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2010年8月29日

[DTM作品] QOL(クオリティ・オブ・ライフ)

英語でツイッターをやっていると、さまざまな短縮表現に出会います。140字しか書けないので、短縮することで文字数を節約するわけです。

はじめは何のことやらわからないものもありました。けれども、英語でツイッターをするための本を買い求めていくうちに、なるほどなあとわかるようになりました。一例を下に挙げてみます。

  • LOL:Laughing out loud (笑)
  • GM:Good morning. おはよう
  • THX:Thanks ありがとう
  • BTW:by the way ところで
  • BBL:be back later あとで戻ってきます
  • CU:See you. またね
  • OMG:Oh my god なんてことだ
  • PPL:people ひと
  • 2:to, too
  • 4:for
(参考:「Twitterで英語をつぶやいてみる」石原真弓・NHK出版生活人新書、「英語でTwitter!」有元美津世・ジャパンタイムズ)

日常に使われていることばにもたくさんの短縮形があります。特にビジネス用語。ご存知のようにITはInformation Technology (情報技術)の略であり、CSはCustomer Satisfaction(顧客満足)です。短縮化すると文字数が減るだけでなく、概念もぎゅっと圧縮される気がします。簡略化の半面、意味が削ぎ落とされる印象もなきにしもあらず、ですが。

ジョージ・オーウェルの小説「一九八四年」では、ひとびとを洗脳しイデオロギーを浸透させるために、ニュースピークという言語が物語内で使われていました。創作であるにもかかわらず、巻末に付録として架空の言語の原理について解説を掲載するほどの徹底ぶりです。

ニュースピークでは、ことばを短縮させるだけでなく、badという概念を消滅させてungoodで言い換えるなど、ことばの数自体も減少させます。言語は思考に直結しているため(というより人間は言語で考える生き物なので)、ことばの数を制限することで余計な思考を排除できる、と考えられているようです。凄い発想をするひとだなあ、ジョージ・オーウェルは、とおもいました。

140字という制限があるツイッターでは、日本語も短縮されています。よくみかけるのは「おはあり(おはようありがとう)」、「おつあり(おつかれさまありがとう)」という感じ。暗号化することで記号的には軽くなり、情報伝達を速めます。また、顔文字などの記号も、テキストだけでは伝えにくいノンバーバルな感情表現を伝えるために使われます。

ネットでソフトなどをダウンロードするとき、ファイルを圧縮して容量をちいさくしてオンラインの負荷を減らし、自分のコンピュータで解凍する。あの作業に似ているかもしれません。ぼくらは短縮された記号を「解凍」して、書かれたひとの感情を読み取ります。そこには独自の解凍のためのコードが必要であり、コードのわからないひとには何のことやらわかりません。

使い慣れてしまうと短縮形の世界にどっぷりと嵌まってしまうけれど、あらためて考えるならば、短縮されたことばには何か殺伐とした記号の世界を感じます。といっても、これは懐古主義的な、いわゆるおじさんの発想かも。若い世代にとっては逆に、短縮されたことばに親近感のようなぬくもりを感じるのでは。

そんなことばの短縮形のことを考えていたら
 生活の豊かさは冗長性にあるのではないか、
という思いがぼくのアタマのなかに浮かびました。

つまり短縮されない、長ったらしい言語の世界が豊かなのかもしれない、ということです。ぼくのブログがその体現なわけですが(苦笑)、ワード数やスペースの制約を受ける職業ライターならいざしらず、個人的なブログは、書きたいことを制約にとらわれずに書けばいい。スタイル(文体)なんて構わない。定型のことばに嵌まるよりも、枠をはみ出したことばのほうが面白い。

ビジネスには効率化が必要ですが、個人生活に効率化は不要。ムダ、冗長性が大事ではないでしょうか。ビジネス思考の枠組みを利用してプライベートも管理するライフハックの発想がありますが、ぼくは嫌いです。私生活まで管理されたくないでしょう。だらしなくてもいいじゃん。

そもそも音楽や文学や映画などゲイジュツ全般がムダであり、それらはあってもなくても生きていけます。つらい片思いのレンアイや仕事の人間関係だってムダばかり。どうでもいいことにどっぷり浸かっている時間は、人生の浪費以外のなにものでもない。でもですね、そのムダがいいんだよなあ。

幸福とは冗長性である、とぼくは考えます。

無意味にムダなことは、とてもしあわせです。ぼーっとしている時間、あるいはどうでもいいことに没頭している時間って、なんだかしあわせではないですか。ぼくだけですか。もし、ああこんなムダなことに時間を費やしてしまった、と自責の念を感じるようであれば、自分にとって幸福とは何であるか価値観を見直したほうがいいかもしれない、とぼくは考えます。実際に、そうやって考えてきました。

