10歳に学ぶ仕事論。
子供たちは夏休みに入りました。ラグビー部のマネージャーをやっている長男は2週間の長い部活の合宿に出かけていきました。次男はおととい熱を出してしまったのだけれど復活。大好きな絵ばかり描いています。
「夏休み」は素敵な言葉ですね。ノスタルジックな響きがあり、ぱあっと青空が広がるようにさわやか。ぼくには夏休みというものがないのだけれど、気分だけでも夏休みを取っています。
さて、こちらのブログは3ヵ月ぶりの更新となります。
みなさまいかがお過ごしでしょうか。
3ヵ月の間、生きることにせいいっぱいで、ブログを書いているどころではありませんでした。そんなわけで更新が滞っていたのだけれど、いまやっと仕事が一段落して、ふたたびブログに向かっています。
昨日やり終えた仕事は、10万5,000文字の原稿執筆です。
正確に言うと110,899文字書き上げました。7月3日にお仕事をいただいてから、わずか20日間でそれだけの量を書き上げたことになります。内容はビジネス書籍です。守秘義務があるので詳細は語れないのですが、自分の経験、人生論、マーケティング知識、ビジネス知識、読んだ本、新たにウェブで探した情報など、あらゆるものを動員して原稿を書きました。ふー。いま、スポーツをやり終えたときのような充実感があります。
フロー状態(Wikipedia: フロー)というのでしょうか、これは心理学者のミハイ・チクセントミハイによって提唱された言葉のようだけれど、集中して時間を忘れるような状態にありました。「自分は永遠に書ける」という確信があったし「永遠に書き続けていたい」ともおもった。
モーツァルトは大量の曲を作曲しましたが、こういう状態にあったのではないでしょうか。あるいは「情報のエコシステム(生態系)」という言葉を思い付いたのですが、情報のインプットと文章を書くアウトプットを「呼吸」をするようにリズミカルに繰り返していくと、いくらでも文章は書けるのだな、と感じました。
そんな状態にありながら、書かずに放置していたエントリのテーマを思い出しました。それが「10歳に学ぶ仕事論」です。
10歳というのは、うちの小学校5年生の息子のことなのですが、彼が4年生のときに書いた作文を読んで感心したことがありました。おとーさんの親ばかという気もしないではないのですが、そのことを書いてみますね。
作文は『夢に向かって』というテーマでクラスの全員が書いたもので、文集として配布されました。サブタイトルに「なりきり作文」とあり、「○○になったぼく/わたし」という大人になった自分を想像した作文なのです。
目次には「パティシエ」「医者」「ゲーム開発者」「地図せい作者」など、各自が想像した未来の自分の職業が並んでいます。「ジャニーズ」というのはママの希望もあるんですかね。「幸せな家庭」というのもある。女の子かとおもったら、男の子が書いている(素敵だ)。
うちの次男の夢は「イラストレーター」でした。全文を引用してみます。
イラストレーターになったぼく今、ぼくは、二十二歳です。夢だったイラストレーターになれました。
すごく大人気で、多くのマンガや、アニメを作っています。自分が作ったイラストを使ってくれたので、すごくうれしいです。
ぼくは、イラストレーターなので、イラストを作るのにすごく一生けん命です。十三年前、イラストレーターになりたかった理由は、絵を作って、さまざまな自分の絵を使ってほしかったからです。
広告のイラストや、本のカバーを作ったりすごくいそがしいです。
いつも、午前十時に、家を出ています。仕事をすると、つかれて家に帰ってくると毎日すぐねむくなってしまいます。
そして、ある日、また仕事がやってきました。
ぼくは、最近イラストの仕事が多くなってきたので前の倍つかれます。ゲーム開発者の喜信君といっしょに、仕事をすることもあります。今日の仕事は終わりましたが、喜信君にイラストをたのまれたので、また一つ、仕事が増えました。その仕事も終わりました。
二月になったある日、いつものようにイラストをかいていると、ゲームしゅっぱん社が来たので、
「なにか用ですか?」
と聞くと、
「あなたの作品を使わせてください。」
と言われました。その時、すごく嬉しかったです。
そしてさっそく、仕事をしました。その仕事は新しいキャラクターの開発なので、すごく大変です。ぼくは、ぶたのキャラクターを考えました。その仕事も終わったので、あとはもうやることはありません。でも、さっそくまた次の仕事が来ました。その仕事も引き受けたので、また一つ、仕事がふえてしまいました。
ぼくは、この仕事でよかったなと思いました。なぜかというと、こんなに仕事があるけれど、大好きな絵がたくさんかけるからです。これからも、みんなにおもしろいと言ってもらえるイラストをかいていきたいです。
テキストに起こしながら、おもわず微笑んでしまいました。いいなあ、きみ。作文用紙の最後の余白にはイラストが描かれています。以前にブログでも紹介した、ぶたのキャラクターです。せっかくなので、作文全体を写真に撮って掲載しておきます。
つっこみどころ満載な彼の作文ですが、仕事の先輩であるおとーさんとしては、あらためて学ぶところも多くありました。なので、つっこみつつ、彼の作文から学ぶべき3つのポイントを解説してみます。
■POINT-01:プロとしての覚悟と自己実現
まずは次の部分です。
ぼくは、イラストレーターなので、イラストを作るのにすごく一生けん命です。
京セラおよびKDDI(旧・第二電電)の創業者である稲盛和夫氏は、そのいくつかの著書で、まず目の前にある仕事に集中しなさいと語られています。しかも中途半端な集中ではなく、寝ても覚めても仕事のことを考え抜くような集中です。「愚直に、地道に、真面目に、誠実に」働け、という言葉が著書『働き方』にありました。
