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2007年9月15日
[DTM×掌編小説] ハーフムーン。
パソコンによる音楽づくり、いわゆるDTM(デスクトップ・ミュージック)がぼくの趣味です。しかも、鍵盤楽器を使わずにVAIOノートでマウスを使って曲を作ります。その作品の一部は、トップページのJukeBoxで聴けるようにしてあります。よければ聴いてくださいね。
3年ほど前からネットで趣味で作った音楽を公開しているのですが、最初はmuzieというサイトで配信していました。その後、ブログで記事といっしょに配信するようになって今日に至ります。日記を書くように曲を作る、というコンセプトのもとに毎週感じた音から楽曲にしてみたこともあります。
理想としては音楽+映像、音楽+小説のようなハイブリッドというかマルチな創作活動をやってみたいと思っています。欲張りなので(笑)。「rewind」という曲を作ったときには再会というテーマで掌編小説を書いたりもしました。
9月から10月といえば月が美しい季節ですが、そんな「月」が今回のテーマです。7日間連続で働いたハードな仕事にくたびれてダウンしながら、それでも好きなことに没頭すると癒されるものです。作っている途中で、ああやっぱり音楽っていいなーと思いました。
久し振りの自作曲後悔・・・じゃなくて公開となります。さらに短い曲ですが、その曲を聴きながらアタマの中に浮かんできた物語があり、それを掌編小説にもしてみました。というわけでお恥ずかしいのですが、[DTM×掌編小説] として発表してみます。
まずは掌編小説から。
自作DTM×ブログ掌編小説シリーズ02
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ハーフムーン
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作:BirdWing
ぼくらは肩を寄せ合い、公園の隅っこにあるベンチでハンバーガーとポテトを分け合いながら食べていた。街灯の向こう、覆いかぶさるようにして深い木々が繁っている。そのあいだから月がみえる。半月だ。レモンをスライスしたような月を眺めながら、ぼくは彼女にキスをした。バーンズとポテトフライの匂いに紛れて、甘ったるい彼女のくちびるの味がした。
月がみえるね。なんとなく間合いがとれなくてぼくは呟く。そうね。彼女はちいさな声で同意して、ぼくの胸に鼻のあたまを押し付ける。あのう、臭わないかな、お風呂入ってなくて。ぼくは真剣に心配をした。へいきよ、わたしだってくさいもん。彼女が言ってくすくす笑う。つられてぼくも笑った。
ホテルに泊まるお金がなくなって、昨日はひと晩中ファーストフードで過ごした。冬じゃなくてよかった。そう思う。凍えてしまわないだけでもまだましだ。ふたりでいるとあたたかいのだけれど、そのぬくもりも冬の厳しさには勝てないだろう。秋はまだこれから。残暑の厳しい日が続いている。けれどもいずれ冬はやってくる。冬になった頃、ぼくらはどうしている?
15歳というのは面倒くさい年齢だとぼくは思う。子供ではないのだけれど、大人には遠い。というか、ぜんぜん子供だったりする。スカートからまっすぐに伸びた彼女の脚がまぶしくて、ぼくは月の方角へ目をそらした。ぼくらはお互いによくわからないまま抱き合った。それが愛し合う行為なのかどうかもわからずに身体を重ねた。その結果としてもたらされた彼女の変化を、彼女の両親に気付かれた。そうしてぼくらは逃げている。逃げ場所なんてないのだけれど、とりあえずはふたりの両親から、大人たちから逃げている。
咳をする彼女の身体の揺れがぼくに伝わる。大丈夫?うん、へいき。彼女はくちびるの端をすっと横に広げて笑みをつくった。でも、やっぱり疲れているのがわかる。彼女は裕福な家庭に生まれて、何ひとつ苦労なく育ってきたひとなのだ。ヴァイオリンを習っていて、年に2回は海外へ旅行する家に生まれた大切なひとり娘なのだ。ごめんね。ぼくは意味もなく謝ってしまう。どうして?なぜ謝るの?彼女がぼくをみつめるのがわかる。いや、そのう・・・。ぼくは理由をうまく言えない。あたしは後悔していないよ。きみを好きになってよかったよ?
