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2006年6月24日

考えない(without thought)。

気になる本というのはそのときどきで変わるもので、突然小説ばかり読み漁るときもあれば、ビジネス書を片っ端から読んでいくときもあります。いまぼくはどちらかというと、写真があって、深い思索的な言葉で構成されている本に傾倒しがちのようです。ところがそういう本はちょっと高価なもので、そう簡単には買えないので困る。

仕事の途中で立ち寄った書店で先日買った本は、プロダクトデザイナーである深澤直人さんの「デザインの輪郭」です。

4887062605デザインの輪郭
TOTO出版 2005-11-10

by G-Tools

偶然にも輪郭というタイトルでブログを書いていたので、ついタイトルに惹かれてしまったこともあるのですが、ぱらぱらとめくっていて次の言葉がよいと思いました(P.42)。

僕がこれを考えたように見えるといわれますが、
それは僕が考えたわけではなくて、
そうなるべき姿であったということの結果だと思います。

「04 考えない(without thought)」というアフォリズムのような短い言葉です。前書きのところで解説されていたのですが、この本はもともとはインタビューや対談を原稿として起こして本にする、ということで作るはずだったのが、いざトークを起こしたものを読んでみると抽象的すぎて愕然とされたそうで、インタビューや対話の発言をそのまま記録したような部分と、その発話としては抽象的すぎるアフォリズムについて後から文章によって解説を付加した部分(さらにデザインの写真)で構成されています。

「without thought」という思想からワークショップなどの活動も展開されているらしいのですが、よい作品というのは見た瞬間に直感的にこれはいいなと誰もが納得し、やられたとため息が漏れるものだ、という言葉になるほどなと思いました。しかしながら、よいデザインは突飛なアイディアであったり力がこもっているものではなく、自然なものである。「行為に溶けるデザイン」という言葉を使われているのですが、無意識のうちに生活に溶け込むものだそうです。

「選択圧」というキーワードもあるのですが、自然に使いこなしていくうちにデザインは淘汰されていく。進化論的な言葉からヒントを得た思想のようですが、無理に主張するのではなく、よいものは必ず残る、美しくないものや不正なものは自然に淘汰されていくという考え方には、何か頷けるものがありました。俳句とデザインについても対比されていて、やはり意図的に創った俳句はよくない、選句眼のすぐれたひとがいて選び出すことによって、それほどよいとは思わなかった句も名句に変貌する、という話も面白かった。

ただ、ぼくが思ったのは、最初から何も考えないで何か素晴らしいものを生み出せるような境地に至るのは難しく、考えて考えて、泥沼のようなところを這いつくばって、傷付いたり悩んだり、二度と振り返りたくないような恥ずかしい体験を潜り抜けたあとで、自然にすっと生きることができるようになる気がします。深澤さんご自身も考えないと言いつつ、ものすごくたくさんのことを考えている。湖面に浮かぶ鳥のように水面下でたくさん水をかいているのだけど、静かにすーっと水に線を描いて動くことができるようになりたいものです。

投稿者 birdwing : 2006年6月24日 00:00

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