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2008年3月 9日

何もないところから。

いつだったか天気のいい朝、通勤途中にiPodで何を聴こうか迷って日本のエレクトロニカユニットであるausの「Lang」というアルバムを聴いてみたところ、ものすごくぴったりはまったことがありました。朝の空気、きらきらした陽光、そして音楽のすべてが同期して、ある質感を持って周囲を包み込む。朝がリアルに立ち昇るというか、とにかく眠っていた感覚が覚醒されるような感じでした。言葉ではうまく説明できないのですが。

Preco Recordsのmy spaceで、ausの「Halo」を試聴できます。ぼくが聴いたのはこの曲なのですが、いま聴いてもどうってことはあまりません。時間とか場所とかぼくの感情とか、あらゆる条件が同期しなければ、あのちょっとぶっとんだ感覚にはなれないのかもしれません。

■my space Preco Records
http://www.myspace.com/precorecords

ところで、外界から遮断されたオーディオルームで1本数百万のスピーカーで聴くような音楽は最高の音だろうと思います(聴いたことがないけど)。楽器の臨場感も違うだろうし、音の質感も異なる。オーディオルームではなくても、生のオーケストラの演奏を前にすると、演奏されて生れた音のカタマリには言葉も出ないぐらい圧倒されるのではないでしょうか。ポップスやロックのライブも然り。

しかしながら最高の音楽は、一部のお金や暇に余裕がある特権階級だけが聴くことを許されるものなのかな?という疑問を感じます。クラシックやジャズ、あるいは一部のおっかけ的なリスナーに漂う一種の排他的な雰囲気にはどうしても馴染めないものがある。どうせお前には分からないだろう、きみは分かってるから仲間だ、この音楽はこの機材で聴くべきだ・・・という音楽の聴き方、あるいは知に対する姿勢はどうも好きではない。いやほんと好みの問題です(苦笑)。理屈ではなくてね。

しょぼいヘッドホンとオーディオプレイヤーで聴く音楽なんて音楽とは呼べない、という志向性もあるかもしれませんが、ぼくはそうではないような気がします。子供の頃、1万数千円のモノラルのラジカセ(SONY製)を親から買ってもらったことがあるのだけれど、しばらくの間、そのラジカセはタカラモノでした。寝床でイヤホンを耳に差し込んで深夜放送を聴いて、わくわくしました。低音のかけらも再生されないスピーカーであっても、そこから流れる音楽には心を震わすものがあったことを覚えています。

音楽は、周囲から隔離された防音・無菌室のようなところで単体で存在しているものなのか、あるいは存在すべきものなのかどうか。ぼくはむしろ聴くひとの時間・時代の流れ・場所・心理状況(感情とか体調とか)・個人的なさまざまな関係性や社会の文脈などさまざまな混沌のなかに存在しているものではないかと考えます。だからものすごく俗っぽいものがあっていい。

同様の考え方で、ちょっと視点をずらしてみると、どんなに技術が進歩したとしても最近のノイズキャンセラー付きのヘッドホンのようなものがあまりいいとは思っていなくて、むしろ外界の音とミキシングして音を聞くべきじゃないかとぼくは思う。ジャズのアルバムでも、感極まって叫ぶプレイヤーの声が入っていたり、あるいはライブ盤であればグラスや談笑の声などが入っているやつがいい。もちろんこれもまたぼくの趣味であり、雑音が嫌いなリスナーもいていい。聴き方の違いであって、そこに正解はありません。どんな聴き方もできる。

音楽関連の新書をいくつか買い込んでいたのですが、先々週の金曜日に持田騎一郎さんの「儲かる音楽 損する音楽」を読了しました。

4789732533儲かる音楽損する音楽―人気ラーメン屋のBGMは何でジャズ? (ソニー・マガジンズ新書 1)
持田 騎一郎
ソニー・マガジンズ 2008-02

by G-Tools

この本はBGMコンサルタントとして選曲などをされている持田さんが、BGMという観点から音楽と空間の在り方などについて考察された本です。科学的な考察を期待すると失望するかもしれません。どちらかというとエッセイです。正直なところあまり深い内容ではないので(というのも失礼ですが)、芸術至上主義のひとが読むと眉を潜めるか、つまらないなと放り出すか、という印象です。とはいえ、クラブの話とかJ-POPの歴史などについても書かれていて、ぼくはこういう論考も面白いと思いました。いろんな音楽があっていいと思います。どんなにチープで高尚ではない音楽だったとしても、食事や場の雰囲気を盛り上げるのであれば、その音楽には存在価値がある。

