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2007年5月18日

瞬きをしている間に。

瞬き(まばたき)をしている一瞬に、世界が消えていたらどうしようと思ったことはありませんか。あるいは目を開けてみるとまったく違う世界になっているとか。

けれども事実として、1秒間に誕生する人もいれば亡くなる人もいる。つまり顕著な変化は感じられなくても世界は確実に変わっているわけで、目蓋を閉じたときの世界と見開いたときの世界は違う。同じように見えるけれども微妙に別の世界です。新しい世界ともいえる。

ぼくらの住むブロゴスフィアも1秒間に大きく変化しています。数えしれないブログのエントリーがあり、消滅するブログもあり、また新しく生まれるブログもある。諍いがあり、誹謗中傷があり、美しい言葉がある。画期的な考察があり、時代を鋭く切り刻む言葉があり、愚痴がある。大量のアップロードが繰り返され、膨張していくのがこの仮想世界です。いったいどこまで広がるんでしょうか。

RSSリーダーができてから、それこそリアルタイムにブログの更新をチェックするようになってしまったのですが、RSSは安堵のためのツールかもしれません。エントリーやコメントがあがったということを確認して、見ず知らずの誰かの消息を知る。ああ、元気に書いてるなあ、と。遠く離れてわからないけれども、画面を隔てた向こう側に誰かが存在していて、まるでくしゃみをするように言葉を綴っているという確認。

テキストの情報は冷たいけれど、RSSリーダーに点滅するNEWという新着のアイコンに、わずかなぬくもりを感じたりします。というのはネットにはまりすぎなぼくだけかもしれませんが(苦笑)。

そんなことを考えてネットを彷徨ってしまったら、「1秒の世界―Global Change in One Second」という山本良一さんの本をみつけました。

44788709931秒の世界 GLOBAL CHANGE in ONE SECOND
山本 良一
ダイヤモンド社 2003-06-13

by G-Tools

書店でちらっとみたような気がするのですが購入していません。Webサイトで60項目の「1秒の変化」が紹介されています。これが面白い。興味のある方は、以下のページをご覧ください。本も読んでみたいですね。

http://www.thinktheearth.net/jp/onesecond/contents.html

ぼくが好きなのは、いちばん最後のこれです。


1秒間に
ハチドリが55回はばたき...
太陽系が銀河を220km進み...
人口が2.4人増えています。

人口の増加ってそんなものなのですね。少子化社会だからなあ。
この1秒間を輪切りにするデータをみていたら、そういえばジャン=ピエール・ジュネ監督の「アメリ」に、ある瞬間を共時的に言及した似たようなシーンがあったことを思い出しました。

B000063UPLアメリ
オドレイ・トトゥ, マチュー・カソヴィッツ, ドミニク・ピノン, ジャン=ピエール・ジュネ
ビデオメーカー 2002-08-02

by G-Tools

アメリ誕生の瞬間を、さまざまな側面から言及しています。そのほかにも、この瞬間に何組のカップルが絶頂に達したかのようなことをアメリが想像する場面もありました。絶頂に達して絶叫する15組の映像がコラージュされて、困惑してしまったのですが。同一の時間軸で空間を輪切りにするような感じでしょうかね。

ちょっと余談になりましたが、「1秒の変化 60項目」からひとに関わる項目を。


1秒間に
人は93mlの空気を呼吸し...
心臓が1回脈を打ち、60mlの血液を体に送り出し...
世界に420万トンの雨が降っています。

次は数値で表現されているのに、ちょっとかなしい。数値によって、かなしい感情を誘うことができるというのも、なんとなく不思議なのですが。

1秒間に
0.3人、4秒にひとりが飢えによって命を落とし...
5歳以下の子ども48人が汚染された水や食糧で下痢になり...
ペットボトル3,500本分のミネラルウォーターが生産されています。

インターネットに関する数値もありましたが、ネットユーザーが飽和しつつあると、だいぶ数値は変わってくるのではないでしょうか。

1秒間に
3人が新たにインターネットユーザーになり...
530万円が教育費として使われ...
4トンの文書用紙が世界で使われています。

環境に関する数値は、なかなか考えさせられるものがあります。気付かないのだけれど、環境破壊も進みつつある。わずかな変化も、長期的な時間のなかでは取り返しのつかない変化となります。

1秒間に
地表の平均気温が0.00000000167℃上昇し...
グリーンランドの氷河が1,620m3溶け...
自然災害に対して、65万円の保険金が支払われています。


1秒間に
深さ4,000mの海底を流れる深層海流が10cm動き...
チーターが28m草原を駆け抜け...
ハワイが2.9ナノメートル、日本に近づいています。

ところで、瞬きをしている瞬間に去っていってしまうひともいます。変わってしまう心もある。それは仕方がないことでしょう。自分の心であれば制御することもできるけれど、他人の心を制御することはできない。変わってしまうひとの心を強制的に押し留めることはできません。

しかし、自分の心は制御できても、記憶の方は制御できなかったりするものです。

少年の頃、とても楽しいことがあった日の夜、目をつぶってしまうとその楽しかった出来事が失われてしまうような気がして、ずーっと目を開けていようと思ったことがありました。アイドルと握手をして、もったいないから手を洗わずにおく、ということと似ているかもしれません(笑)。同じようなことを何かのエッセイで読んだ気もしています。思い出せないのだけれど。

けれども、眠りには勝てなくて、いつのまにか深く睡眠のなかへ落ちてしまう。すると次の朝には、あれほど楽しかった光景がことごとく失われてしまっています。どうして記憶を鮮やかに残しておくことができないんだろう、と悔しく思ったのですが、そんな人類の悔しさが映画やビデオカメラの発明に結びついたのでしょう。

誰かが目の前から去っていったとき、去っていったひとが亡くなったひとではなければ、世界のどこかにそのひとは存在しています。だから、0.1%だったとしても再会できる可能性はある。しかし、残念ながら亡くなったひとにはもう会うことはできない。夢のなかで会うしかない。惜しむべきなのは、目蓋を開いた世界ではなく、目蓋を閉じた世界のなかで、過ぎてしまった日々の残像が失われてしまうことではないでしょうか。

ただ、脳の本などを読むと、忘れてしまった記憶であったとしても脳内のどこかには残っている、という解説もあったような気がします。つまり、気付かない無意識のなかでぼくらの記憶はきちんとアーカイブされている。死の直前に生前のイメージを高速度フィルムのように思い出すなどということが言われますが、失われたと思っていた記憶であっても、そんなときにまた再生されるかもしれません。それは生命というメカニズムの最期のご褒美なのかもしれないですね。ちょっと期待。

仕事で追いまくられつつあるのですが、一瞬を大事にしたいと思いました。子供たちもあっという間に成長していきます。それこそ瞬きをしている間に、新しい言葉を覚えたり、新しい遊びを発明したりしている。ふたりの息子たち自体は去っていくことはないけれども、どんどん変化していきます。昨日の息子たちではない。いつまでも、ちっこいままの子供でいてほしい気がするのですが、そうもいかないものです。

一瞬の笑顔を脳内に刻んでおこうと思いました。いつかまた、その笑顔に会えるように。

+++++

「アメリ」のトレイラーです。なんとなくあの映画のよさを伝えきれていないような気もします。まるで絵本のような映像が素敵だと思いました。メランコリックな音楽も耳に残ります。実はDVD持っています。この映像は何度も観たい、と思ったので。ちょっと甘ったるいストーリーでもありますけどね。

■Amelie Trailer

投稿者 birdwing : 2007年5月18日 00:00

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