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2009年3月25日

デザイナーの葛藤と憂鬱。

CNET Japanの「グーグルのビジュアルデザイン責任者が退職--データ中心主義に嫌気」という記事を、わかるなあと思いつつ、やや苦い気持ちを抱きながら読みました。

先日IE8の正式版もリリース。ブラウザ開発では一時期、各社が戦々恐々と表示速度を競った末、現在ではほぼ互角のスピードになりつつあり、今後はセキュリティ上で堅牢かどうかが求められているようです(WIRED VISIONの記事を参考)。機能性を重視すると、デザインの豊かさより情報取得のスピードや安全性が重視されるのでしょう。

ところが、感性よりも技術志向かつデータ至上主義の取り組みが徹底されていくと、美しいプロダクトを求めるデザイナーのモチベーションは奪われる。文系のぼくには共感できることです。なんとなくですが、わかる。

記事では、Douglas Bowman氏のブログに書かれた彼の嘆きが引用されています。彼のブログ「stopdesign」の3月20日のエントリ「Goodbye Google」から、実際の英文も引用してみます。まずは以下の部分。

When a company is filled with engineers, it turns to engineering to solve problems. Reduce each decision to a simple logic problem. Remove all subjectivity and just look at the data. Data in your favor? Ok, launch it. Data shows negative effects? Back to the drawing board. And that data eventually becomes a crutch for every decision, paralyzing the company and preventing it from making any daring design decisions.

CNETの記事では、「Data in your favor? Ok, launch it. Data shows negative effects? Back to the drawing board. (データはいい感じ?オーケー実装しよう。データはネガティブな効果を示してる?じゃあ振り出しに戻ろう:注・勝手に訳しました)」が省略されていますが、以下のように訳されています。

技術者が溢れている企業では、問題を解決するため工学技術を頼りにする。問題を単純で論理的なものに還元し、主観をすべて取り去ってデータだけを見る。やがて、データがあらゆる問題解決を支えるようになり、企業を麻痺させ、斬新なデザインの決定を妨げる。

直感的なデザインに対して、科学技術は客観性を重視します。感覚的に、これがクールだよね?は通用しない。じゃあ、データで裏付けろ、ということになる。けれども、なんとなくよさを感じているからクールなのであって、感性を数値で説明した途端につまらなくなることもある。

マーケティングでもよくあることです。インサイト(洞察)をもとにした画期的なプランがあったとき、リサーチデータで補足するような愚かなことをやってしまうと、途端にありがちな平均的、平凡な何かになってしまう。直感的な発想のきらめきが色あせてしまう。

ここには、ビジネスは芸術(アート)なのか、という命題もあります。否と考えることもできるし、然りともいえる。感性とロジックのどちらを取るか、ということも考えられます。ぼくは感性至上主義をとるわけではありません。すぐれた作曲をするためには音楽理論の裏づけが必要になることもあるように、客観的な知識は大切なものです。スタンスの違いによって、方向性も分かれてくる。

極論かもしれませんが、たとえばアップルは感性重視であるのに対して、ソニーはロジック重視の企業として製品開発をしている印象もあります。戦略の選択によって、企業のめざすべき方向性も変わってきます。

現場の話に戻りましょう。直感的なデザイナーと客観的な技術者の相互理解がなければ、水と油のように反発しあうだけのものかもしれません。つづいて、次の部分。

Yes, it's true that a team at Google couldn't decide between two blues, so they're testing 41 shades between each blue to see which one performs better. I had a recent debate over whether a border should be 3, 4 or 5 pixels wide, and was asked to prove my case. I can't operate in an environment like that. I've grown tired of debating such minuscule design decisions. There are more exciting design problems in this world to tackle.
そう、Googleでは2種類の青色のいずれかで決めかねたら41の中間色をテストして最もパフォーマンスのよいものを選ぶというのは事実なのだ。先日、境界線の幅を3ピクセル、4ピクセル、5ピクセルのいずれにするかが問題になったとき、自分の意見を証明するよう求められた。このような環境で仕事をすることはできない。そうした些細なデザインの決定を論じるのにはもううんざりだ。

この部分においても最後の「There are more exciting design problems in this world to tackle.(わたしたちが取り組む世界には、もっと面白いデザイン上の問題がある。)」はCNETの記事では引用されていませんが、現場の雰囲気がよくわかります。ちなみに、もっと面白いデザインの問題とは何を考えていたんでしょうね。

