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2010年6月23日

「女は男の指を見る」竹内久美子

▼book10-10:繁殖戦略の観点からみれば。

4106103583女は男の指を見る (新潮新書)
竹内 久美子
新潮社 2010-04

by G-Tools


男性の指にこだわる女性は魅力的である。個人的な印象ですが、指フェチの女性には素敵な方が多いのではないかという直感を以前から抱いていました。根拠はありません。ただ、なんとなく。

しかし、竹内久美子さんの「女は男の指を見る」という本のタイトルをみつけて、はっとおもうと同時に、ページをめくって「女性が気になる男性のパーツ」というAll Aboutの2006年アンケート1位が「手(指含む)」であることを知りました(3位は「腕、二の腕」)。多くの女性が男性の指に関心があったのですね。

また、「はじめに」に掲載されていた記事で、敏腕トレーダーは薬指が長く、年収差は7,800万円にもなるということを読んでショックを受けました。これは侮れない。できる男の指は長いらしい。女性は優秀な子孫を残すという生殖本能から男の指を評価していたのでしょうか。

この本を読み進んでいくと、まったくその通りらしいのです。指フェチをみずから表明しているいないにかかわらず意識的であっても無意識であっても、男性の指は生物学的に「できる男(=生殖能力的に強い男)」としての評価基準とのこと。そうだったのか! 石川啄木ではないのですが、じっと手をみてしまいました。ちょっとさびしげに(苦笑)。

ちなみにぼくは、指コンプレックスがあります。親父は、ごつごつとした男らしい長い指だったのですが(弟も同じ)、母親は短い寸胴の指で、残念ながらぼくは母親のほうの遺伝子を継承したらしいのです。かっこ悪いとおもうだけでなく、実際にベースなどの楽器を弾くときにもフレットが押さえにくくて苦労しました。恥を忍んで晒してみます。こんな指です。

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薬指の長さは、人差し指に対する相対的な長さ(指比)を問題にするようです。竹内久美子さんは、男性ホルモンの代表であるテストステロンのレヴェルに密接に関連していると解説されています。

また、薬指は「飾りの指」であるとのこと。「うぃっしゅ」のポーズ(中指と薬指を折る)ときなどに人差し指や中指に比べて薬指が動かしにくいということから、薬指にはものをつかむ役割はあまりなく、薬指が長いことは、男性が生殖機能にすぐれていることを誇示している「飾り」というわけです。

結婚指輪を薬指に嵌めるのも、素敵な男性の薬指に結婚した女からの警告を示すためとのこと。そうだったのか。そういえば薬指に関しておもい出したのですが、小川洋子さんに「薬指の標本」という著書があったっけ。映画も観ました。

薬指の標本 (新潮文庫)

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強烈に納得したのは、遺伝子による裏づけです。Hox遺伝子という遺伝子があるそうですが、遺伝子の並んでいる順は、ほぼ身体の各部位に対応するそうです。つまり次のようなことです(P.63)。

ということは、だ。胴体の末端である生殖器や泌尿器と、腕や脚の末端である指とは、共通のHox遺伝子によって作られていることになる。工事の担当者が同じなら、その「出来上がり具合」も同じレヴェルになっているはずだ。
女が男の指についてあれこれ品定めする。それは、まさにその男の生殖器とその質のほどを評価していることになるのではないでしょうか。指がセクシーに感じられるのは、こういう事情があるからに違いないと思ったからです。

したがって、次のような推測が導かれます(P.73)。

女は男の指を見て彼の生殖器の出来具合、生殖能力のほどを見抜いています。
さらにスポーツマンやミュージシャンはモテますが、それは彼らがテストステロン・レヴェルが高くて生殖能力が高いから。それがスポーツや音楽の才能を通じて表れている。女は直接指を見なくても、それらの能力を手がかりに生殖能力の高い男を選んでいるということになります。指にはまた、その動かぬ証拠が表れていて、マニングらの研究によれば指比の低い男は、精子の数が多く、質もよいことがわかっています。

Hox遺伝子の研究者であるマニングは「二本指の法則」という本を書いているようですが、ここには指と生殖器の大きさに関する研究が登場するそうです。52人の若者の人差し指を測定し「痛くない程度に、きわめてゆっくり伸ばしたペニスの長さ」(これってびみょう。苦笑)のほか身体の各部位の長さも記録すると、人差し指の長さとペニスの長さに大きな相関がみられたとのこと。

ちなみにもっとぶっ飛んだ研究をしている学者もいるようで、ベイカーとベリスの「サクション・ピストン仮説」は、ほーとおもうと同時に困惑しました。なぜペニスが太く、あんなカタチ(先に返しがある)かについて考察しているのですが、複数の男性と交わる乱婚的な精子競争において「前に射精した男の精子を掻き出す」必要があって進化したのではないかという仮説です(P.26)。

