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2008年5月14日

デザインと発想。

デザイナーという職業の凄さは、描いたデザインの表現そのものというよりも、その発想にあるような気がしています。

もちろん美しい線を描けることや、色彩の組み合わせで感情を揺さぶることも重要だとは思います。けれども表現に至るまでの考え方であったり、発想がわかるとぼくは説得されてしまう。理屈でわかるのではなく、すーっと入ってくるものが望ましい。つまり作られた表現ではなく、そこにあるべくして成立したカタチというか。紆余曲折を経たとしても、最終的には削ぎ落とされてシンプルな佇まいのあるデザインがよい。

同じ方向性でバリエーションの違ったラフをいくつも作成できること、違いを明確にしつつヴィジュアルできちんと表現されていること。そんな力量も凄いと思う一面です。もやもやっと構想することはできるのですが、そのもやもやをカタチに落とし込むことは難しい。優秀なコピーライターさんとお仕事をしていても感じることでもあります。図案にすることと同様、曖昧な考えを言葉にするのはほんとうに難しい。ブログも同じなんですけどね。

ぼくは、ほそぼそと企業のコミュニケーションのお手伝いのような仕事をしています。しかしながらライターでもデザイナーでもなく、プランナーという仕事です。その立ち位置の曖昧さに、もどかしさを感じたりもします。概念的なことが多いからかもしれません(苦笑)。

ライターであれば考えたことを文章に、デザイナーであれば考えたことを図案に、それぞれ具体化できる。しかし、ぼくの場合は発想とロジックの組み立てや裏づけが中心になるからです。なんというか、タマシイだけがあって身体がないユウレイのようなお仕事なわけです。その曖昧さに開き直ると危険な気もしていて、表現の現場をわかっている必要がある。というのは、抽象論の宙に浮くような話ばかり展開していると、いつまでたっても地面に降りることができない。机上の空論に終始することになるからです。

考えるプロフェッショナルになることを標榜していて、その意味ではコンサルタントに近いかもしれません。もっと本質をわかりやすく語ってしまえば、悩んでいるひとがいて、その悩みを解決してあげる仕事というほうがわかりやすい。カウンセラーにも近い。企画屋とかプランナーのような、なんだかぺらぺらしている印象の職種には後ろめたいものも感じていて、カウンセラーのほうがひとに役立っている気がします。

発想法に関する技術や本はいくつも出ていますが、若い頃にはKJ法やブレストの技術について関連書籍を読み漁りました。といってもそれらの方法論をいくつも知っていても、実際に発想ができなければ、ハサミ(道具)はあるけど何も作れないことに等しい。では、どう発想するか、ということについては、影響力のある仕事をしているデザイナーであるとか、経営者であるとか、あるいは過去の偉人のようなひとたちの話を聞いたり、書物を紐解くのがいい。

というわけで、「見えるアイディア」を読み終わりました。

4620318698見えるアイデア ヴィジュアル・コミュニケーション・トレーニング塾
秋草 孝
毎日新聞社 2008-03-14

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この本は電通で勤められた後に日本大学藝術学部や金沢美術工芸大学で講師を勤められた秋草孝さんが、ビジュアルによる発想力を鍛えるためのトレーニングの実践について学生の作品などの事例もふんだんに引用しながら、わかりやすく解説された本です。

とにかく何か表現する前に、考えるトレーニングが必要である、という姿勢がよかった。確かに自分もそうだけれど、手っ取り早く短絡的に何かをカタチにしようとする。しかし、実はその前にきちんと考えておくと、表現も違ってくるものです。できれば若い頃、思考が柔軟な学生時代に、デザインの道具はとにかく置いて、まずは発想力を鍛えておいたほうが、その後の表現力や発想力にも格段の違いが出るような気がします。

当然のことながらアートディレクターやクリエイティブディレクターなどを志向するひとに向けて書かれた本、というよりもデザインをする学生のために書かれているため、ぼくとしては若干、ビジネス視点に欠けるような気もしました。しかし、発想のヒントとして面白い視点がたくさんありました。

ちょっと感動して涙出そうになったのは、アートディレクターでもあり絵本作家「マルタン」でもある後藤徹さん・静子さん夫妻による「くるりんぱ活動」について紹介されていた部分でした。

