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2010年8月24日

[DTM作品] chaos cosmos (カオスコスモス)

NHKで放映されていた「Schola 坂本龍一 音楽の学校」。バッハ編、ジャズ編、ドラムズ&ベース編と3部構成でそれぞれ4回ずつ、対談とワークショップ、解説で構成されていて、とても興味深いものでした。


100824_schola.jpg


日付け変更線をまたぐ深夜の番組だったので、ついつい見逃してしまうことが多かったのですが、先日BShiで再放送があり、このときばかりは頑張って全回を一気にまとめてみることができました。満足、満足。

ドラムズ&ベース編では、坂本龍一さんに加えて、高橋幸宏さん、細野晴臣さん、ピーター・バラカンさんの対談、さらに小山田圭吾さんなども参加したビートルズやスライ&ファミリーストーンなどのコピー演奏があり、非常に豪華でした。

しかし、いま振り返って考えてみると、YMOのメンバー3人が集結した回はファンにとっては垂涎ものですが、個人的にはクラシックやジャズの回のほうがよかったかも。坂本龍一さんが通常手がけている音楽ジャンルとは異なった分野を解説した回のほうが、スリリングな感動があった気がします。

特にジャズ編では、フリージャズのピアニスト山下洋輔さんをゲストに迎えて、ジャズとは何かというテーマのもとに、コードからモード、そしてフリージャズへの変遷の歴史を追いかけていて勉強になりました。ジャズの歴史は端的にいってしまえば、社会制度と音楽の「解放」の歴史だったと感じました。

坂本龍一さんがジャズのセッションに参加するのは初めてだったとか。グランドピアノが向かい合って置かれ、坂本龍一さんと山下洋輔さんが対峙して演奏するとき、水を得たサカナのような山下洋輔さんに比べると、若干、坂本龍一さんの演奏には戸惑いを感じました。が、その異なるジャンルへの挑戦と融合が見所でした。

中学生と高校生、そして大学生のビッグバンドを交えたワークショップでは、フリージャズを体験してみるセッションがあったのですが、演奏をはじめる前に、「何をやってもいい。けれど自由には責任がともなう」と語る山下洋輔さんが印象に残っています。

そんな「フリー」な演奏にインスパイアを受けて、自分の枠を取り払おうと考えつつ曲を作ってみました。

タイトルは「chaos cosmos (カオスコスモス)」としました。「cosmos(コスモス)」 には宇宙という意味もありますが、「chaos(混沌)」の対義語として「秩序」という意味もあるようです。混沌とした宇宙。混沌のなかにある秩序。なかなか意味深長です。

ブログで公開します。お聴きください。

I don't think that freedom means unrestrained conditions. Freedom is often accompanied by responsibility. If we lost our own order of responsibility, freedom collapses, and it becomes chaos. Chaos is opposite word of cosmos. It means "order " besides the meaning of "space". I made this tune with image of chaos and cosmos. So I named the title of this tune to "chaos cosmos". I'd like you to listen to this tune.


■chaos cosmos(4分33秒 6.25MB 192kbps)

作曲・プログラミング:BirdWing


「Schola 坂本龍一 音楽の学校」のジャズ編では、フリージャズの先駆としてオーネット・コールマンの「ジャズ来るべきもの」というアルバムが紹介されていました。思わず買い求めたところカッコいい。特に気に入ったのは「Chronology 」という曲です。YouTubeから。


Ornette Coleman - Chronology


B0010OH7T2ジャズ来るべきもの(+2)
オーネット・コールマン
Warner Music Japan =music= 2008-02-20

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さて、自由についてもうすこし。

感想を書きたいとおもっていながら手強いので着手できていませんが、マイケル・サンデル「これからの正義の話をしよう」は非常に考えさせられる本です。


4152091312これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
マイケル・サンデル Michael J. Sandel 鬼澤 忍
早川書房 2010-05-22

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リバタリア二ズム(自由至上主義)に対する批判を中心に、自由とは何かを考える素材がたくさん用意されています。ジェレミー・ベンサムの「道徳の至高の原理は幸福、すなわち苦痛に対する快楽の割合を最大化すること」という功利主義からはじまり、ジョン・スチュワート・ミルの「自由論」にも触れます。次のように書かれています(P.67)。

『自由論』の中心原理は、人間は他人に危害を及ぼさない限り、自分の望むいかなる行動をしようとも自由であるべきだというものだ。政府は、ある人を本人の愚行から守ろうとしたり、最善の生き方についての多数派の考えを押し付けようとしたりして、個人の自由に介入してはならない。人が社会に対して説明責任を負う唯一の行為は、ミルによれば、他人に影響を及ぼす行為だけだ。

