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2010年2月21日

[DTM作品] Haru wo matsu(春を待つ。)

2月に入って東京では雪が降る日が何日かありました。それほど大雪というわけではなく、太陽が顔を出すとあとかたもなく消えてしまう程度の雪です。とはいえ、雪が積もると新鮮な気分です。寒いし道は歩きにくいのだけれど、なんとなく街全体が静かになった気がします。

そんな雪の日のスナップをふたつほど。18日にも雪が降りましたが、過去に遡り、立春の前(2月2日)に降った雪です。隣の家の駐車スペースの屋根に鳥の足跡がついていました。

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ベランダの植木鉢にも雪。

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梅の花も咲くようになり、そろそろ3月にも近付いてきました。はやくあたたかい日が来るといいですね。というわけで、「春を待つ。(haru wo matsu)」という曲を趣味のDTMで作ってみました。ブログで公開します。お聴きください。


■Haru wo matsu 春を待つ(3分41秒 5.05MB 192kbps)

作曲・プログラミング:BirdWing


今回はワルツ(3拍子)です。曲調としては"なんちゃってジャズ"第3弾という感じでしょうか。ピアノとウッドベースとドラムスという編成です。しかし、ドラムスのスネアの入れ方などよくわからないので自己流です。細かいゴーストノートをたくさん使っているので、実際に演奏したら腱鞘炎になりそうです(苦笑)。

ワンパターンなのですが、マイナーコードとメジャーコードがくるくると入れ替わる曲が好きです。今回もコードの明暗によって、春を待つ不安のようなものを表現したつもりです。ビギナー的な制作過程における発見がひとつありました。最初は文部省唱歌のようなきっちりとした音楽になってしまい、どうしてこうなっちゃうかな、と悩みました。その結果、音が「くっていない(シンコペーションしていない)」という単純なことに気付きました。部分的に音を前ノリにさせることで、やっと文部省唱歌的な呪縛から逃れることができました。

洋楽で3拍子といって思い出したのは、The City(キャロル・キング)の「Snow Queen」です。キャロル・キングと彼女の最初の旦那さんであるジェリィ・ゴフィンの曲ですが、ロジャー・二コルスも取り上げています。ロジャー・二コルス版のほうをYouTubeから。



ジャズでワルツといえば、やっぱりこれ。ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デヴィ」です。学生の頃に毎朝、繰り返して聴いていたほど好きな曲でした。やさしくて洗練された雰囲気のあるワルツです。



ところで、楽曲の制作とは関係ないのですが、最近、音楽に関して個人的に影響(ショック)を受けたことが、ふたつあります。

ひとつめは現代音楽、武満徹さんの音楽を聴きはじめたことです。はるかむかしに武満徹さんの音楽を聴いて、ああ、こりゃダメだ、ぼくには合わない、とおもって投げ出してしまったことがありました。難解だったし、何かおどろおどろしいものが生理的に合いませんでした。しかし最近、聴き直して嵌まってしまった。癒されるのです。硬質なハープのきらめきとフルートが美しい「そして、それが風であることを知った」をYouTubeから引用します。



ぼくがショックを受けたのは、武満徹さんの音楽の芸術的に高められた無秩序性(のようなもの)です。デジタルで、しかもピアノロールによる打ち込みで音楽を作っているぼくは、どうしても曲に対するアプローチが構造的になります。つまりきれいな「建物」を作りやすい。しかし、武満徹さんの持っている秩序を破壊した「廃墟性」と、そこから生まれる妖しさにまいりました。これはぼくには表現できない、と。落ち込んだなあ。いや、そもそも武満徹さんと自分を比べるのが間違っているのですが、思考と表現の限界を突きつけられた気がして、凹みました。しばらく、「春を待つ。」という楽曲を制作する手が止まりました。

ふたつめは、まつきあゆむさんというミュージシャンの活動です。

宅録(自宅録音)で音楽を作っているインディーズの方で、myspaceでも音楽を発表されているのですが、その数が半端ではない。ASCII.jpの記事「著作権は自分で決める 音楽家・まつきあゆむの方法論」を読んでまず惹かれました。冒頭を引用します。

現在、音楽家が作品を売るための最もローコストでシンプルな方法。それは作家自身がリスナーにオーディオファイルを販売することだ。誰もが思いつくであろう「ネット上の手売り」。だが今まで、日本のアーティストは誰もやらなかった。

海外であれば、レディオ・ヘッドがアルバム音源の値段をダウンロードしたひとに決めさせるという過激な手法の例もあり、話題を呼びました。小規模では、決済機能を持つサイトを通じて楽曲を販売するインディーズのミュージシャンの方も存在したかとおもいます。しかし、まつきあゆむさんは販売のための基金まで設立されている。

さらにすごいとおもったのは、ソフトバンクが出資したUstreamというストリーミング(映像配信)サイトで、その制作過程を延々と実況されていたことです。先日2月19日には「2000人ツイッター」として、公開録画もされていました。公式サイトには次のように書かれています。

会場にて、新曲「2000twitter~それはあなたです!~(仮)」の作詞、作曲、録音を行います。
録音の模様はUstream生中継を予定しており「曲が0から生まれて行く姿」を世界中へお届けします。

■公式サイト http://matsukiayumu.com/

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宅録なのでメンバーは当然「ひとり」です。しかし、通常宅録は曲の制作過程を他人にみせないものです。音作りに時間もかかるし、失敗したり途中でのらなくなって曲をボツにしちゃったり、何が起こるかわからない。その過程をすべて中継されていて驚きました。

しかも、Ustreamでは映像と同時にTwitterの投稿が右側にタイムライン(TL)に流れていて、視聴者の投稿した歌詞から「それ採用」のように楽曲に取り入れていく。つまり、オンラインとオフラインを横断したコラボレーションによって、曲を「リアルタイムで」作っていくのです。

公開録音の会場には、ベースやギターが立てかけてあると同時に、ラップトップのコンピューターが設置されていました。向かって右サイドにもサポートするかたちでコンピュータの画面を眺めているひとがふたりほどいらっしゃいました。その中心で、まつきあゆむさんが(たぶんPro Toolsを使って)デジタル録音していく。バンドともエレクトロニカのラップトップミュージックとも違う画期的な制作過程が展開されていて、おおっと熱くなりました。

と、そんな風に、武満徹さんといういままで聴かなかった現代音楽との巡りあいや、まつきあゆむさんというTwitterやUstreamというテクノロジーを活用した宅録の新しい表現に衝撃を受けつつ、揺れ動きながら「春を待つ」自分です。

投稿者 birdwing : 2010年2月21日 20:02

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