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2007年4月28日

Nine Inch Nails / Year Zero

▼music07-023:攻撃的なノイズは暴力ではなくてやさしさでは。

Year Zero
Nine Inch Nails
Year Zero
曲名リスト
1. Hyperpower
2. The Beginning Of The End
3. Survivalism
4. The Good Soldier
5. Vessel
6. Me, I'm Not
7. Capital G
8. My Violent Heart
9. The Warning
10. God Given
11. Meet You Master
12. The Greater Good
13. The Great Destroyer
14. Another Version Of The Truth
15. In This Twilight
16. Zero-Sum

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人間はひとつの側面だけで判断できないもので、たとえばやさしいひとのなかにも激しく攻撃的な一面があったりする。その攻撃性もぼくは認めていたい。というのは、攻撃性は必ずしも暴力ではないと考えるからです。ナイン・インチ・ネイルズ(NIN)の音は、皮膚を傷つけるようなソリッドなノイズで溢れていますが、はたしてその音を聴こえている通りに受け止めていいのか。


正直なところ、1・2曲目は個人的には肌に合いませんでした。失敗したかーと思った。ぼくにとっては普通のヘビメタに聴こえてしまったんですよね(苦笑)。基本的にぼくは脱力系のひとなので、あまりにマッチョなディストーションは身体に合いません。本格的なヘビメタではないとは思うんですけどね。


けれども、4曲目「The Good Soldier」におおっと引き込まれて、その曲から6曲目のあたりはかなりいい感じで聴きました。インダストリアルなビートを刻み、外部に感情を発散しながらも、なんとなく内省的な心象風景が感じられる。マッチョではなくてアートっぽい。ジャケットにもありますが、廃れた工場に集まる悪いやつらという感じでしょうか。バイオレンス映画っぽい風景です。けれども悪いやつらなんだけど、独自の美学や哲学がある。ちょっとスマートなワルで、社会に対して批判的に生きることしか選択できなくて、ぎりぎりの生き方をしている。腕にものをいわせる暴力ではなくて、知的な牙で噛みつくハングリーな生き物のような。


音的には、素材のループっぽい演奏だとか、5曲目「Vessel」のノイズの重ね方、左右へのパンなどはかなり好み。6曲目「Me, I'm Not」、9曲目「The Warning」のやや囁き系のボーカルは、少し前に聴いたLOWに通じるものがある気がしました。7曲目「Capital G」はサビがいいな。


いちばんぼくが好きな曲は、15曲目「Another Version Of The Truth」。2つ目のスネアドラムが突っ込んでいるリズムもいいし、アルバム全体のなかでメジャーコードがいちばん引き立つ曲のような気がします。


ノイズの使い方にもセンスがあって(最近わかりはじめてきた)、ノイズを使った演奏のスタイルがある。NINのノイズはかなりアタックが聴いていて、場末のパブっぽい退廃的かつ刺激的な騒音です。ぼくの感覚でいくと、お上品なノイズもあります(クリスチャン・フェネスとかになっちゃうのかな。モグワイも攻撃的でありながら、ある種の繊細さを感じました)。精神に絡んでくるノイズもあるのだけれど、NINはそうではない。ノイズ本来の物理的な攻撃性を最大限に発揮している気がします。たとえば、13曲目「The Great Destroyer」のノイズは完璧だな。ちょっとサラウンド的な処理もしているような気がしました。


リズムもかっこいい。8曲目「My Violent Heart」の静けさから急に変化するリズムなんかもろ好みです。これは秀逸でしょう。たぶんノイジーなバンドは、マックスで最初から最後まで轟音をとどろかせるよりも、静寂と喧騒のコントラストをきちんと表現したほうがかっこいい。16曲目「Zero-Sum」もいいな。


政治的なメッセージを表現することによってカリスマ性のあったミュージシャンだと思うのですが、怒りや批評は必要だと思うけれども、過去と同じようなパターンでいっつも怒っているのは芸がない。このアルバムを聴いて、ぼくは怒りが音のなかにうまく昇華されていると感じました(過去のアルバムを聴いていないから、なんともいえないけど)。何に怒るのかという核をずらさずに、言葉のメッセージではなく攻撃的な音にメッセージを込めて抽象化すれば、さらに音楽としての高みにもいけるのではないでしょうか。


最初は抵抗を感じたのですが、全曲聴いてみてその世界にはまりはじめている自分がいます。実は暴力的なノイズは、やさしさの裏返しではないか。NINの音を聴いてやさしいとか言っている人間ってちょっと壊れてないか?とも思うのですが、人間の表現はストレートに表出するものだけではない。第一印象は不快であっても、解釈を変えることによって一気にのめりこむ音楽もある。そういう音楽は、苦手が反転すると、かなり長く聴き続けることになると思うんですよね。4月28日観賞。


*年間音楽50枚プロジェクト(23/50枚)

投稿者 birdwing : 2007年4月28日 00:00

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