いわゆる騙し絵のようなものですが、動物の図案がひっくり返すと別の動物になる。この活動の動機としては、次のようなものがあったようです(P.49)。

「ものの見方はひとつじゃないよ!」
「一つの考え方にとらわれないで、見方を変えてみよう。そうしたら、まったく違う世界が広がり、新しい考え方が生まれるよ!」
でも、このメッセージは少し難しくて、言葉だけでは伝わりません。そこで「マルタン」は、子供たちを集めたワークショップを、日本および世界各地で開くことにしました。

ワークショップでは次のように展開されるようです(P.50 )。

「この絵は何に見える?僕はウマだね」と、徹さん。
「私はペンギン」と、静子さん。
「何言ってるんだよ、ウマに決まってるじゃないか、ウマ!」
「あなたこそ何言ってるのよ、ペンギン!!」
ついに、夫婦げんかがはじまります。
「じゃあ、どっちのマルタンが正しいか、みんなに聞いてみよう!」
と、周りを囲んでいる子供たちに質問すると、彼らは「マルタン」の夫婦げんかに笑いながらも確かな声で、「どっちも正しい!!」と叫ぶのだそうです。
「うれしいですよね。くるりんぱメッセージが伝わった瞬間です。」

実際にこのマルタンの逆さ絵はWEB絵本でみることができます。

■くるりんぱ
http://www.kururinpa.com/kururinpa/index.html

これがウマの顔。

080514_kururinpa2.JPG

でも、ひっくり返すとペンギン。

080514_kururinpa1.JPG

そして、次の解説が泣けました(涙)。

「世界では戦争が起こり、人びとがいがみ合ったり、殺し合ったりしていることは知ってるよね。戦争というのは国同士のけんかなんだよ。でも、さっきのウマだと思ったら、ペンギンだったことを思い出してみて。どっちが悪いとけんかすることじゃなく、相手の気持ちになって見方を変えてみれば、その国のいいところや文化が見えてくるかもしれない。そしたら、けんかなんかやめて、友達になれるかもしれないよね」

この発想は、相手を思いやることにも通じるだろうし、企業であれば顧客志向の考え方にもつながると思います。二項対立、善悪という判断ではなく、どちらも正しいという状態がぼくらの世界には存在します。

これしかないでしょ!とキメ打ちする潔いひとがぼくは信じられなくて(たいてい資産管理の営業マン的なひとには多い)、こういうのもある、しかしこうも考えられる、のようにあらゆる側面から多様な考え方を示すことができるひとに憧れます。ただし、多様な考え方の問題点というのは、じゃあどれがいいの?と詰め寄られたときに、う・・・と沈黙してしまうことかもしれない(苦笑)。したがって、これがベストです、しかし、こんな風にも、こうだって考えられます、のように、多様な視点からさまざまな検証をしつつ、どの考えを選ぶか、という思考が大事かもしれないですね。

と、多様な考え方の取得に関心があり、つづけて購入したのが以下の本。勢いで半分近く読んでしまったのですが、非常に面白い。

4479391703知識だけあるバカになるな!
仲正 昌樹
大和書房 2008-02-09

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ほんと、タイトルに説得された(笑)。まさにそうなりたい。

人文系の学問を学びはじめようと思ったひとのための、入門の入門書だそうですが、ネットにおける脊髄反射のコメントや、二項対立の枠組みで思考停止することの愚など、ぼくがいま読んでも十分に楽しめる。ちょっと、いてててて・・・という視点もあって、その辛辣さというか切れ味が気持ちいい。

そんな思考のストレッチをしつつ、先週買ったこんな本も読書中。

4822246396営業の赤本・一問一答 儲けにつながる99.5の教え
ジェフリー・ギトマー 月沢 李歌子
日経BP社 2007-12-13

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夢ばかりではなくてね、現実的に数字も上げなければならないわけで(苦笑)。おとーさんは大変なのだ。ビジネススキルをいちから構築し直しです。

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くるりんぱ活動は、ユネスコ世界寺子屋運動としても展開されているようです。生々しい手が出てくるのですが、子供たちにとってはわかりやすいページなのかな。ここまでリアルじゃなくてもいい気がするのだけれど。

■ユネスコ世界寺子屋運動
http://www.terakoya-kururinpa.jp/

080514_kururinpa3.JPG


投稿者 birdwing : 2008年5月14日 23:25

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