ぼくは趣味のDTMで、パソコンだけを使って音楽を作っていたりするのだけれど、では打ち込みがすべてかというとそうは思っていません。生の楽器を演奏する楽しみもわかります。しかしながら、音楽は絶対に生がいちばんだという主張を聞くと、それはどうかな?と反論したくなる。YMOなどを聴いてきた世代だからかもしれないのですが、テクノロジーによって変わっていく音楽も面白いと思うし、そこに可能性も感じています。単純に「べき」論が嫌いなだけかもしれないですね(苦笑)。

結局のところ生か打ち込みかというのは手法の問題であり、心を打つ音楽は、そんなちまちまとした議論を吹き飛ばしてしまうものです。とんでもなくぼろい数千円で買えるようなギターを持って現われたタマス・ウェルズの歌を聴いて、ぼくは思わず涙を流してしまったことがあるのだけれど、生だろうが打ち込みだろうが超ヘタであろうがオンボロ楽器や機材だろうが、琴線に触れるどころか心をえぐるような音楽がある。技術的に優れたものよりも、きれいにまとまっているものよりも(そして商業的に売れているものよりも)そういうものをぼくは聴きたい。

趣味のDTMでは、できればそれなりの機材を使ってプロ志向の曲作りをしたいけれど、なかなかそうもいきません。といっても機材がないからいい音楽ができない、というのは一種の逃げのような気がしています。そんなわけで手持ちの機材を最大限に活用する方法を考えて、さらに無料で使えるプラグインなどをネットで収集して工夫しながら作りたいと考えています。

技術の進化という恩恵をとても感じていて、現在、インターネットや雑誌で無料のツールがたくさん公開されています。ほんとうにびっくりします。既に最新号(4月号)が出てしまっているのだけれど、DTMマガジンの3月号は「いますぐ使える!無料音楽ツール」という特集があって、なかなか楽しく読みました。まだ試していないのですが、DAW(音楽制作ソフト)自体も高機能なソフトが無料で入手できます。

B00139VBAKDTM MAGAZINE 2008年 03月号 [雑誌]
寺島情報企画 2008-02-08

by G-Tools

DTMマガジンの3月号をぱらぱらめくっていたら、マーク・ビアンキ(her space holiday)のインタビューが載っていました。「集え、インディーズ・ミュージシャン」ということで、「DTMを取り入れた良質なインディーズミュージシャンを紹介する」コーナーとのこと。絵本付きの「the telescope」というアルバムの感想を書いたことがあるのだけれど、インタビューの冒頭の部分がなんだか泣けました。

――バンドをやっていた貴方が、ソロユニット「her space holiday」を始めたのはどういったきっかけですか?
「最初自分だけでレコーディングを始めたときは、作品をリリースするつもりがなかった。最初の何曲かは、人生の辛い時期を過ごしてた友達の女の子を励ますために作ったんだ。彼女は、自分が自分の体から抜け出して、宇宙を漂っているみたい、って言ってた。だから僕は最初の曲たちに"HER SPACE HOLIDAY"って名前を付けた。レーベルから作品をリリースしないかって打診があって、そのときにHER SPACE HOLIDAYって名前を続けようと思った。そのころ僕がやっていたことの雰囲気に合ってたしね」

うーむ。「人生の辛い時期を過ごしてた友達の女の子を励ますために作ったんだ」のようなことをさらりと言えてしまうのが素敵だ(泣)。このやさしさと無欲な感じが、彼の音楽にも表われているように思いました。インディーズの音楽はこうあってほしいものです。ミニマルでかまわないから、ちいさなサークルであったとしても確実にひとびとをあたたかい気持ちにしてくれる音楽がいい。さらに影響を受けたアーティストには、コーネリアス、ブライアン・ウィルソンの名前があり、こちらもなぜか納得。

080309_marc_bianchi.JPG

そんなあれこれを考えつつ、新しい曲を制作中です。いつも土日でさくっと作ってしまえるのですが、今回に限ってなかなか手に負えなくて迷走中。けれども何か突き抜けそうな予感も感じています。

この停滞した感じがたまりません。たまりませんといっても辛いのではなくて楽しい。停滞しているときには、どうしても過去のフレームを持ってきてしまうのだけれど、持ってきても構わないフレームと壊さなきゃいけないフレームがあります。そんな自分のなかにある創作の枠組みを検証しながら、マウスでぽちぽちと曲を描いています。

投稿者 birdwing : 2008年3月 9日 23:45

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