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2007年3月19日
デザインを通して知る。
いつ頃からか、ぼくの冬のファッションといえば黒一色になってしまいました。ファッションセンスがないので服装のことを語ろうとすると妙な緊張で思考が強張るのですが、ライフスタイル革新とブログのタイトルに据えているだけに、さまざまな生活の側面についても取り上げていこうと思います。
いま読んでいる「デザインの知 (vol.1(2007))」という本は、東北芸術工科大学デザイン哲学研究所の機関誌のようで、デザイン哲学という観点からさまざまな論文が掲載されています。難しい論文もありますが、いくつかの論文は興味深い。「研究対象としてのデザイン」というウタ・ブランデス博士の論文にも、面白い観点がありました。
デザインの知 (vol.1(2007)) (デザイン哲学叢書) 降旗 英史 角川学芸出版 2007-02 by G-Tools |
「研究対象としてのデザイン」では、さまざまな専攻の学生のファッションスタイルを解明する「成功のスタイル(Dress for Success)」というプロジェクトが紹介されています。「デザインの研究(research on design)」ではなく「デザインを通した研究(research through design)」というコンセプトを基盤として、デザインを通して学生のファッション意識を探っていく試みのようです。
日本でも、文学部の学生、経済学部の学生、法学部の学生というのは、微妙に服装が違うものですが、デザイン系の学生に特定のパターンがあるのか、そこにはどのような願望や意識があるのか、他の学部からはどのように意識されているのか、ということを実際の学生たちのファッションを観察しながら探っていく。
そもそもやはりデザイナーには一定の服装の傾向があるようで、非常にわかりやすい。以下のように書かれていました。ちなみにこの本では、英語による論文も記載されているので(英語に慣れるという意味でも)両方を記載してみます(P.62/63)。
普通、デザインに関心のない人に尋ねると、デザイナーというものの外見については特定のイメージまたは固定観念があることがわかります。少なくともヨーロッパでは、デザイナーは黒一色に身を包んでおり、眼鏡も黒縁の四角メガネをかけているものです。If you ask people who are not concerned with design they usually have an image or a cliche of how a designer looks like. In Europe, at least, designers are supposed to wear black only, including small black-framed rectangular glasses.
日本語には訳されていませんが、四角(rectangular)に加えて、ちいさな(small)というところがポイントのような気がしました。でっかい四角メガネでは、異なるイメージになる。ただしrectangular glassesでイメージ検索をしたら、以下のようなメガネがヒットしました。
いるいる(笑)という感じですね。ぼくは通常はメガネをかけていないのですが、目が悪いので、似たメガネを持っています。ということは、黒一色のファッションでもあることだし、デザイナーに対する潜在的な憧れがファッションに表れているわけだろうか・・・。確かになんとなくクリエイティブな(あるいはクリエイティブを標榜する)ひとたちは、黒を好むような傾向がある気がします。なぜでしょうね。
研究のなかでは、以下のツールを使って定性的な分析をしていきます。簡単にまとめます。
1.ファッション日記
1週間の服を記録する。なぜその服を選んだのか動機や理由を書きとめることによって、深層心理に迫る。
2.マルチチャネル・ビジュアルマトリックス
デザイン、経済、法律学部のファッションを写真に撮る(800枚ほど撮影したとのこと)。比較するために全身像を白いスクリーンの前で撮る。典型的な要素を探る。
3.セマンティック・ディフェレンシャル(SD)法
「柔らかい―固い」など両極端の形容詞を羅列したシートで、線上の好きな位置に印を付けてもらう。反射的かつ感情的な評価を得る。評価するのは、それぞれ異性。
4.アイデンティティ・キット
各学部の典型といえるモデルを小さな2次元の人形で作成。同時に、それぞれの固定観念である「影武者」の人形も作成。学部を当ててもらう。
5.ファッションショー
ストーリーボードを作成し、ショーのパフォーマンスで発表する。
固定観念としてのモデルと、実際の調査でわかったモデルを比較して発表したようです。このときに視点として大切なのは、ファッションを分析するのではなくて、ファッションを通じて自分たちが他の学部を見かけでどのように判断しているか、そして固定観念と実際はどのように違っているのか、というそれぞれの思考を発見することではないでしょうか。
傍観者がこの分析を行えば単なる観察ですが、学生たちがそれぞれの学生を観察するということから、参与観察的なエクササイズともいえます。いまデザイン専攻の学生たちが何を学んでいるのかわからないし、以前からこのようなリサーチは行われていたのかもしれませんが、今後は、こうした実践的な研究が重要になっていく気がしました。何よりも楽しそうです。
もう学生時代は遠い昔になってしまいましたが(残念)、こんな研究をしたかったなあと思いました。デザイン専攻や社会学専攻ではなくても、今後はあらゆる学部でこのようなアプローチが必要になるような気もします。
文学部で考えられるのは、実際に小説を書きつつ、その背景を探っていくような研究でしょうかね。なんとなくつらいことになりそうな気がするのですが(苦笑)。
投稿者 birdwing : 2007年3月19日 00:00
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