« ストレイト・ストーリー | メイン | ハルキは、ハルキ。 »

2006年5月29日

デザインと物語。

ビジネスで最も権威のある資格といえばMBAという気がするのですが、「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」という本を読んでいたところ、もうMBAの時代ではない、ということが書かれていて驚きました。では何が求められるかというとMFA(Master of Fine Arts)、つまり美術学修士とのこと。GMは「我々の仕事はアート・ビジネスだ」と主張しているようです。つまりロジックで武装した人間よりも、クリエイティブな発想をする人間を求めているとのこと。そして機能だけでなく、デザインのできるひとが重視されていく、とダニエル・ピンクさんは論じていくわけです。

デザインとは何か、というのはなかなか難しい定義ですが、「デザインとは、多くの分野にまたがったものです。ここでは、全体論的に物事を考えられる人材を養成しているのです」とチャーター建築学校のクレア・キャラガーさんの言葉が引用されていて、なるほどと思いました。確かに平面であっても立体であっても、デザインを考えるときには全体をとらえる必要がある。また、全体をとらえるだけでなく、そこには「美」意識が必要になります。つまり、感動を生むこと、共感を生むための力が求められるわけです。

デザインは空間的なものだけでなく、「設計」という意味に置き換えれば時間的にも有効になります。人生設計、というように、歴史の流れをつかんでいまあるべき姿を追求するのも、大きな意味ではデザインといえるかもしれません。

しあわせなことにぼくはデザインに近い仕事をしていて、まさに会社で隣の席には優秀なデザイナーさんが座っているのですが、ほんとうにデザイナーさんはすごいと思う。仕事ぶりをみていて尊敬します。アーティストとデザイナーの違いもあるかと思うのですが、それは何かというと、まさにこの本で欄外に引用されているアンナ・カステッリ・フェリエーリさんという家具デザイナーさんの次のような言葉だと思います(P.153)。

実用的なものが美しいというのは間違っている。美しいものこそ実用的なのだ。美しさは、よりよい生活や考え方を私たちにもたらしてくれる。

フロリダ州の選挙で問題になったのは、投票用紙のデザインである、ということが書かれていました。「バタフライ方式」と呼ばれているようですが、ページが複数ページに渡っていて「どのページにも投票すること」と書かれていたため、誤って二人の候補を投票するひとが続出した。このように「ひどいデザイン」が、世の中を変えてしまうこともある。ちょっと怖い。

世のなかが豊かになってくると、機能的なものだけでは差別化できなくなってくるので、デザインによる差別化が進展するということは頷けます。確かに最近、おかしな形をしたペットボトルが多くなりました。その前には食玩(つまりおまけ)が添付されているものが多かったのですが、それだけでは差別化できなくなったのでしょう。もちろん外側の容器だけでなく、製品自体の開発も進んでいると思います。ちなみに余談ですが、いま、ぼくが気になっているのは、スパークリング・カフェ(炭酸入りコーヒー)なのですが、まだ飲んでいません。組み合わせの発想のような気もするのですが、どうでしょう。

「ハイ・コンセプト」という本には次世代に重要な6つのセンスが提示されていて、その第一がデザインでした。そして、第二は何かというと「物語」です。

物語というのは何となく随分前にマーケティングで言われていたことのように思ったのですが、なるほど、と思ったのは、物語を認識するのも「全体思考」であるということです。文を逐次読み取るのは線的な思考なので、左脳的かなと思っていたのですが、考えてみると起承転結などの構造を理解するのは、全体的な把握になります。映画でも神話でもビジネスの成功事例でもよいのですが「英雄の旅の物語」のような挫折と成功の構造を読み解くこと、パターン認識として構造を理解することは、まさにいくつもの物語を俯瞰するようなものです。

この物語的なセンスというのは、医療の分野でも「物語医学」として取り入れはじめているとのこと。病気を診断するというのは、患者さんが時間の推移によって容態が悪くなっていく「物語」を読むことであり、その読解に誤ると生死に関わることさえある。さらに患者さんの物語に「共感」する力も必要になるわけです。理系の最先端でもあるような医学においても、文系的なアプローチが採用されはじめていることに、ちょっと感動しました。

デザインと物語について考えていたのですが、もともと文学系のぼくは物語的な思考は得意なほうです。しかしながら、デザインに関しては、ちょっと弱い。そんなわけで弱点を強化すべくデザイン系の本のフロアをうろうろしていたところ、次のような面白そうな本に出会いました。

4844358588デザインする技術 ~よりよいデザインのための基礎知識
MdN 2006-05-19

by G-Tools

ああ、また買ってしまった。迷ったんですけどね。ちょっと買い過ぎです。

投稿者 birdwing : 2006年5月29日 00:00

« ストレイト・ストーリー | メイン | ハルキは、ハルキ。 »


トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://birdwing.sakura.ne.jp/mt/mt-tb.cgi/652