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2008年6月29日

スモールワールド。

またここへ来てしまったね。足の親指にテープでとめられた脈拍と酸素の計測器。皮膚を透かして蛍のように光るセンサーの赤いひかり。液晶に表示された100近辺の数値。点滴のビニールと手に巻かれたネットの包帯。最先端の医療機器にもテレビにもなるディスプレイ。明るい部屋には、きみを含めて4人の子供たちがいる。そして4組の家族たちと医師、看護婦たちが見守っている。

今度の入院は喘息ではなく、細菌性髄膜炎と診断されたきみは、力なく横たわり、ひたすら眠っている。38度近い熱は波のように引いたり寄せたりして、きみの額に痛みをもたらした。その傍らで、所在のない父親は、たくさんの動物や植物たちの折り紙を折りあげていった。たわむれに買った本のページを開きながら、山折り、谷折り、中割り折りなどを繰り返して、ちいさな紙片は、次々とちいさな世界の構成物に変わっていく。

檻で囲まれた清潔なシーツの上にひろがる、ちいさな世界。スモールワールド。きみの眠りを妨げないように、そっと置いた、うさぎ、つりがねそうの青い花、小鳥、そしてクリーム色の鳩。

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窓の外には半円形のかまぼこを立てたような建物がみえる。遠くから長期の入院に付き添うひとびとが宿泊する施設だそうだ。建物の下には円形の庭が広がっている。それはちょうどきみが大好きなナスカの地上絵のようにみえないこともない。きみは窓の外を眺めることさえ嫌だ、と言っていたけれど。

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売店で買ったミニカーは、1日ごとにきみの枕元に増えていった。はしご車やダンプカーなど、チカラ仕事をするクルマが多かった。あまのじゃくな父親は、スペースシャトルを買ってみた。

10年後、きみが成長する未来には、月へハネムーンに行くことさえできるかもしれない。あるいは、そんな技術はまだ夢の夢で、いまと変わらない毎日が続いているかもしれない。

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どちらでもいい。そんな未来にきみがいればいい。好奇心の目をくりくりと動かして、分厚いくちびるをちょっと尖らせたりしてみながら、スモールワールドを卒業したきみの眼前に、おおきな世界が広がっていればいい。

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はやくよくなるように。折り紙でつくるちいさな世界に、祈りを込めて。

投稿者 birdwing : 2008年6月29日 23:59

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