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2007年9月16日

日本を知る、外側から見る。

土曜日、日曜日とすばらしくよい天気だったのですが、残暑がきついですね。趣味のDTMに没頭してみたところ、まだまだヘッドホン被っていると暑い。

さて、海外と接する機会がないので、島国根性まるだしというか、せまーい見解のまま毎日をのほほんと過ごしています。しかしながら時々、それでいいのだろうか?という気分がむくむくと盛り上がってくる。そんなわけで急に語学関係の本を購入して英語を学び始めたりするのだけれど、あまり長くは続きません。

グローバルな視野が得られるような、そんな面白そうな本や雑誌がないかと探していたところ、COURRIER Japon Vol.036のWe Love NIPPONの表紙に惹かれました。

COURRIERJapon036.gif

特集は「外国人記者が泣いて、笑った!“不思議の国”日本をめぐる冒険」。さまざまな外国人特派員が日本の伝統についてレポートしています。文章も上手くて、読ませる。たとえば「菊乃井」に弟子入りしたシェフの体験レポートで、海苔を包丁で刻むのですが、うまく刻めない。そこで失敗した海苔を食べてしまうのだけれど、次のように表現されていたりします(P.32)。

私は刻んだ海苔を口のなかに押し込んで、新しい海苔の束を刻みはじめた。口のなかは、たちまち、あの煙にも似た海苔の味でいっぱいになった。

うーむ、海苔の味は煙の味ですか。確かにそんな感じもあります。けれども、たぶん外国人だからこそ、そう感じるのではないでしょうか。日本人にとっては海苔は海苔であり、香ばしいとか、ぱりぱりするとか、ありきたりな表現しか浮かびません。しかし外国人にとっては、古寺などの線香のかおりに近いものを感じているのかもしれないですね。スイス人記者の温泉レポートも楽しめました。

そのほかにも、TIME誌による村上春樹さんの独占インタビュー、ダイアナ妃に関する記事など、なかなか興味を引かれるタイトルが並んでいます。あと、どうでもいいことですが、この雑誌、手に取ったときの紙の感触がいい。

村上春樹さんのインタビューでは、日本のいわゆる文壇のようなものから距離を置き、異質な存在であることを認めながらも、自分は日本人である、という心情が語られているのが興味深かったと思います。まずは次の文章を抜粋してみます((P.27)

自分が異質であるという強い感覚は村上の中にずっとあった。それは外国の小説に惹かれた若い頃にさかのぼる(いずれも国語教師だった両親はさぞ残念に思ったことだろう)。その異質さはいまも残っており、彼はずっと日本の文学界から意図的に距離を置き、節制した生活を送ってきた。
「作家や芸術家は不健康で自由奔放な生活を送ることになっている」
と村上は言う。
「でもぼくは違う生活をしたかった」

決して日本の作家や芸術家だけが不健康な傾向にあるわけではないと思うのですが、確かに村上春樹さんのようにジョギングや水泳をして規則正しく小説を書く作家は少ないように思います。なぜでしょうね。

たぶん日常から隔離された制作活動に没頭することによって、リアルよりもバーチャルな創作の世界の比重が重くなる。すると現実を軽視して、不健康な生活へ向かわせるような気がします。

ぼくは作家でも芸術家でもありませんが、これだけ長文のブログを書いていると、やはりときどき(あるいはいつも。苦笑)精神の平衡感覚を大きく失います。日本の私小説的な作家の伝統が強く残っているせいか(あるいは日本の湿度の高さのせいか)、どうも文章を書いているとじめじめとしてくる(苦笑)。村上春樹さんの初期の文体はからりと乾いていて、どこか日本的ではない雰囲気があります。そんな風にはなかなか書けない。けれども彼の文学の凄いところは、その明るい文体の背後に、ものすごくダークな何かが潜んでいるところだと思いますが。

村上春樹さんは、異質であることを認めつつ、次のように語ります。

村上は「かつては祖国を捨てた作家になりたかった」と認め、こう続ける。
「でもぼくは日本の作家だ。ここが自分の土地であり、ここがぼくのルーツなのだ。自分の国から逃れることはできない」

次の小説として、日本のナショナリズムを取り上げることをほのめかしているようです。どんな小説になるのでしょうか。ちょっと楽しみです。

COURRIER Japonでは、そのほかに「変貌するマフィアの世界」とか、「民主主義よりWiiが欲しい 新・中国人」とか、「イスラムのSEXを徹底調査」とか(うーむ)、表側から裏側から生活まで、さまざまな視点から世界のあれこれを切り取っていて、なかなか読みごたえがありました。

忘れてしまいそうなのですが、インターネットは狭いソーシャルネットワークだけでなく、世界に開かれています。ただ開かれすぎているだけに、どのように使いこなせばいいのか途方に暮れることもある。だからコンシェルジェというか、ガイド役がいてほしい。世界の諸事情だとか、外国からみた日本の姿などを教えてくれるCOURRIER Japonのような雑誌は、なかなか貴重じゃないのかなと思いました。

ただ、本やネットだけでなく、実際の目で“1次情報として確かめる”ことも大事だと思いますけどね。

投稿者 birdwing : 2007年9月16日 23:09

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