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2006年11月28日

事・理・情のバランス。

雨が地面にすっと滲み込むように、活字が心(あるいは脳)に滲み込んでくる日があります。ここ数日はそんな感じでした。面白いように本が読める。逆に、どんなに集中しようとしても文字の上を視線が滑っていく日もあります。そんなときは通勤電車のなかにいても無理に本を開かずに、目を閉じて眠ることにしています。無理に読もうとしても楽しくないし、目をつぶる時間も大切なものです。そうして、さまざまな音に耳を澄ます。

読んでみたいと思っていながら保留にしていた本を昨日購入しました。

博報堂ブランドデザイン著の「ブランドらしさのつくり方−五感ブランディングの実践」です。現在、読書中(P.76あたり)。

4478502722ブランドらしさのつくり方―五感ブランディングの実践
博報堂ブランドデザイン
ダイヤモンド社 2006-09-29

by G-Tools

冒頭でダニエル・ピンクさんの本から引用があって、なるほどなあという感じです。「ハイコンセプト」については、それをどう実践するか、ということが重要ではないかと思っていたのですが、感性重視の方向性を実際にマーケティングに応用したのが「ブランドらしさのつくり方」なのかもしれません。

そもそもぼくは音のクオリアのようなものに関心があってブログに書いたり、アロマ発生装置に興味を持って記事を書いたりしていたのですが、この本は総合的な視点から五感に訴えるブランディングを解説した本といえるのではないでしょうか。ただ、やはり科学的な方法論に比べると、どこか脆いものも感じました。それでも五感に訴えるアプローチは魅力的で、可能性を感じているのですが。

五感もバランスよく機能させることが重要ではないかと思いますが、文章もまた同様です。先日読了した「情報のさばき方」という本には、「事」「理」「情」のバランスが必要である、ということが書かれていました。この3つの均衡をとることは、非常に大事であると感じました。

まず、「事」について。次を引用します(P.200)。

「事」とはいうまでもなくファクト、基本となる「事実」や「データ」を指します。「理」と「情」がどれほど優れた文章であっても、「事実」そのものがあいまいであったり不確かであったりすれば、情報としては信頼性に欠けます。

つづいて「理」(P.202)。

「理」にかなった文章とは、ある「情報」と、別の「情報」を結ぶ脈絡が、すっきりとしていて、すぐに関係が頭に入りやすい文章のことです。

情報をつなぐ文脈が理である、という見解ですが、ジャーナリスティックだなと思ったのは、その少し前の次のような文章でした(P,201)。

権力は「力の論理」を押し通そうとするのに対し、情報を伝えるメディアは、「論理の力」で対抗し、権力をチェックします。

つまり圧倒的なパワーをもつ権力に対して、「論理」で対抗するという主張に記者としての力強さを感じました。とはいえ、逆にその論理を強行するとメディアとしての間違った力を持つことにもなるような気がします。論理を駆使しすぎると言葉の暴力にもなる。いちばん気をつけなければならないことです。

そして最後に「情」(P.206)。

新聞記者には「私という主語は避けろ」という鉄則があります。記者はあくまで観察者であって、当事者ではない。主観は避け、できるだけ現場や状況をして語らしむようにしろ、という教えです。

しかしながら、ここが新聞とブログの大きな違いではないでしょうか。ブログではむしろ「情」の部分の情報こそが重要になることもある。もし新聞とブログが協調を取るとするならば、新聞にはない情の部分をブログが相補的に補うことによって、うまく協調できるような気がしました。つまり観察者として事実を伝える新聞に、それをどう受け止めたかという読者としての「情」を付加していく。このときにメディアとしても広がりが生まれるのでは?(といっても、あまりにも剥き出しな情は困りものですけどね)。

最初に書いた五感ブランディングのような考え方も、事実や左脳的な論理に、感性という付加価値(もしくは付加情報)を加えることによって、より広く人間の心理に訴えることができるのではないか、という気がします。

さて、理屈っぽくなったので、五感ブランディングと文章論についてはこの辺にしておきましょう。

まったく違うお話を。

帰宅する途中、家の近所にちいさなCDショップがあります。ログハウス風の店内で、品揃えは決して多くないのだけど、なんとなくいい感じです。新譜と中古の両方を扱っている。たいていぼくは新宿の大規模なお店を利用するのですが、この自宅の近所にあるちいさなお店が気に入っていて、たまにぶらりと寄ってCDを購入します。ぼくよりも10歳ぐらい年上の眼鏡をかけた上品なおばさんがひとりでレジにいて、お店の番をしている。たまに駅ですれ違うので、どこか別の街からこの店にやってきているらしい。

自主制作のCDがレジの横に飾ってあったので聴かせていただいて、なかなかよかったので350円で購入したこともありました。それを機会に、CDを買ったときにはちょびっとずつ(ふたことみこと)、その上品なおばさんとお話をして帰ることにしています(何も話さず何も買わずにぐるりと一周して帰ってしまうこともある)。きっと若い頃には、音楽が好きだったんだろうなあという感じで、年齢はもうシニアなのですが、音楽の話をするときにはとてもいい笑顔をしている(ちょっとかわいい)。どうしてお店を開いたんですか?どんな音楽がお好きなんですか?と、そんなことを聞き出すまでには5年ぐらいかかりそうですが、月に一度ぐらいは立ち寄ることを楽しみにしています。恋をしているわけではありませんが。

今日はそのお店でこのCDを買いました。アコースティックギターと弦の音が心地よいです。

B00005HO4Aファイヴ・リーヴス・レフト
ニック・ドレイク
ユニバーサル インターナショナル 2000-10-25

by G-Tools

そんな音楽を聴きつつ、また明日。

投稿者 birdwing : 2006年11月28日 00:00

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