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2008年5月16日

闘うルール。

R25の巻末、高橋秀実さんのエッセイ「結論はまた来週」の連載第108回「悪口の作法」を読んで、なるほどなあと思いました。とても興味深い内容でした。

高橋秀実さんは、まず3万8260件(文部科学省の4月15日の調査らしい)存在するという「学校裏サイト」について嘆いています。とんでもない誹謗・中傷が書き込まれていて、なかには「死ね」「殺す」などの発言もあるらしい。

「学校裏サイト」というのは、2ちゃんねるの低年齢化みたいな傾向として存在している気がします。便所の落書きばかりがネットではないと思うのだけれど、感情と欲望のままに書き込むと、結局、際限のない闇をネットのなかに生んでしまう。キホン的なマナーやリテラシーの教育を放置したまま、子供たちをネットにアクセスさせると暴走も生まれるのではないか。有害コンテンツのフィルタリングの問題にも関わるのかもしれないけれど、大人たちがガイドラインを定める必要があるのかもしれません。

まずは高橋さんの次の提言には頷くものがありました。


君たち、逮捕されたいのか?

と私は心配になった。これは刑法の脅迫罪にあたる立派な犯罪である。いっそサイトを禁止したいくらいなのだが、私も子供時代は悪口を言ったり言われたりして育っているので、あまり偉そうなことは言えない。ただ私は子供たちにこう諌めたいのである。

まず、名を名乗りなさい。

言いたいことがあるなら、まず自らの名前を表明しなさい。匿名で他人の悪口を言うのは卑怯者のすることだと諭したいのである。

ネットの匿名性が、悪い意味で暴言を許す方向に働いているのでしょう。発話者が特定されなければ、責任がないから言いたい放題になる。

ぼくは悪口や愚痴と、批判、批評、評論はまた別物だと思っているのだけれど、ネガティブという意味ではそれらをごちゃまぜにしてひとくくりにしてしまうことがある。単なる悪口なのに批判であると胸を張ってみたり、愚痴を並べただけなのに建設的な意見を述べて俺は偉いのだ、のように高みから見下ろすひともいる。という自分もきちんとわきまえたいところではあります。反省。

と、ここまでは普通のモラルに関する話なのですが、高橋秀実さんのお話の面白いところは、戦国時代に遡って悪口の文化史を短い文章のなかで整理されていることでした。

教育的指導の観点から、私は悪口にも作法があることを知ってほしい。 
文献記録をさかのぼると、日本人が悪口をさかんに言い始めたのは戦国時代。 

どうやら戦国武将は、鎧や刀で激しく勇ましく戦う前に「おまえのかーちゃんでーべーそ」のような悪口合戦を本戦の前に行っていた、とのことです、これは「ことばたたかい」というものらしい。ひげもじゃないかつい武将たちが言葉でののしりあう様子は、なんだか平和です(ほのぼの)。ことばで闘えば、こころは傷付くかもしれないけれど、身体を傷付けることはないですからね。以下のように解説されています。

やりとりはルール化されていたようで、武器による戦い「所作(しわざ)」に対して、これを「言技(ことわざ)」と呼んでいたそうだ。畳みかけるような弁論術で敵方を文字通り閉口させる。そして「言われてみればそうかもしれん」と納得させて戦意を喪失させるのである。ゆえに戦場では、力の強い者より口の達者な者が重用されたという。

企業でも同じようなところがあります。大きな声を出せる人間が、力を持つことはある。積極的だということもあるかもしれないのですが、騒いで問題を大きくするような人間が場を占有することもあり、こちらは困ったものですが(苦笑)。ただ、戦国時代からの名残りがあるのかもしれないですね。というか、人間はそもそもそういう社会性のもとに生きているのかもしれない。だからどんなによい考えを持っていても、表現できなかったり、ちいさな声で発話していると損をすることが多い。これはグローバル化などにおいても言われることかもしれないですが。

さらに、ほのぼのとしたのは次の記述です。

最強の武器は言葉だった。そして時に雄弁な者同士が悪口の応酬をすると、「敵モ味方モ、道理ナレバ、一度ニドットゾ笑ケル」(同前)というように、戦場は爆笑の渦になり、結局、戦をやめることにもなったらしい。つまり悪口は、面と向かってお互いに吐き出すことで暴力を抑止するものだったのである。

いまの学校裏サイトが暗く行き場がないのは、それが暴力の抑止になっていないということもあります。そこで吐き出した暴言が、実際のいじめなどを加速する増幅器になってしまっている。

ここで、ぼくが思ったのは、武将たちの「ことばたたかい」は遊びに近いということでした。真剣勝負の武将たちに叱られそうですが、どこかスポーツであったり、ゲームに近い。そして、いまの子供は遊びを知らないから制限のない学校裏サイトのような暴走になるんじゃないかな、ということでした。