女の生殖器から先に入った精子を掻き出すわけだから、膣によりぴったりとフィットしなければならない。そういうことに優れている男ほど、他の男の精子をよく掻き出し、自分の精子で置き換え、卵を自分の精子でよく受精させる。つまりは自分の遺伝子をよく残すわけだから、そういう形質も次代にはよく伝わる。そしてまたそれよりも、もっと太く長く、返しもよくついたペニスが、遺伝子に突然変異が起きることで現れ・・・・・・という過程が繰り返され、男のペニスは今日、あのような立派な形にまで進化したのだというのです。

快楽(?)のために、でかければいいというわけではなく、強い遺伝子を残すための進化、免疫力の強さを示しているのでしょう。

次のような一節もありました(P.44)。

人間に限らず、動物が繁殖する際の一番の課題は何だと思われますか? お金や地位は、他の動物でいえば、まあ縄張りの質の高さや、集団内の順位などといった点と対応しなくもありませんが、違います。意外なことにそれは、バクテリア、ウィルス、寄生虫といった寄生者、つまりパラサイトに強いかどうか。免疫力の問題なのです。

免疫力に強い身体上の特長として、竹内久美子さんは、指のほかに「ハゲ」と「シンメトリー(身体の左右対称)」を挙げます。

「ハゲに胃ガンなし」という言い伝えがあるそうですが(はじめて聞いた)、実際に福岡県久留米市の脇坂外科に入院した1001人(男663人、女338人)のうち、胃ガンなしのグループでは四〇代でハゲが8.6%、五〇代では14.3%と、胃ガンありのグループに対して比率が高かったとのこと。

女性ホルモンのいくつかの総称であるエストロゲンに発ガン性があるらしく、男の胃ガン患者はテストロゲン・レヴェルが低く、エストロゲン・レヴェルが高いために発症率が高まったようです。ほかにも結核に強かったり、気管支ガン、肺気腫になりにくいとか。

テストステロンは男性を男性らしくすると同時に、ハゲさせてしまうという弊害(?)も、もたらすようです。さらに、中年以降、テストステロンの減少によって腹が出るようになる(P.99)。

男は普通、中年以降はテストステロン・レヴェルが下がってくる。ところが、そのテストステロンには脂肪を燃やす働きがあるのでお腹まわりを中心に残酷な状況がもたらされるわけです。

うーむ。中年のハゲとデブは、テストステロン・レヴェルの低下という部分で関連しているわけですね。男性ホルモンおそるべし。というか、コントロールしにくいから困ったものです。次のようにも書かれていました(P.100)。

アメリカの空軍の士官を対象にした研究によると、テストステロン・レヴェルは結婚すると下がり、離婚した場合には元のレヴェルに戻る。そもそも、テストステロンは攻撃や争い、特に女を巡って他の男と争うという行動に関係しています。だから女を手に入れたなら下がるのであり、また「争いの場」に出るとなれば戻るのです。

シンメトリー(左右対称)の男は「環境からのストレスを受けていない、あるいは受けていてもそれによく抵抗する力を持っていると考えられる」ので、免疫力の客観的なモノサシになるそうです。次のようにも書かれています(P.120)。

さらに人間の男では、シンメトリーな男は、精子の質がよく、数も多いということがわかっていて、そうしてみるなら先の三すくみは生殖能力と精子競争力も含めた問題になります。シンメトリーな男はまた、童貞を失うのが早い、浮気相手として人妻からよくオファーがかかる、女を効果的にイカせるなどの傾向があります(詳しくは『シンメトリーな男』文春文庫参照)。

ほんとかなあ。

ここで「三すくみ」というのは、テストステロン・レヴェル、男の魅力、シンメトリー(免疫力)という3つの要素のことです。

しかし、ストレスを感じると身体のバランスが崩れるということに関しては、経験的に異論がありません。もともと顔面は左右非対称なものですが、強いストレス下においては左右がアンバランスになって驚いたことがあったので。

ほかにも(個人的には)衝撃的な生物学的な見解がいくつも示されていました。たとえば竹内久美子さんは、HLA(Human Leukocyte Antigen:人白血球抗原)という遺伝子から、「自分となるべくかけ離れている相手ほどいい匂いだと感じることができるよう進化している」と解説します。つまり、性格や相性の問題だけでなく、レンアイの相手選びには免疫の弱点を補う相手を「いい匂い」であると遺伝子的に嗅ぎ分けているかもしれない、というわけです。ううむ。この分析、もうすこし知りたい。

