまひとつという気がする。延々と30分ぐらい説明しなければ理解できないコンセプトは、どこかひねくりすぎていて、実はたいしたことがない。すばらしいアイディアは一語に集約される気がします。その意味で、さすがプロフェッショナルだなあ、という印象を受けました。一語が研ぎ澄まされている。

上記のいくつかについて引用しつつ感想を書いてみることにします。まずプロフェッショナルの要諦としては、「プロのアイディアは思い付きではない」と「コンスタントに結果を出す」のふたつが重要だと思いました。

やはりぼくも仕事を通じてアイディアと企画は違うということを考えていたのですが、口頭ではいくらぽんぽんとアイディアを出せたとしても、営業的には強みになることがあったとしてもプランナーとしてはそれだけでは仕事になりません(というか、実現不可能な概念的なことや思いつきだけを口先で乱発する営業は信頼されないかもしれませんが・・・)。つまり、クライアントの要件をしっかりと吟味した上で、論理を構築していく地道な作業が必要になる。

また、感情や案件によって左右されるのではなく、常に結果を出せることは必須です。これは、企画にとどまらず経営者はもちろん、ミュージシャンでも同じだと思いますね。運よくヒットのアルバムを出せたとしても、一発屋で終わってしまうのでは実力がなかったということになる。プロゴルファーや野球の選手などもそうではないでしょうか。プロは何度同じことを挑戦しても、そのたびに同じ結果が出せるひとだと思います。一発でっかいヒットを飛ばすよりも、継続して長い期間に同じ結果を出すのがプロです。同じ結果を出すためには、才能はもちろん努力も必要になる。

とはいえ、結果を出す過程に多大な時間やコストが必要であれば、プロの仕事とはいえません。もちろん場合によってはあえて時間と費用を想定した以上に設定することもありますが、アーティストではないので、いつまでも納得ができるまで継続していたらビジネスにはならない。引用します(P.45)。

仕事の完璧さを優先すべきか、締め切りを優先すべきか。
とくにものづくりにかかわる人は、誰しもいちどはこの問題に頭を悩ませたことがあるに違いない。アイディア開発の場合は、どちらを優先すべきだろうか。
まちがいなく、締め切りだ。
アイディア開発には、ほかにも守るべき条件の優先順位がある。プライオリティの高いものから順に並べれば、「適時性」「先行性」「並行性」「完全性」だ。

ここで完全性よりも適時性を重視するということは、プロトタイピング(試作)などの方法論にもつながると思いました。不完全であったとしても、とりあえずデザインしてしまう。そしてβ版を試用させることによって、サービス自体の完成度をあげていく。

時間をかければよいものができるかというと、かければかけるほど泥沼に入り込むこともあります。組織全体においても、全体のスピードアップを図らなければ、スピードの遅いスタッフの速度に引き摺られてしまう。これが「律速要因」です。

化学反応がいくつかのステップをへて進行する場合、その反応速度はもっとも遅いステップのものに支配される。つまり、ひとつのステップの速度が遅ければ、ほかの反応速度がいくら速くても、すべてがその速度に支配されてしまうのである。
この場合、もっとも反応速度が遅いステップは、全体の反応速度を律速しているという。

小沢さんはアイディア開発の律速要因として、人的なものと作業効率的なもののふたつを挙げています。なかなか前者については難しいナーバスな問題を含むのではないでしょうか。速度を落としている要因の解明は、問題の追求と該当するスタッフの吊るし上げになりかねない。けれども、適材適所のような観点から、速度のあった部分に担当を配置するような視点を提示されていて、なるほどと思いました。

その他、バックキャスティングはいわゆる仮説思考、「わかる」は「分ける」ということはMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhausti:漏れもなく重複もない)というコンサルティングの思考法に通じるものを感じました。進歩は階段状であるということは、マクドナルドの原田泳幸さんの本にも書かれていたことであり、クリエイティブに関わらず、仕事哲学や人生哲学にも応用できる言葉です。

読んだときには失礼ですが、どこかで聞いたことがあるような視点ばかりだな、たいしたことないかなという感想を抱いていた本ですが、しばらくしてじわりじわりと効いてくる。ただ読者であるぼくのなかで、もう少し構造化・体系化ができればいいのですが未消化な印象もあり、もどかしく感じています。

投稿者 birdwing : 2008年3月 8日 12:10

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