人生は、みっちり密度の高い時間ばかりで構成されているわけではない。エリート志向の方は、時間を確実に消費しがちですが、意味があり過ぎる人生は疲れるとおもいます。完全燃焼すると、燃え尽きてしまいます。人生に意味なんてなくてもいい。消化できない不条理なことがあっても結構。ぐだぐだ悩んで迷っている時間も大切。過激なことをいってしまえば、ゴミや身体に悪い酒やタバコも必要ないからこそ意義がある。

と、無駄なことを長々と書きましたが、そんなことを曲を作ったあとで考えました。

今回の曲は「QOL」といいます。Quality of LIfe(生活の品質)の短縮形です。ブログで公開します。お聴きください。

I think that happiness is a redundancy. All the arts like literature, music, and the movie, are not always useful for our life. But there is a value because it is useless. In the field of the business even if efficiency is necessary, it isn't necessary in private life. It is happy that we can spend surplus time. I made this tune thinking about the quality of the bountiful life. The title of this tune is "QOL". QOL is abbreviation of "Quality of life". I'd like you to listen to this tune.


■QOL(4分00秒 5.49MB 192kbps)

作曲・プログラミング:BirdWing


ちなみに、Wikipediaで「QOL」について調べると、次のように書かれています。医療用語でもあるようです。

クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life,略語:QOL)は、一般に人や社会の生活の質、つまりある人がどれだけ人間らしい生活を送り、「幸福」を見出しているかを尺度としてとらえる概念である。「幸福」とは財産や仕事だけではなく、住宅環境、身心の健康、教育、レクリエーション活動、レジャーなど様々な観点から計られる。したがって個人の収入を基に算出される生活水準(英:standard of living)とは分けて考えられるべきである。

楽曲制作の背景はとてもシンプルです。アンダーワールド風のノリのいい曲を作りたかった、ただそれだけの動機でした。しかし、彼等のアルバムは2枚しか持っていないので、久し振りにレンタルCDショップでアンソロジーを借りました。2枚組みのアンソロジーです。聴き直しておもったのは、この曲が好きだということ。YouTubeからライブを。


B0000D8RJHunderworld 1992-2002 (Japan Only Special Edition)
アンダーワールド
V2レコーズジャパン/コロムビアミュージックエンタテインメント 2003-10-16

by G-Tools


攻撃的なリズムと叙情的なパッド系シンセがいいですね。この曲が使われている(らしい)「トレインスポッティング」という映画って観たっけかな。観たような気もする。けれども記憶が確かではありません。

制作メモです。

今回、制作手法としては前回作った「chaos cosmos」を踏襲しています。ただ、前回が非常に混沌とした作り方だったのに対して、今回はより先鋭化させたつもりです。

まず、GrooveSynthでベースラインを作って軽くワウをかけ、(自分としては。苦笑)なるべく攻撃的なリズムを組むことをめざしました。左右別々のトラックを作って、スライスしたドラムの音声ファイルを左右に振っています。が、実は意外に繊細に組み立てているのです。途中から、中南米系のパーカッション無料音源のTakimを多用して、メリハリをつけました。

とはいえ、アンダーワールドを研究しておもったのですが、ぼくは割合細かくリズムを変更したりメロディを変えたり小細工をするのだけれど、彼等のリズムは変化がない。一定のリズムを延々と繰り返している。ムダに長いなー、と(笑)。しかし、その冗長性が気持ちイイ。小細工に凝って、シンプルなリズムの気持ちよさを忘れていたことに気付かされました。なので、攻撃的でありながらビートの気持ちよさを追求しようと考えました。

ワウのギターソロが中盤に出てきますが、これ、弾いてないんですよね(笑)。細かいフレーズ素材集のピッチを調整して、切り貼りして作っています。ちゃかちゃかというカッティングノイズが好きです。ストリングスのシンセはアンプシミュレーターのディストーションを通して歪ませています。

没頭しているうちに、あっという間に時間が経ち、いつの間にか曲が完成していました。DTMの趣味をやっている時間が、ぼくには至福のときですね。しあわせだなあ、とおもう。永遠に曲を作りつづけられたらいいのですが。

投稿者 birdwing : 2010年8月29日 10:52

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2 Comments

mondale insurance 2010-10-17T03:07

Great post! You should definitely follow up on this topic???

Kind regards
Wesley

BirdWing 2010-10-17T10:59

Thanks for your comment!
Glad you said that.
I'm thinking about following up on this topic.

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