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2006年1月 3日
あたたかく、ありたい。
いま息子たちがはまっているアニメがあります。NHKの「おでんくん」です。これはもうずいぶん前にテレビで観た記憶があるのですが、再放送しているらしい。といっても、年末にはどういうわけか深夜の時間帯に放送していたようです(いまは朝の10時半に放映)。子供たちの番組なのに、なぜこんな時間にやるのかしらねえ、と奥さんは言うのだけれど、わからないこともない。このアニメは大人が見ても面白い。というか、大人だって面白い。いや、大人が見るべきです。実は留守番で次男をだっこしながら観ていて、ついつい涙ぐんでしまいました。そんな風に心のあったかい部分に触れられるアニメです。
いまでこそ、このタッチはこのひとでしかない、というのがわかるのだけれど、おでんくんの原作はリリー・フランキーさんです。おでんくんというロゴに、LILIY FRANKY PRESENTSとあって、ああっリリー・フランキーだったんだ、とあらためて気付きました。気付くのが遅すぎなのですが、風景の背後に東京タワーも出てくるし、ほわほわとした夕飯の湯気に包まれたような雰囲気は彼にしか描けない世界観だなあと思います。
東京タワーの下でおでんの屋台を開いているおじさんとペロというイヌがいて、そのおでんの鍋のなかにはおでんくんたちの世界が広がっている。このリアルとおでんワールドの2つの世界をつなぐ物語です。リアルの世界で展開されているちょっとさびしい物語が、おでんくんの世界とも連動していて、ときにはおでんくんたちの働きのおかげで現実世界の人々は前向きに頑張ろうと思ったり病気が治ったりもする。
主人公のおでんくんは、おでんの種類としては、もちきんちゃくです。頭のハチマキを外すとなかからもちが出てくるのだけど、そのもちがシューズになったり、おにぎりになったり、なわとびになったりする。つまりドラエもんのポケット的です。どうやら自分のためにはそのもちを使えないらしい(この設定がまたいい)。キャラクターには、たまごちゃんという優等生のアイドル的な女の子と、ガングロたまごちゃんという金髪でちょっと性格のきつい女の子も登場する。一方でウィンナーくんというのは男の優等生タイプです。テニスもうまい。こんぶくん、ちくわぶーなどさまざまなキャラクターがいて、この辺りはアンパンマン風でもある。ちなみにぼくはキャラクターのなかでは、いろいろと訓戒を言う「だいこん先生」が好きですね。ちょっと煮つまりすぎな色が気になりますが。
構造としてはヒットしたアニメのいいとこどりな感じもしますが、展開する人情的なテーマがリリー・フランキーならではのもので、他のアニメとはちょっと違っている。もう少し考察してみると、アンパンマンはアンパンマンワールドのなかでしか存在しない、ドラえもんは現実の生活のなかにのびた君と同居している、それに対しておでんくんはリアルと仮想がきちんと別れていて連動しているところが特長的なのかもしれません。アニメのなかではナレーションが入るのですが、おじさんが箸でおでんくんたちを現実の世界にひっぱり出してしまうと、現実の世界ではおでんくんたちはおでんにしか見えなくなる。ミヒャエル・エンデの「果てしない物語」をちょっと思い出したのですが、童話の世界を完全に隔離して安全地帯として作ってしまうよりも、現実と連動した仮想世界を作ったほうが童話としての広がりがあるような気がしました。鏡の国のアリスなどもそうかもしれません。
おでんくんの物語に人情やあたたかさを感じるのは、優等生も出てくるのですが、弱いひとたちや意地悪なひとたちがそのまま出てくる。弱さゆえに悩んだり落ち込んだりするのだけど、最後にはそれでも元気を出していこうと前向きになる。そんな全体を貫くテーマの設定にあります。しかしながら、頑張るぞ的なこぶしを振り上げるような力み具合はあまりなくて、そんなこともあるよね、いいこともあれば悪いこともあるのが人生さ、もうちょっとだけ頑張ってみようか、うん、というさりげない力の入り加減なのです。それがイラストのイメージともマッチしていて、なんだかほろりともするしかえって元気になる。癒されます。
仕事を頑張りすぎてへとへとになっているお父さんやお母さんは、きっと元気をもらうことができるはず。ちなみに、おでんくんの声は本上まなみさんで、ジャガーはピエール瀧さんだったりする。そんなキャストも楽しめます。
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■おでんくんは絵本にもなっているようですね。小学館のサイトです。キャラクターの紹介もあります。おでんくんの唇が厚い感じ、ぷよっとしたお腹はうちの次男そっくり。
http://www.shogakukan.co.jp/odenkun/
リリー・フランキーさんのHP。おおっ、1月26日に、おでんくんのDVD出るんだ。
http://www.lilyfranky.com/top/
■おでんくんの絵本。
おでんくん―あなたの夢はなんですかの巻 小学館 2001-12 by G-Tools |
おでんくん―The adventure of Oden‐kun (2) 小学館 2002-12 by G-Tools |
投稿者 birdwing : 2006年1月 3日 00:00
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