子供によって差はあるかと思うのですが、うちの息子たちは、ほんとうにゲームばかりやっている。もちろんゲームにもルールはあります。けれども、友達と遊ぶときのルールというのは、場に応じてゆるくも厳しくもなるものです。ルール自体が改変されてしまうこともある。遊びやすい方法に改良されるわけです。

ところが、デジタルなゲームの世界ではそういうことはあり得ないですよね。遊んでいるつもりが、ゲームに遊ばされている。したがって、見えないストレスが負荷になることもあるだろうし、逆にその制限を超えてしまいたいような衝動があるかもしれない。

一般には暴力的なゲーム=リアルな暴力性のようにとらえられています。一方で、CNET Japanの「暴力的ゲームは子どもに影響なし--ハーバード大心理学者が調査」のような報告もあります。

Lawrence Kutner氏とCheryl Olson氏の2人の心理学者は、暴力的なゲームをプレイすることはほとんどの子どもにとって、ストレス発散に過ぎないとの結論に達している。もちろん、暴力的なゲームを数時間プレイした後に遊び半分の攻撃性を見せた子どもも中にはいたが、武道アクション映画を観た後の子どもが見せる反応と同じレベルだった。

しかし、ぼくはゲームにおけるルールによる拘束性、あるいは自由度のなさが、リアルにおいて特定の規範を超えてしまう力になっている印象を受けました。

高橋秀実さんの書かれていた内容に戻ります。「ことばたたかい」における「言技(ことわざ)」は、柳田国男さんによると「ことわざ」として残っているとのこと。とはいえ、相手を徹底的にやり込めるための武装ではなく、やはりちょっと手加減して、やわらかくしっぺするようなところがあります。次の言葉が印象的でした。

大切なのは切れ味とユーモア。悪口とは和平のために洗練を要する話術なのだ。

どこまで言葉で追い詰めるか、どこから一線を越えてしまうのか。そのルールをきちんとわかっていれば、他人を傷付けたり、自分を殺めるようなこともなくなるような気がします。そしてその規範を作るのは・・・やはり大人たちであるぼくらが、お手本を示すべきではないでしょうか。

投稿者 birdwing : 2008年5月16日 23:55

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2 Comments

胡瓜 2008-05-19T07:47

お久しぶりです。

誹謗、中傷メインの「学校裏サイト」とは別に
彼等は、自分や友人同士で作ったサイトも持ってます。
そこには、匿名で誹謗、中傷が無い代わりに
学校名、名前、学年、クラス名なども堂々と載せた上で
彼等の日常が広がっています。
結局、名前を出す事で発生する責任の意味も理解出来てません。
ネットのマナーもそうだけど、先ずは人としての
マナー、ルールを一から叩き込まねばならないようです・・。
ほんと、頭が痛いです(笑)

BirdWing 2008-05-20T05:22

お久し振りです。胡瓜さん、コメントありがとうございました。シリアスな記事を書いたかと思ったら、今日(というか昨日)は気持ちがぽやぽやしておりまして、コメントが遅れました。どんな気持ちだ?という感じですが(苦笑)。

日常を実名でネットに晒しているとのこと。ええっ?そうなんですか?いまの中高生。びっくりしました。裏サイトではなくて、超・表サイトですね。これはひょっとしたら匿名の裏サイトよりも危険かもしれないと思いました。なぜならですね、ふざけて「○○のコンビ二、万引きやり放題だぜ。今日も5000円分ゲット」なんてことを書き込んだら・・・つかまりますよね。

うーむ、taspo(タスポ)じゃないですが、未成年者のネット利用は、特殊なICカードで認証をかけたほうがいいかもしれない。コンテンツのフィルタリングが問題視されるのも、わかるような気がしました。あとはリテラシーの教育と、オトナによる監視でしょうか。よく先生やPTAは盛り場を見回ったりしていますが、これからはリアルだけではなくてネットの世界も巡回する必要があるかもしれません。大変だ(泣)。

これは学校に任せておくだけではなくて、親とかオトナたちがもっと配慮すべきでしょうね。しかし、学校も、もう少し頑張ってほしい。というのは、どうも先生というのは、ネット?ああ、やったことない、文章書くのは原稿用紙に万年筆がいちばんだ、知るか・・・みたいなひとが多い気がする。というのは教育の現場を知らないぼくの偏見でしょうが、自分の趣味はともかく、問題がありそうなことは先生もセンサーを働かせて、抑止するための行動を起こしてほしい。

要するに、交通安全の指導だとか、あるいは性教育みたいに、ネットもリテラシーであったりキホン的なことをもっと学校で学ばせるべきだと思います。調べ学習も大事だし、脅しの教育はどうかとも思うのだけれど、無垢あるいは無知なまま、とんでもない穴に落ちたりしたらかわいそうです。

ええと、次男くんが喘息というか風邪で非常に体調悪そうなので、こんな時間に寝たり起きたりの状態です。無駄に長文コメントになってしまいました。失礼いたしました。

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