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2007年3月15日

空間の男性脳、時間の女性脳。

難しいことばかりを考えていたら頭痛がしてきたので、やわらかい本が読みたいと思いました。そこで文庫のコーナーを物色していたところ、黒川伊保子さんの「恋愛脳」を発見。

4101279519恋愛脳―男心と女心は、なぜこうもすれ違うのか (新潮文庫)
黒川 伊保子
新潮社 2006-02

by G-Tools

以前「怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか」という新書を読んだところ、音のクオリアという考え方や五感に訴えるネーミングなどの発想が面白かったので、黒川さんの書く本をもっと読んでみたいと思っていました。

そんなわけでこの本に注目したのですが、男性のぼくとしては、「恋愛脳」というタイトルはめちゃめちゃ恥ずかしい。欲しいけど、どうしようか散々迷った末に、島田雅彦さんの「美しい魂」も買うことにして、表紙を隠してレジに持っていきました。まるで大人向けの本をこっそり買う中学生みたいだ(苦笑)。

読んだところ、冒頭から黒川さんのチャーミングな文章にやられました(笑)。この文章、好みです。なんというか、このひとはオンナだなあ、という感じ。「怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか」は論文調の文章ですが(とはいえやはり文章の触感としてやわらかい)、この本はエッセイなので、フェミニン全開です。男性のぼくとしては、その文体から立ち昇る香水の匂いのようなものにくすぐられる。

たぶんこういう文章を許容できないひともいると思います。媚びた感じがいけすかない、というか。でも、ぼくはいいんじゃないかと思う。子供がいて、それでいて大人の女性として魅力のある文章を書いているのがいい。ブログでも、子煩悩な日記が大好きでよく読むのですが、黒川さんの息子の話も面白かった。そして、じーんとくる。思わずもらい泣きしそうな部分があったのですが、後日レビューでまとめて紹介することにしましょう。

脳梁が分かつ脳の違い

さて、「恋愛脳」では、中盤にきて、これは!と思うような見解が多数ありました。

この本を貫く考え方としては、男性と女性は脳が違うから基本的に理解できない、ということを前提として、男性脳と女性脳の違いを解説されています。

ここでいう男性脳と女性脳というのは概念的なもので、右脳と左脳に対応しているということではないようです。男性だから男性脳、女性だから女性脳というわけでもなくて、比率として女性脳が強い男性もいれば、その逆もいる。では、一体これは何か。

構造的には、脳梁と呼ばれる右脳と左脳をつなぐ部分の太さの違いが決定するようです。このことは漠然と知ってはいたのですが、脳梁の太さは「世界をどのように見るか」ということに影響してくると解説されています。次の部分を引用します(P.75)。


脳梁の細い男性脳は、女性脳に比べて、右脳と左脳の連携が悪い脳ということになる。二つの映像の違いが、くっきりと際立つ脳だ。つまり、生まれつき、ものの奥行きに強い脳なのである。

え、と思いました。ここで例を挙げているのが、「冷蔵庫のバター」を発見できないのは、男性が奥行きに惑わされて近い情報を見過ごしてしまうからであり、女性は平面的に情報をなめるようにみることができるので、発見しやすいとのこと。

さらに、次の言葉からは非常に刺激を受けました。確かにそうかもしれない・・・(P.104)。


女性脳の情緒は積分関数である。時間軸に、ゆったりと蓄積されていく。男性脳のキーワードが「空間」なのに対し、女性脳のキーワードは「時間」なのである。


簡単にまとめてしまうと、


男性脳空間的三次元点型認識・俯瞰して奥行きを感じて世界を立体的にみることができる脳
女性脳時間的二次元面型認識・平面によって世界の詳細をはっきり把握することができる脳

ということらしい。

クレイマーにならないために


ここで「クレイマー、クレイマー」というダスティン・ホフマンが出演している映画を例に挙げています。

B000MTOPWIクレイマー、クレイマー
ロバート・ベントン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2007-04-04

by G-Tools

家庭を顧みずに仕事に夢中になってやっと昇進した夫に対して、妻は離婚を言いつける。そこで次のように書かれています。(P.109)


二人のクレイマーは、どちらも相手に深く傷付けられたと思っている。この大いなる断絶は、「時間を紡ぐ女性脳」「成果だけが頼りの男性脳」が理解できないと、男と女の永遠の溝になる。

そして次のようにつづきます。

そういうわけで、思いを時間軸に貯めていく女性脳は、マイナスの感情にも同じことが言える。貯めて貯めて、ある日、閾値(状態が劇的に変化する分岐点の値のこと)を越えたら、あふれる。あふれたら、ゼロクリアだ。すなわち、キレるという状態である。どうしたって、取り返しが付かないのである。
男性脳は、その場その場の真偽判定の脳なので、三回許したことは、1000回でも許せる。女性脳は違う。一万回許しても、一万一回目にあふれたら、もう情緒的にはなれないのである。

むむむ。深すぎる(苦笑)。
15年も結婚生活を送ってきましたが、ぼくは女性の気持ちをまったくわかっていないのではないか、と凹みました。この本をもっと早くに読んでおけば...。でも、理解できないものに、人間は(というかぼくは)惹かれるものかもしれません。夫婦だからすべてわかる、のではなくて、もう一度、理解できない脳の構造をしているんだ、という前提から、あらためてお互いを見直してみてもいい。

人生、学ぶことが多いです。

投稿者 birdwing : 2007年3月15日 00:00

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2 Comments

トサマミ 2007-03-16T22:12

とっても気になる本です!!!
表紙もかわいいし、チャーミングな書き方というのも惹かれます。

15年の結婚生活。はぁ。憧れます。
気持ちをお互いに通じさせるための『努力』が相手に伝わること
それが一番なんだろうなって思います。

> 理解できない脳の構造をしているんだ

次の恋愛には、是非、この思いを胸に進んでいきます!!
春です。恋しなくっちゃ。

birdwing_tn 2007-03-17T00:31

>トサマミさま
ぜひトサマミさんには読んでいただきたいです。きっとこの本を読むと、内側から数百倍いい女になれますよ。

女性向けに書かれた本なのですが、読み進めながら思わずぼくは黒川さんに恋をしてしまいました。作家ご本人を好きになるなんてどうかしている、おかしいのだろうかと真剣に悩んだのですが、あとがきで横内謙介さんが「この著者に恋をした」と堂々と宣言されていたので、ほっとしました。なあんだ、ぼくだけじゃないんだ、と。

たぶんかなりの男性が黒川さんに惚れると思います。だから、この本を実践すれば、多くの男性がころっとまいるのではないでしょうか。

えーと、実は黙っていようと思ったのですが(こっそり言うのですが)15年じゃなくて14年でした・・・。お恥ずかしいです(泣)。15年目に入ったところでした。

やっぱり空間的な男脳は、時間的な把握は無理ということでしょうか。ぼくが単にぼけーっとしているだけかもしれません。今日、奥さんに訊いて愕然としました。で、きつく言われました。

「あなたはいつでもひとつ年を多く言うのよ。わたしの年齢だっていっつも多く間違えるし(怒)」

・・・はあ。確かめて書けばよかった。さらに凹みました。まあいいや。

春です。素敵な恋をしてくださいね。

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