働き方―「なぜ働くのか」「いかに働くのか」 稲盛和夫 三笠書房 2009-04-02 by G-Tools |
プロフェッショナルであるためには、まず自分の仕事を「好き」でなければいけません。なぜなら嫌々やっている仕事はどうしても手を抜きたがるものであり、集中できません。また、その仕事のプロである「覚悟」が必要です。覚悟がなければ逃げができるからです。「ぼくは、イラストレーターなので」と次男は覚悟していますが、だからこそ辛い仕事もやり遂げられる。その覚悟を評価したい。
そして「すごく大人気」な喜ばれるコンテンツを提供することによって「すごくうれしい」と感じているところがいい。つまりお客様の喜びを軸として、自分の喜びにつなげている。心理学者のマズローは「自己実現理論」として欲求5段階説を提示していますが(もう一段階上もあるようですが)、その段階でいうならば4段階目の「承認(尊重)の欲求」を満たしているといえるでしょうか。彼の手掛けている仕事はイラストというクリエイティブなものなので「自己実現の欲求」にも到達しているともいえます。
とはいえ。
ぼくは、最近イラストの仕事が多くなってきたので前の倍つかれます。
疲れすぎだよ(苦笑)。ちょっとは休んでください。
■POINT-02:仕事のバリエーションとパートナーシップ
イラストの仕事を単なるマンガ家のようなイメージで捉えるのではなく、商業的な「広告のイラスト」、出版社向けの「本のカバー」つまり装丁デザイン、ゲーム業界に向けた「キャラクターの開発」のように、イラストをドメイン(主要な領域)として定めるとともに、仕事のバリエーションを拡げていることには感心しました。というかキャラクターの「開発」って、業界用語ではないでしょうか。ふつうは使わないよね。よく知ってるなあ。
さらに大切なことは、ゲーム開発者になった「喜信君」との協働ですね。仕事はひとりでするものではありません。他の人の力を借りることによって、相乗効果(シナジー)を生み、もっと大きな仕事ができます。イラストレーターの次男はプログラマーである喜信君と組むことで、ゲームという商品化ができる。自分の強みと他者の強みを踏まえた上でコラボすることは大事なことです。パートナーシップといえるでしょうか。お客様はもちろん、取引先や提携先、外部協力会社さんとの協調関係は大切にしたいものです。
■POINT-03:営業しない営業が究極の営業
都合よすぎるだろーとおもいながらも、ちょっと羨ましかったのは、イラストレーターの次男には次から次へと仕事がやってくること。けれども実績があるからこそ仕事が舞い込んでくるわけで、「仕事が仕事を呼ぶ」状態なのだとおもいます。
究極の営業は「営業しなくてもお客様の方から声をかけてくれる」ことです。もちろん、そんな都合のいいことなんてないよ、地味な電話かけの新規開拓なくして仕事はないね、という考え方もあります。しかしながら、著名なコンサルタントは待っていても次々に仕事が来るといいます。というのは、著作や講演などで興味を持ったお客様が自発的に声をかけてくるからです。要するに優れた「コンテンツ」が仕事を呼ぶわけです。
デジタルマーケティングの世界では、コンテンツ・マーケティングとかインバンド・マーケティングが注目されていますが、小難しい理論や輸入しただけのクラウドによるシステムがどうかという些末なことは置いておくと、その要諦は「営業しない営業」だと考えます。つまりアウトバウンドによる営業活動をしなくても、お客様の方から関心を持って検索してコンテンツに集客できる。
次男の夢は、いま企業の宣伝部門や広告業界のマーケターが必死でやろうとしているプロモーションのポイントを突いていると感じました。
しかしながら、新商品の究極のプロモーションは「商品力(Product)」ではないかと考えます。「戦略PR」などということもいわれますが、商品自体が魅力的で斬新であれば、放っておいてもメディアは取り上げてくれるだろうし、口コミも広がります。
エドモンド・ジェローム・マッカーシーが提唱した古典的な4Pでいうと、流通のチャネルの開拓(Place)、気の効いた宣伝販促活動(Promotion)、安売りなどの価格(Price)の戦略に注力しなくても、商品が優れていたらあっという間に売れますよね。当たり前といえば当たり前なのですが、くだらないソーシャルメディアのプロモーションやマーケティングデータを分析する機能ばかり肥大したシステムにお金を捨てるぐらいであれば、メーカーは商品開発にリソースを投下したほうがいいんじゃないのかな、とおもいます。
・・・
次男の作文からいろいろ考えたことを書いてみました。親ばかなおとーさんとしては、彼が描いた未来にちょっと期待しています。でも、実現できなくてもいいんですよね。実現しなくてもきみの人生はまったく損なわれるものではないし、自分の未来を生きればいい。
未来を描くこと、構想すること自体が大事なことなのです。描いた未来は、どんな形であったとしても実現するものであり、そうやって人類は新しいテクノロジーを生み出したり、世の中をよりよい方向へ変えてきたりしました。
まず想像すること。
「想像」することが「創造」を生みます。
どんな自分になりたいか、どんな仕事をしたいか。そしてその仕事によってどんな社会を創っていきたいのか。まずは想像してみることです。脳裏に鮮やかにイメージできるぐらいに。
ジョン・レノンも言っています。
「想像してみなよ(Imagine)」と。
投稿者: birdwing 日時: 08:46 | パーマリンク | トラックバック (0)