« 価格と価値。 | メイン | 連休の最終日に手に入れたもの。 »

2008年5月 5日

[DTM作品]LOVE RAIN

ぼくらの生は一回限りのものであり、不可逆なもの、つまり過去に遡ることはできません。巻き戻して、やり直すことができない。

バタフライ・エフェクトではありませんが、ちいさな岐路の連続がぼくらの生にはあり、選んだ選択肢の結果が後になって大きな違いとなることもある。だから、ああすればよかった、言わなきゃよかった、という後悔も生まれる。しかしながら、後悔した結果を未来への教訓として生かさなければ、前進できません。反省は大事だけれども、反省したらすっぱりと忘れてしまうことも大事です。過去にとらわれて生きていると、新しい契機を掴むこともできなくなります。

漫然と生きているのだけれど、ひょっとしたら「いま、ここ」で、何を発言するか、どんな行動を取るのか、ということは未来への選択として重要な礎になるのかもしれないですね。

大切なひとに告げたい言葉があっても、こころのなかだけに留めておいたら二度と話せないかもしれない。亡くなった父に対して、ぼくは話したいことがあったのだけれど、結局話せずに父を見送った経験がありました。そのときに、話せることはいま話しておかなければいけないのだな、と痛感しました。些細なすれ違いの喧嘩が別離に発展することだってある。気が抜けません。刹那をきちんと生きていくことが大切になる。

禍転じて福と成す、雨降って地固まる、のように、短期的にはマイナスの選択であっても、長期的な視点からみると、あのときに泥を被っておいてよかった、ということもあるものです。辛いできごとを経験することでやさしくなれることだってある。かなしい障害を乗り越えることで、強くなることもできる。

多くのものごとは両面を持つものです。よく引用されるのが、コップに半分水が入っているとき「半分しか入っていない」ととらえるか、「まだ半分もある」ととらえるかによって、悲観的にも楽観的にもなれるということ。解釈の違いが世界のパースペクティブを変えることもあります。

しかしながら、ぼくは理由のないポジティブ志向に対しては個人的には疑問を感じます。あらゆる課題に対して、まだ大丈夫、ぜんぜん平気、と考えるのは逆に思考停止しているんじゃないか。「半分しかない水は半分でしょう」とドライに現実を直視する、解釈を加えずに現実をありのままに受け止めることも大事ではないかと思うんですよね。

といっても、ネガティブ思考は断ち切りたい。できれば現実はありのままか、前向きにとらえていたい。

たとえば急に振り出した雨のことを想像してみます。びしょ濡れになって駆け込んだ通勤電車のなかは湿度が高くて、席に座れたものの、自分の前に立った誰かの傘から落ちる滴が自分にかかったりする。イラらつく。憂鬱になる。濡れたシャツが肌に貼り付いて、不快が募る。雨は嫌だなあ、と思う。

その気持ちは気持ちとしてあっていいと思います。けれども、いま自分が嫌悪している雨がさまざまな生き物にとっては恵みの雨であったりもする。農家では雨を待ち望んでいるひともいる。こころのコンディションによっては、しっとりとした雨の冷たさを心地よく感じるときもあって、外出を諦めて部屋で読書していたところ、思いがけない素敵な文章に出会えたりもする。突然振り出した雨によって、コンビ二で買った傘が忘れられないコイビトたちの思い出になるかもしれない。雨が取り持つセレンティビティ(偶然の巡り合わせ)だってある。

そんなわけで(前置き長すぎましたが。というか楽曲を公開するのが照れくさいので、ついつい・・・苦笑)、ひとびとに嫌われがちな雨を愛する曲を作りたいと思いました。ノスタルジックな暗いじっとりとした曲もありだとは思うのですが、できる限り、明るいポップスで。

久し振りの趣味のDTMの新曲です。「LOVE RAIN」というタイトルにしました。黒川伊保子さんの本「恋愛脳」のLOVE BRAINというタイトルにちょっと似ている気もしますが(笑)。

■LOVE RAIN (3分47秒 5.21MB 192kbps)


LOVE RAIN
冷たい雨

降る。この街の
風景が・・・

LOVE RAIN
いとおしい。あなた
に、
ここに
いてほしい。

詞・曲・プログラミング BirdWing


楽曲的にイメージしたアーティストは、ブライアン・ウィルソンです。ブライアン・ウィルソンはビーチボーイズのソングライターおよびベーシストであり、とても繊細な美しい曲を書きます。けれども冷静に聴くと、どこか脆くて、甘ったるい。なんとなく落ち着かない印象もある。でも、そこがよかったりもする。