人間の男の匂いとして第一に考えられるものはアンドステノールという物質(いわゆるジャコウ臭、ムスクの正体)で、これはテストステロンなどの男性ホルモンに構造がよく似ているそうです。シンメトリーな男はバクテリアの増殖を押さえるので臭くない。一方で免疫力の弱い男は、バクテリアを増長させるので臭いと考えられると書かれています。

遺伝子的な生殖競争について書かれていますが、その延長として過激にも浮気を擁護するような発言もあります(P.142)。

――浮気。
この浮気こそが人間を人間たらしめた原動力だと私は思うのです。
そもそも人間は男が女に求愛する際に、「口説く」。他のどんな動物もとりえない求愛方法を用います。もちろん初期の頃は言葉とは言えないような音声だったかもしれないが、よりうまく「口説い」た男がより多くの遺伝子のコピーを残す。そういう過程を経ることで言葉がより洗練されてきたはずです。

鳥の世界にも言及されていて、浮気がまったく見られない鳥(アメリカカケス、アカオカケス、クロコンドルなど)は外見の美しさにほとんど差がないのだけれど、「寝取られ率」の高い鳥ほどオスが色鮮やかだったり声が美しかったりするそうです(P.151)。

さらにオスとメスで外見に差がないが、寝取られ率が高い鳥もいます。ミヤマシトド(寝取られ率三六・〇%)がその例ですが、この鳥は歌がうまいことで有名で、外見ではなく、歌がオスの魅力になっている。彼等の場合にはこう議論できるでしょう。浮気をするほど歌がうまい。そう進化する、と。

これは納得。倫理的な観点を除外して語るならば、日本にも古代から異性に対する想いを歌にしたためた慣習があり、遺伝子や免疫性という絶対的な優位を乗り越えるためにも、オトコは身体を鍛えたり、楽器を上手く演奏できるように練習したり、ときには異性を口説くだけでなく、他の同性を論破するまでにことばを先鋭化させたりします。金やモノに対象を変えることもあるけれど、誤解を恐れずにいえば、根本的には狙った異性を手に入れるための努力です。結婚が、倫理観が、というのは、竹内久美子さんの言うように負け犬の論理に過ぎず、すべてが「繁殖戦略(P.165)」のひとつなのかもしれません。

さて、ここで最初のぼくの直感に戻ってみます。

黒川伊保子さんの音声と感性についての本や、竹内久美子さんの遺伝子からレンアイを解明する本など、個人的には非常に興味をそそられます。が、正直なところ、科学的な根拠についてまったく疑問がないとはいえません。やや首を傾げる箇所もあります。

が、しかし。竹内久美子さんが書かれている通り、男性の指にこだわる女性は、免疫力が高く良質の生殖機能をもった男性を品定めし、大勢の女性のなかから自分に関心を向かせる、ゲットする意識が高いと考えます。となると、いいオトコに注目されるために、女性も外見なり内面なりを磨かざるを得ません。ファッションやスタイルを洗練させることはもちろん、多様な知性を求めたり、向上心が高かったり、音楽や美術などゲイジュツに対する感性を追求するようになる。結果としてそういう女性は、いいオンナなのでは、と。

と、自分勝手に腑に落ちたのですが、いかがでしょう。女性側の意見も訊いてみたいところです。

投稿者 birdwing : 2010年6月23日 20:41

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6 Comments

匿名 2010-06-28T01:52

シンメトリー テストステロンで検索したら
ここに辿り着きました。
自分の周りに病弱な人が何人かいますが
やはり鼻が曲がっていたり
左右の目の大きさが違ったりと顔に歪みがあります。
更に言動を見る限りテストステロンの数値は低そうです。
テストステロンの数値の高さと
気の強さは比例するらしいですが
テストステロンが高すぎると知能があまり発達しないらしいです。
ヤンキーや不良に頭が良い人がいないのはそういうことなんですね。
生命力や免疫力の高さで選べばテストステロンが高い男。
頭脳的で頭のいい男を選ぶならエストロゲン優位の男という感じでしょうか。
興味深い記事でした。

BirdWing 2010-07-21T20:28

まずはお詫び申し上げます。大変失礼しました。せっかくコメントをいただいたのに、およそ1ヶ月のあいだ保留にしていました。コメントがあったときにメールで通知しているのですが、メールが届かなかったようです。申し訳ありませんでした。

