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2007年1月28日
海を飛ぶ夢
▼Cinema07-006:生きることと、死ぬこと。正しさって何だろう。
海を飛ぶ夢 ハビエル・バルデム ベレン・ルエダ ロラ・ドゥエニャス ポニーキャニオン 2005-10-05 by G-Tools |
素晴らしい映画でした。今年になって観た映画のなかではいちばんだと思う。映像も、キャスティングも、そして何より脚本が素晴らしい。要所要所に泣きどころ満載であるし、人生について深く考えさせられました。
テーマは尊厳死です。25才のときに引き潮の海に飛び込んだことにより首を傷つけ、26年間、四肢麻痺で寝たきりの生活をしているラモン(ハビエル・バルデム)が尊厳死を希望する。兄は船乗りをやめて夫婦で彼の身辺の世話をしていて、その息子も叔父であるラモンのためにいろいろな支援をしています。だからこそ、死にたいという要求に兄は怒って大反対しています。
そんな彼の周辺にはひとが集まってきます。自ら弁護したいという痴呆症を患っている女性の弁護士が現れ、彼女と心を通わせることで、過去に書いた詩などを出版することになります。テレビのインタビューで彼の存在を知ったおせっかいな女性も現れたり、やはり四肢が不自由な牧師が彼を批判したりもする。牧師は、ラモンの家族は「愛情がない」とテレビでコメントして、ずうずうしくラモンの家にやってきて議論したりするのですが、最後に兄の妻が叩き付けるように言う「あなたはやかましすぎる」という言葉が効きました。
ラモンの気持ちを尊重すると、彼を死なせなければならない。ところが、彼に生きてくれと望むことは、永遠に彼の苦しみを持続させることにほかならない。何が正しくて、何が間違っているのか分からない世界です。答えが分からない、決められないと思いました。
四肢が不自由だけれど、ラモンは想像力の翼をひろげて海岸にいる好きな女性にも会いに行ける。この空を飛ぶ映像が非常に美しかった。また、高速度撮影のように窓の向こうの風景が変わる映像にも打たれました。けれども現実の彼はベットから少しも動けない。10センチの距離にある手を動かして、誰かに触れることさえできない。それでも彼はユーモアを忘れません。(脚の感覚がないのに)脚が痒いから来てくれとか、(立ち上がることさえできないのに、お腹の上で寝てしまった子供をみて)これじゃあ動けないな、などと周囲を笑わせる。
後半、ラストまでは涙でぼろぼろで正視できませんでした。哀しすぎる(泣)。健常者であるぼくらは、四肢が動かないひとたちの苦しみを理解できません。死なないで生きてください、という一般的な倫理を話すことは簡単だけれども、はたしてそれが最善なのか。指を動かすことさえままならない苦しみを分かったとしたら、生命を絶つという選択もあり得るのではないか。けれども苦しみを緩和しながら生きるという選択もないのか。誰かの痛みを理解できる、と口先ではいくらでも言える。言葉だけならば容易いものです。でも、ほんとうに理解できているのか。
ぼくには分かりません。けれども映画はあまりにも美しく、哀しすぎました。1月28日観賞。
*年間映画50本プロジェクト(6/50本)
投稿者 birdwing : 2007年1月28日 00:00
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