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2010年2月 8日

Charlotte Gainsbourg / IRM

▼music10-02:ベックが彼女の魅力をもうすこし引き出せたなら。

IRM
シャルロット・ゲンズブール
IRM
曲名リスト
1. マスターズ・ハンズ
2. IRM
3. ル・シャ・ドゥ・カフェ・デ・アーティスト
4. イン・ジ・エンド
5. ヘヴン・キャン・ウェイト
6. ミー・アンド・ジェーン・ドウ
7. ヴァニティーズ
8. タイム・オブ・ジ・アサシンズ
9. トリック・ポニー
10. グリニッジ・ミーン・タイム
11. ダンデライオン
12. ヴォヤージュ
13. ラ・コレクショヌーズ
14. ルッキング・グラス・ブルース *ボーナス・トラック

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シャルロット・ゲンズブールって、美人じゃないとおもいます。などと唐突に書くのは大変失礼だけれど、スレンダーというよりも痩せてがりがりな印象だし、少女がそのままオトナになったようなこまっしゃくれた雰囲気は、どこか地味で華がない。彼女と同年齢ぐらいの女性であれば、街中でみかける主婦さんのほうが余程きれいな方がいます。

が、しかし。フォトジェニックというか、写真やムービーのなかでみる彼女は美しい。なぜか可愛らしくて惹かれるものがあります。ミュージシャンのセルジュ・ゲンズブールと女優のジェーン・バーキンの娘という血筋のせいかもしれません。

映画では、「フレンチなしあわせのみつけ方」のワンシーンなど、いいなあとおもいます。ジョニー・デップ演じる男とCDショップの試聴スポットで出会い(BGMはレディオ・ヘッドの「Creep」)、男のことを気にしながら声をかけようか躊躇う。そんな場面です。

「IRM」は、ジャケットに使われたモノクロのポートレートがいい感じ。裏面もセクシーです。唇とか目とかクールさを漂わせながら、なまめかしい。こんな感じ。

100208_Charlotte.jpg

さて楽曲は、というと、全面的にベックとのコラボレーションで作られているため、非常にベックらしい凝った音づくりです。すこしばかりサイケデリックというか、ストレートなロックではない。アクの強いひねくれた印象があります。独特の空気感あるいは雰囲気です。彼の音楽の特長といえるでしょう。

全曲通して聴いてまず印象に残ったのは、パーカッションでした。ライナーノーツで解説されていたように、彼女の父親であるセルジュ・ゲンズブールがアフリカのパーカッションを多用したことに対するオマージュなのかもしれません。とにかく、どんどこどこどこ、どですかどかでん、というような激しいリズムが(空間的なエフェクト処理をされているせいもあって)気持ちよく響きました。

次は弦。ストリングスのアレンジは、ベックのお父さんが手がけているそうだけれど、気だるいような弦の音が記憶に残ります。そのあと印象的なのが・・・シャルロット・ゲンズブールの歌でしょうか(苦笑)。

タイトルのIRMとは、英語でいうMRI(magnetic resonance imaging:磁気共鳴画像法)のようです。フランス語では、まったく逆になってIRM(image en resonance magnetique)と呼ばれているとのこと。脳を輪切りにして内部を撮影して診察する医療機器ですね。ただし、CTとは異なりX線を使用しないようです(Wikipediaの「MRI」)。

うちの次男も、髄膜炎で意識がうつろなときにMRIで診察を受けました。小児科専門の大きな病院だったので、円筒状のMRIは子供たちが怖がらないようにドーナッツの絵が描いてあったっけ。シャルロット・ゲンズブールは、07年に水上スキーの事故で頭を打ち、MRIで検査をしたところ、脳内の大量出血がみつかり手術をしたそうです。

そのMRIの電子音が、そのままサンプリングさせてタイトル曲に使われています。スキャンをしても思考や記憶などはみえないのですが、歌詞は「何がみえる?」として、罪の影などもみえるのか、という問いを投げかけています。

1曲目の「Master's Hands」から2曲目の「IRM」にかけては、サラウンド効果をかけているのでしょうか、立体的な音像が面白い。楽しいです。個人的には、1曲目を聴いた感想は、トム・ヨークのソロというかレディオ・ヘッド的な繊細な翳りを感じました。「Master's Hands」は好きな曲です。マイナーコードのなかに、ちらっとメジャーコードが入るあたりとか、ルートを外したベースのハイトーンによる無機質な音とか。

「IRM」は、ヘッドフォンで聴いたら左右の音像などにびっくりしました。映像はありませんが、以下YouTubeから。

■Charlotte Gainsbourg - IRM


3曲目はフランス語の曲。フランス語による曲は、アルバムのなかでこの1曲のみです(あとはすべて英語)。しかもベックとの共作ではなく、70年代のジャン=ピエール・フェルランというひとのカヴァーとのこと。いい雰囲気の曲です。前作「5:55」をおもい出しました。

なぜフランス語ではなくて英語の作詞なのか。ライナーノーツの解説を読むと、次のようなコメントがあります。

だってベックはフランス語では歌詞を書けないでしょ。で、私はベックが書くものを歌いたかったから、そうするのが一番。それに母国語で歌わないことで感じる"借り物感"が好きなの。

フランス語で歌うと、どうしても父であるセルジュ・ゲンズブールの壁がある。英語で歌うと解放されるそうです。けれども個人的な感想としては、ほかにもフランス語の曲が聴きたかった。歌詞カードの翻訳を読まなければ、意味はわかりませんけどね。何よりも音の響きが魅力的なので、彼女にはフランス語で歌ってほしかった。フランス語の歌詞×ベックの楽曲というコラボがどうなるのか予測がつきませんが、ひょっとしてぶち壊しだったとしても、そんな挑戦があってもいいのではないでしょうか。

ベックといっしょに歌っている5曲目「Heaven Can Wait」は、どこかキンクスとかジョン・レノンとか、古いミュージシャンを彷彿とさせる曲です。

■Charlotte Gainsbourg feat. Beck - Heaven Can Wait


ウィスパー(囁き)系のヴォイスが好きなので、アルバム後半の曲では8曲目「Time Of Assassins」がいいです。もろにアフリカのリズムが導入された12曲目「Voyage」もいい。アコースティックギターのカッティングに惹かれます。

シャルロット・ゲンズブールは曲によって歌い分けています。しかし、ここでもぼくの好みを述べるのであれば、ウィスパー(囁き)系の曲を増やしてほしかった。

ベックの解釈によるところが大きいのかもしれませんが、リバーブをかけたり音を加工したりするエフェクト処理よりも、彼女自体の歌声を引き立てるようなプロデュースをしたほうがいいんじゃないのかな、と感じました。だからといってぜんぜんダメなわけではなく、むしろコラボとしては成功しているのですが。

ベックはやりたい放題で、というよりも自分の領域に彼女を引き込んでしまった印象があります。完成度は高い。良質な曲ばかりです。しかしながら個人的な感想としては、シャルロット・ゲンズブールらしさがいまひとつ。なかなかコラボは難しそうです。

投稿者 birdwing : 2010年2月 8日 20:37

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