すこし考察して、こんなことを見出しました。彼の憤りもわかるけれど、一方的にデータ重視がまずいのではなく、ピクセルに対する緻密なこだわりがあるからこそ、グーグルのサービスは高い品質を維持しているといえるのではないか。

凡人のビジネスマンであれば、まあいいか・・・と妥協して歩み寄るところでしょう。しかし、感性をデータで裏付けなきゃならない考え方が納得できん、やめたやめたやめた!というこだわりは、一流の仕事をしているからこそ言えるものかもしれない(あるいは、デザイナーが逆上するぐらいデータ至上主義が徹底されているのかもしれませんけれども)。

結局のところ、どちらに軍配を上げるというのではなく、双方ともに正論であると思いました。仕事をする環境は自分で選ぶものだと思うし、去っていくDouglas Bowman氏がどこか別の場所で納得できるビジュアルデザインができることを祈るばかりです。一方で、卓越した技術を基盤として成長をつづけてきたグーグルがピクセルにこだわり、データを信頼するのも当然です。

残念だと思うのは、どちらも正論であり正論を戦わせる場所にこそ、すごい仕事ができそうだ、イノベーションも生まれるのではないか、と感じたことです。もちろん、過酷な感性と技術の戦いに疲弊してグーグルを去っていくことに決めたのだとは思うのだけれど、デザインVS技術の戦いを突き抜けたときに、ものすごいものが生まれるような気がする。

・・・結論が出ないですね。煮え切らない感想はひとまず置いて、閑話休題。

Douglas Bowman氏のブログをみて、うーむ、かっちょいいなあ、と思いました。シンプルなのだけれど、グレイとイエローの使い方とか素敵だ。グーグルのビジュアルデザイン責任者だから当然なのだけれど。

実は久し振りに、ぼくもブログのデザインをすこしばかりいじってみたいと考えています。

かつては既製のブログサービスを使ってブログを書いていたのですが、2007年8月からレンタルサーバーを借りてMovable Typeでオリジナルのブログを構築しています。テンプレートは無料で配布されたものを利用させていただいているものの、かなりカスタマイズしていて、実験と学習のためにCSSやデザインもいじりました。しかし、きちんと学習したわけではないので、詰めが甘い。かなりいい加減な作り方をしています。プロの眼でみると、なんだこれは、というコードになっているような気がします。

正直なところ、これがなかなか難しい。既成のものだけでは満足できずに、自分だけのブログを作りたかったのですが、現在では、既製のブログサービスでもかなりコードをいじれるようになっています。たぶん文章を書くことだけに集中するのであれば、テンプレートのデザインを選んですぐに使えるような既成のサービスのほうがいい。

しかし、Web制作に携わっているひとたちだと思うけれど、センスのいいオリジナルデザインのブログを構築しつつ、文章や写真も洗練されていたりするひとには憧れます。なんでもかんでも自分でやる必要はありませんが、デザインに凝ることができるのもブログの楽しみのひとつ。書くだけではなく仕組みであるとか、デザインについてもちょっとだけ究めたい。

本、映画、音楽の紹介については、G-Toolsというサービスを利用しています。これはAmazonのAPIを使って商品情報などを提供する仕組みです。ところがAmazonの仕様変更があったようで、いつからか本の表紙写真など掲載した情報の一部が表示されないようになっていました。どうしたものかな、とずっと悩みつつ放置していたのですが、G-ToolsのAjax Amazonのページを参考にブログに簡単なコードを貼り付けたところ、修正することができました。なんだ、もっと早くやっておけばよかった。そんなわけで過去の書籍の表紙やCDジャケットもきれいに表示されるようになってうれしい。

グーグルのビジュアルデザイン責任者の話と比べると、とほほなぐらい初心者の話ですが、そんな風に、きれいなブログを構築することは、デザインだけではなく技術的な知識も必要になります。しかも技術的なものは次々と変わっていく。Web関連のデザイナーは大変だな、と痛感します。

メインページの上にある、自作DTMを聴くことができるmp3プレイヤーも、もう少しかっこいいものに変えたい。春だからかもしれませんが、模様替えの気分が高まっています。

投稿者 birdwing : 2009年3月25日 00:46

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