しかし、イマヌエル・カントは功利主義を批判し、正義と道徳と自由を結びつける厳格な自由を求めます(P.143)。

カントの考える自由な行動とは、自律的に行動することだ。自律的な行動とは、自然の命令や社会的な因習ではなく、自分が定めた法則に従って行動することである。
カントの言う自律的な行動を理解する一つの方法は、それを自律の対極にあるものと比較してみることだ。自律の対極にあるものを表わすために、カントは新しい言葉をつくった。「他律」だ。他律的な行動とは、自分以外のものが下した決定に従って行動することだ。

功利主義よりも、カントの自律の考え方に深く共感しました。自由であることは、社会に流れている定型のことばに疑問を抱き、自分のモノサシで考え、語ること、行動することに他ありません。他律的に外部の価値観に束縛されたら自由ではない。ステレオタイプな価値観を疑い、ときには多数の発言に抗う勇気があることも自由でしょう。

善人は定型的な多数決の価値観に満足し、そこで思考停止してしまう。けれども、ほんとうに自分はそれでいいのか、と考えつづけること。ごまかさないこと。無闇に既存の価値観を破壊する必要はありませんが、自分のなかにある格律にしたがうことが自由だとおもいます。

自由ということばから、エーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」という本もおもい出しました。


4488006515自由からの逃走 新版
エーリッヒ・フロム 日高 六郎
東京創元社 1965-12

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ふつうぼくらが考えるのは束縛からの解放、自由「への」逃走です。しかし、この本のタイトルは自由「からの」逃走となっている。フロムは近代化の過程で、大きな何かに守られていた個人(特に中産階級)が自由になり、かえって孤独や不安を感じるようになってしまった、という社会現象を指摘しています。

そして、ファシズムや権威主義、オートマチックな機械などに個人を委ねることによって、自由を放棄することによって安心感を得ようとするのではないか、と指摘しています。ヒトラーのナチズムが台頭する第二次大戦中に書かれた本としては、画期的かつ過激であると感じました。

ここでイメージが重なるのが、ジョージ・オーウェルの近未来小説「一九八四年」でした。


4151200533一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル 高橋和久
早川書房 2009-07-18

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永続的に交戦状態にあり、ビッグブラザーが讃えられ、テレスクリーンという装置によって常に監視されているような社会。政治的な意図から危険な思想を生む言語はどんどん削られて、ニュースピークということばになり、過去の歴史は逐次都合のいいように改竄されている。思考警察に捕まると酷い拷問と洗脳が待っているため、誰もが無気力かつ神経質に制度に従います。物語のなかでは、次のようなことばが掲げられます。

自由は隷従なり。

ぞっとするような世界ですが、あながち空想ともおもえないところが怖い。社会に対する深い洞察が描かれた小説だとおもいました。

カオス(混沌)から秩序(コスモス)へ。

ぼくの考える秩序とは、体制や社会の規範というような外側にある秩序ではなく、自己の内側で生成される秩序です。自己の内側にある規範はどうしても外側からの圧力に脆く、揺らいでしまうのだけれど、思考を鍛えることで、自分なりの秩序を形成したいと考えています。

さて、理屈っぽい自由論がつづいてしまいましたが、最後に「chaos cosmos(カオスコスモス)」の制作メモです。

基本的にはリズムはワルツ(8分の6拍子)で、ワルツっぽく聞こえないリズムをめざしました。WAVEによる音声ファイルもたくさん貼り込みましたが、今回は「フリー」のVSTiもたくさん使っています。リズムはいつも通りのRhythmsV3.6.1とともに、中盤からTakim。これは中近東のパーカッションをサンプリングした音源です。クラップ(手拍子)もとてもリアル。

パッド系は、単音でRolandのGrooveSynth、Crystal、SUPERWAVE P8、Cygnus-O、padwan、MinimoogVAの6つを使用。Cygnus-Oはスペーシーな音が出るのですが、Crystalと同様、とてもクセがあるので使いにくい音源です。SUPERWAVE P8とpadwanは同じような音になってしまいました。

最近、ソフトウェア音源漁りをしていないので、2~3年前の古いソフトばかりです。最新の音源事情はどうなっているんだろう。久し振りにインターネットでフリーのソフトウェア音源漁りの旅にでも出ようかなあ。

音声ファイルはリズムパターンの切り貼りに加えて、ブレイクビート系の音、水滴がしたたるような効果音、ノイズ、ドローン系の音など満載です。深いリバーブをかけたり、フィルターをかけたり、加工しました。

それにしても、センスよく音をインポートして貼り付けるのは難しいですね。打ち込みが点描画だとすると、音声ファイルの切り貼りは新聞紙や写真を切ってコラージュするポップアートのような感じ。ところが、音の遠近感や余白など絵画的なセンスが求められます。

カオス(混沌)などとタイトルに付けながら、結局のところ整然とした作品になってしまった気もします。反省。

投稿者 birdwing : 2010年8月24日 20:45

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