遺伝子およびホルモンは完全に解明されていない科学の分野とはいえ、人間の魅力や能力に関連がある印象が強いですね。知性ではない分野でモテモテの男性もいるわけで、どちらかというとそちらのほうが男らしかったりします。不良だったり、ちょいワルな男性です。そういう男性が羨ましいです。とはいえ知性もスポーツも、才能を極めるという意味では同じかもしれません。モテるオトコは、何かに秀でているもの、かもしれません。その要素のなかに、人間性もあるといいなーなどと控えめに考えてみたりしますが、すべてが遺伝子で決まってしまうと若干がっかりですね。

21世紀、これから先の未来には、平凡な男性も遺伝子やホルモンを操作して、モテるオトコに変えることができるようになるのでしょうか。よいような悪いような未来です。こころで勝負だ!と、おもったりします。もし、こころが遺伝子で決まらないのであれば。

ekilyfsr 2010-08-14T06:55

深いですね・・。

これからの人生、
出会う人の薬指をみてしまうでしょう。

「ハゲに胃がんなし」の言い伝え
つぼにはまってしまいました。

この言い伝え?も
これから私が広めることでしょう。
笑いまじりに・・。

勉強させていただきました。

ツイッターからきました。
「やさしいライオン」
教えていただいて有難うございます。

星の王子様でリプライをいただきましてから
ブログも拝見させていただいております。

本当に大切な人との絆は目に見えない

その言葉、実は本当に深く同意しました。
ツイートではあんな書き方になりましたが。

言葉やお考えが
深くて、
美しくて、
すばらしい巡り会いに
感謝しております。

これからも宜しくお願いいたします。

BirdWing 2010-09-25T08:45

コメントありがとうございました!せっかくコメントいただいたのに、1ヶ月以上もコメントの公開を遅らせてしまって大変失礼しました。お名前を匿名にされていますが、いつもツイッターでお話させていただいているあの方ですよね。こちらにもコメントいただき、とても嬉しいです。

薬指が遺伝子的に「能力」に関連しているという説、結構ショックでした。がーんと打ちのめされました。「ハゲに胃がんなし」も科学的に証明されると、説得力が違いますよね。

池谷裕二さんや黒川伊保子さんなどの書かれた脳や言語や遺伝子に関わるこの類の話がぼくは大好きなのですが、全面的に科学では解明されない部分もあるところがいいとおもいます。救いでもあります。遺伝子的に劣っていても(と、いう言い方がよいかどうかわかりませんが)、成功していたり、しあわせなひとはいくらでもいるわけで、にんげんって、ほんとうに深いですね。

やなせたかしさんの「やさしいライオン」は、幼いぼくのこころに楔を打ち込んだような絵本でした。ハッピーエンドばかり信じていた自分に、世のなかには叶わない願いもある、ということを教えてくれた本です。一方であの絵本は、母親の犬とライオンの子供の「絆」を描いた物語ともいえます。

「星の王子さま」の「かんじんなことは、目では見えないんだ。」というキツネの話も大好きな部分ですが、ぼくも目にみえない絆を大切にしたいと考えています。お褒めのことば、すこし照れちゃいましたが、とても嬉しかったです。まだまだにんげんとして稚拙ですが、いただいたコメントのことばを励みにしつつ自分を磨いていきたいなあと感じました。

こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。

酔いどれ吟遊詩人 2011-06-02T01:15

初めまして、酔いどれ吟遊詩人と申します。
いや~、大変参考になりました。
実に有意義な記事有難うございました。

但し、人差し指とアレのサイズの相関関係は、人種的に例外が発生すると思うんですよね。

確かに、単独の指ではなくて、身体全てが長い造作の人間はアレも比例すると思います。

ですが、私は、日本人で身長160~165cmで、約20cmクラスのサイズの人間を知っています。残念ながら私ではありませんが。笑い^^!

単なる例外なのか、鼻のサイズに比例していたのかが今後の研究課題になるのではないでしょうか。

更に、そう云えば、確かに母方の禿る家系にはガンが死亡原因というのは聞かないでしたね。

お邪魔致しました。

BirdWing 2011-06-02T20:54

酔いどれ吟遊詩人さん、はじめまして。大阪からようこそ。

有意義な記事かどうかわかりませんが(笑)、自分としても、竹内久美子さんの本は非常に興味深いものがありました。すべての男性の指とアレを相関付けてしまうのはいかがなものかとおもいますが、末端を形成する遺伝子が同じ、ということは説得力があります。鼻との相関関係もよくいわれますね。生物学的にどうなんでしょう。

うひょ~。背が低いのにご立派なものをお持ちな方もいらっしゃるのですね。羨ましい(笑)ただ、モノの大きさも大事ですが、愛情の大きさも大事ではないかとおもいます(負け惜しみ)。

今後、科学の発展により、いろいろなことが解明されていくことでしょう。しかし、謎は謎でそっとしておいてほしい、などともちょっとおもったりして。

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