ぼくは泣きそうになった。
だから話をそらした。月ってさ、地球の影で満ち欠けするでしょう?月がいちばん明るくなるときってさ、地球と太陽の位置が重なっていないときなんだよね、きっと。ぴったりと地球と太陽と月の位置が一緒になるとき、皆既月食っていうんだっけ、月はみえなくなる。でも、それって別にたいしたことじゃないよね。なんていうか、空が曇っていれば月なんか見えないことがあるし。あれ? 何を話そうとしてたんだっけ。よくわからなくなっちゃった。
気が付くと、ぼくはぼろぼろ涙を流していた。ばかねえ。彼女が苦笑しながら、ぼくにハンカチを差し出した。鼻をかもうとしていると、いつの間にか近づいていた制服の大人がぼくらに声をかけようとしているところだった。静かな声で制服のひとは言った。ちょっと、きみたち・・・。
ハンカチを投げ捨てて、ベンチから立ち上がる。逃げろ。囁いて彼女の手を引いた。あ、ちょっと待ちなさい。あわてて追いかけようとする声を後ろに聞いて、ぼくは逃げる。大人たちから逃げなければならない。でも、逃げている大人たちに近づいているのではないか。
吐き気がした。彼女がつんのめって転んだ。お腹をおさえている彼女がいとおしい。いつまでもいっしょにいたい。いっそのことふたりで老人になりたい。いられるのだろうか。いられるのなら。なれるのだろうか。なれるのなら。でも無理なのかもしれないと弱気になる。ぼくはきみにふさわしくない。ぼくはきみを不幸にしている。確実に。好きになることで確実に。
ぼくは15歳を嫌悪した。
<了>
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というわけで、久し振りのオリジナルDTMの楽曲です。今回は曲が先にできて、曲を聴きながら小説を考えてみました。掌編小説「ハーフムーン」のBGMとしてお聴きください。
■half moon(2分35秒 3.57MB 192kbps)
作曲・プログラミング:BirdWing
掌編小説のほうは川上弘美さんっぽいテイストを試みたつもりなのですが、ちょっとありがちな話でしょうか(苦笑)。物語の創作力が鈍っているのかもしれない。小説を書く趣味もあったのですが、最近、ブログばっかりに入れ込んでいるので、いまひとつかもしれません。
ムーンというタイトルで思い出す小説はといえば、ポール・オースターの「ムーン・パレス」。オースターの小説にも行き場のないやるせなさがあると思います。というか、ムーンというと、どうしてもセーラームーンのようなイメージが付きまとって困惑なのですが。うーむ、タイトル再考か?
ムーン・パレス (新潮文庫) ポール・オースター 新潮社 1997-09 by G-Tools |
女性ボーカルが入っていますが、これはLotusloungeのSheepさんの声です。ネットコラボでご協力いただき「AME-FURU」という曲を作ったのですが、そのボーカルをサンプリングして切り貼りして使わせていただきました。一度いただいた音声ファイルはどこまでも利用するという(苦笑)、エコロジーな創作活動です。歌詞というよりも言葉の断片という印象になってしまいましたが、やはり素敵な声です(しみじみ)。という意味では、この曲はAME-FURUの新しいリミックスともいえますね。
音楽的には、最近よく聴いているドイツのエレクトロニカ・ユニット、ウルリッヒ・シュナウス(Ulrich Schnauss)の影響が大きいでしょうか。ドリーム・シューゲイザー的なリバーブの残響音に溶け込むようなノイジーなギターの感じを出したいと思いました。えーと、弾いてませんが(苦笑)。ネットを彷徨って拾ってきたフリーのギター音源を加工しています。半分の月に照らされる闇を、大人たちから逃げる主人公の少年。そんな感じでしょうか。
この2枚はかなりヘヴィ・ローテーションなアルバムです。
Far Away Trains Passing By Ulrich Schnauss City Centre Offices by G-Tools |
Goodbye Ulrich Schnauss Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「ハーフムーン」の曲を思いついた契機は、金曜日の夜、送別会後に会社に戻ったら別のひとに誘われて終電まで飲んでしまい、へべれけになって3駅乗り過ごしてタクシーで帰ったことでした。夜の住宅街を酔っ払ってふらふら歩いていたところ、なんとなく破滅的な気分の向こう側にインスピレーションがわいてきました。ほぼ記憶がなく(苦笑)、自動操縦で気が付いたら家にいたのですが、たまにはそんな生活もしてみるものです。
とはいえ土曜日。一日中、気持ち悪かった。気持ち悪いなかで一気に曲を作り上げることができたのは儲けものでしたが、飲みすぎに注意しましょう。
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■9月16日追記
やはり小説というと縦書きじゃないか、ということが頭にあり、そういえばCSSの本で縦書きのサンプルをみた気がしました。
そこでネットで調べて作ってみたのが以下のページです。IEの5.5以上ではないとうまく表示されないようです。Mac環境のテストはしていませんがすみません、見ることができないかもしれません。とりあえず味もそっけもないページですが、縦書きの実験ということで。
縦書きを使うのは日本が中心であり、縦書きに表示することが必要かどうかという問題もありますが、やはり小説などに親しんでいるものとしては縦書きがいいなあと思うこともあります。いずれは標準化されるのかもしれないし、逆に縦書きの文章が廃れていくのかもしれません。
画面キャプチャーをクリックすると別ウィンドウで開きます。
投稿者 birdwing : 2007年9月15日 23:49
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