« 空が落ちてくる。 | メイン | Amiina / Kurr »

2007年9月12日

Tamas Wells / A Mark on the Pane

▼music07-043:神様が降りてくる少し前、静かな朝を待つ光の音色。

A Mark on the Pane
タマス・ウェルズ
A Mark on the Pane
曲名リスト
1. When We Do Fail Abigail
2. Broken By the Rise
3. Chandliers
4. Redueced to Clear
5. Petit Mal At a Grand Occasion
6. Even in the Crowds
7. Annalee Argyle
8. Segue in Gym
9. If You Bring Me Aubergines
10. A Dark Horse Will Either Run First or Last
11. Cigarettes, A Tie And A Free Magazine
12. Where The Koran Seems To Rhyme
13. The Necessary Ones
14. Reduced To Clear (EP version)
15. 41 Union Drive, Caroline Springs 3023
16. Even Through
17. Beauty Cream
18. Stitch In Time
19. Instrumental

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


11-13 from 1st EP "cigarettes a tie and a free magazine"
14-19 from 2nd EP "stitch in time"


すばらしい作品に出会うと、奇跡のような表現があたかもふいにそこに現れたような驚きがあります。けれども創り手であるアーティストは、手品のように空中から作品を取り出したわけではありません。奇跡に出会うまで、こつこつと自分の信じているものを作りつづけた日々があり、陽が当たらなかったとしても培ってきた背景がある。決して脈絡もなくその世界が生まれたわけではない。

「A mark on the pane('04)」は再発されたTamas Wellsの1stです。2ndの誠実でひたむきな世界に打たれたぼくは、彼のコンサートの前日に慌ててこのアルバムの存在を知り、購入したのですが、ゆっくり聴く時間がありませんでした。そして、なんとなく2ndの「A Plea En Vendredi」ほどの研ぎ澄まされ方はないな、音も安定していてつまらないかも、などと思っていたのですが。

いやいや、そんなことはありませんでした。やっぱり、いい。
タマちゃん、最高(笑)。

静謐な、という言葉が似合いすぎる音は、1stではアコースティックギターだけでなくエレキギターにリバーブをかけたような音も使われていて、逆回転なども多用されています。実はそんな細かなアレンジは、「A Plea En Vendredi」の生音志向の音づくりよりもエレクトロニカ好きなぼくの好みだったりします。さりげないので、すーっと聴き逃してしまいそうですが、メロディも完璧なぐらいに美しい。

要するにですね、文章もそうなのですが美しく完成されすぎたものは、すーっと身体に入り込んでくるのではないか。ただ、ここがまたアートの面白いところですが、完成されすぎないもののほうが琴線に触れることがある。2ndを聴くと、かなりリズムに揺らぎがあるし、ちょっと雑なところもあるんですよね。でも、そこがじーんと心に染みたりする。1stの方が格段と丁寧に、計算されて作られているのですが、この作り方ではタマちゃんらしさが出ないのではないでしょうか。

ということを考えていて、彼のコンサートの風景が頭をよぎりました。そう、彼は500円ぐらいのおんぼろのギターを抱えてステージに現われたのでした。音もしっかり出ないようなギターだったんだけれど、彼が歌い始めると世界が変わったかのように思えたことを、はっきりと覚えています。楽器ではない。技巧でもない。そこには確かに音楽があった。

だから、彼の音楽が好きなのかもしれないと思いました。音楽に対するひたむきな想いがあるからこそ、Tamas Wellsの歌を聴いていてぼくは自然に涙も出た。結局のところ、ぼくは音楽ファンやリスナーとしては失格かもしれなくて、音楽を聴きたいのではなく、曲の背後にある薀蓄や知識を語りたいわけでもない。アーティストという人間に出会いたい、ひたむきな"想い"を聴きたいのかもしれません。そして彼の音楽にはそれがある。

あっ。アルバムについて何も書いていなかった(苦笑)。

1曲目、「When We Do Fail Abigail」は2ndに近い歌い方、楽曲です。そして逆回転とオルガン+ピアノではじまる「When We Do Fail Abigail」は、なんとなくベルセバ(ベル・アンド・セバスチャン)っぽい。でも、このメロディいいです。つづく3曲目の「Chandliers」のギターと歌は、まさに天国から光が降りてくるような雰囲気。さらに6曲目の「Even in the Crowds」のようなちょっと3連っぽいノリの曲は、タマちゃんらしいのでは。コーラスを聴いて背筋になにか走りました。このあたりの曲、聴き込めば聴き込むだけ好きになってきます。もともと彼はピアノを弾いていたらしく、インストの「A Dark Horse Will Either Run First or Last」のピアノも切なくていい。

さらにBONUS TRACKSとして、EPの曲が追加されていてうれしい限りなのですが、最初の「Cigarettes, A Tie And A Free Magazine」はライブで聴いたっけなあ(しみじみ)。バイオリンの音が入ってくるあたり、やられました。「Where The Koran Seems To Rhyme」はちょっとタマちゃんらしくない感じ。ですが、キャメロン・クロウ監督の映画あたりで使うと効果的っぽい気がする(笑)。15曲目、「41 Union Drive, Caroline Springs 3023」 も、オーランド・ブルームがクルマを運転しているイメージが浮かんだりして。勝手なイメージを付加してすみません。17曲目「Beauty Cream」は、ブラシのドラムの乾いたショットも気持ちいい。そして最後のインスト曲は、うーむ、打ち込みっぽいドラムも聴こえてきたり。いろんな側面があって楽しいじゃないですか。

というわけで、やっぱりタマちゃんいい、というのが結論です(笑)。

+++++

■Liricoのページから「A MARK ON THE PANE」
http://www.inpartmaint.com/lirico/lirico_title/LIIP-1502.html

おっ、インタビューも掲載されているじゃないですか。

■TAMAS WELLS INTERVIEW
http://www.inpartmaint.com/lirico/lirico_feature/interview_tamas.html

次の言葉に、にやり。まずは、アルバムか「Plea en Vendredi」について。

『Plea en Vendredi』というタイトルは英語とフランス語をミックスしたものなんだ。「Vendredi」はフランス語で「金曜日」という意味で、アルバムのなかの1曲のタイトルでもある。コンセプトは、意識の流れと入念な計画(それは「Valder Fields」の意味でもある)のミックスなんだよ。・・・僕らの意識は、完全に意図的なものでも、行き当たりばったりなものでもない・・・ばかばかしいほど漠然として聞こえるけど、許して!

そして、これからの予定。

いま、いくつかの曲を作っている最中だよ。今年の後半にアルバムができればいいんだけど。あと、ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』(Heart of Darkness)とルソーの『社会契約論』を読むことを計画しているよ。あと、フーコーの本もいくつか読みたいんだけど、とても難しそうなんだよね。

そういうひとでしたか(笑)。だから好きなわけだ、ぼくは。

*年間音楽50枚プロジェクト(43/50枚)

投稿者 birdwing : 2007年9月12日 23:33

« 空が落ちてくる。 | メイン | Amiina / Kurr »


トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://birdwing.sakura.ne.jp/mt/mt-tb.cgi/46