80年代に出したソロアルバムでは、1曲目の「Love and Mercy」と3曲目の「Melt Away」は珠玉のポップスです。この2曲で何度泣いたことか(涙)。そんな曲を作りたいとずーっと思っていました。

B00004WH69Brian Wilson
Brian Wilson
Warner Bros. 2000-09-11

by G-Tools

個人的に、彼のソングライティングで最も秀逸なのは、ビーチボーイズの名盤「ペットサウンズ」に入っている「God Only Knows」ではないかと思います。コード進行の切なさといい、すばらしい楽曲です。こちらはYouTubeから。若かりし日のブライアン・ウィルソンの写真がたくさん挿入されています。

■The Beach Boys - God Only Knows (Brian sings lead)

要するに、エレクトロニカのブライアン・ウィルソンになりたかったんですよね、ぼくは。というのは非常に大それた話ではあるのだけれど、そんな大きな夢も描いていたいと思います。たとえ趣味だとしても。

DTMの工夫点としては、まず冒頭でフィールドレコーディングによる音を入れて広がりを出しました。ほんとうは自分で録音したかったところですが、ネットで拾ってきたイギリスのメトロの雑音を使っています。

また、弦の音をサンプリングしてサビで使いました。コリン・ブランストーン(ゾンビーズ)のソロアルバムにも弦を使った素晴らしいアルバムがあります。ルーツを辿ればビートルズなのかもしれませんが、とにかくストリングスをうまく使ったクラシカルな曲が好みであります。そんなアレンジをしたかった。一方で、エレピの透明感は、スクリッティ・ポリッティという気もなきにしもあらず。

音色やエフェクトとしては、ブリッジ部分のドラムはモジュレーター(フランジャー)をかけて、次の部分へイメージを切り替える展開を考えました。最後のストリングスはフィルターをかけて幻想的にしたかった。シンセはすべてSONAR付属のTTS-1です。いろんなソフトウェアシンセを使うとマシンに負荷がかかるということもあるのですが、結局のところ音色よりもメロディと和音で勝負、と考えていたので。しかも奇をてらったメロディではなく、覚えやすいスタンダードなポップスをめざしました。

実は・・・制作中にのめり込みすぎて、廃人に足を突っ込んじゃったんですよね(苦笑)。できあがってしまったものを聴いていただくと普通じゃんと思われるかもしれないのですが、ぼくは鍵盤を使わずにマウスで音を置いていく作業(ステップ入力)で曲を作っています。絵画に喩えると、スーラの点描画のような作業です(わかりにくいか・・・)。

つまり、通常キーボードが弾けるひとは、Cのコード(ド・ミ・ソ)をばーんとキーボードで弾いて、リアルタイムで入力します。ところが、ぼくは方眼紙のような画面に、ドを入れて、ミを入れて、えーとあとはソ、という風にいちいち一音ずつマウスで音を重ねていく。そうやってこの曲も作っています。

緻密な作業もさることながら、そのデジタルな工程に、ぼくは感情を込めたかった。で、まずは音に込める思いのようなものと向き合い、この曲に込めたい思いは何かということを考え詰めました。そしてその思いを増幅させて作ったのですが、思い入れはもの凄いあっても、いざDTMの画面に向かうと単純な音としてしかアウトプットされない、表現できない・・・のようなジレンマに陥り、ほんとうに神経が衰弱しました。携帯電話で3行のメールを打つのにも、1時間半ぐらいかかるような燃え尽きようだった、という(苦笑)

そんなところも実はブライアン・ウィルソン的なのかもしれないのですが(彼は精神を病んで、ベッドルームに砂場を作って遊んでいた時期もあったような)、ぼくなどは音楽を趣味とする一般人なのですが、プロのアーティストってもしかすると強靭な精神力がなければできないのではないか?とあらためて考えました。だからドラッグなどに依存するようなことになるのかもしれないのですが。

というわけで、気持ち的には未完成ではあるのですが、未完成の完成として公開することにします。できれば、ここを起点として作り続けていたい。楽曲作りの難しさをあらためて感じたのですが、諦めずに続けたい。カタチは別の曲になったとしても、ここで考えたことを継続したい。

この曲を契機として考えたことは自分には尊いものでした。辛いことも多いのだけれど、出会えてよかったと思っています。

投稿者 birdwing : 2008年5月 5日 00:00

« 価格と価値。 | メイン | 連休の最終日に手に入れたもの。 »


2 Comments

ぽろり 2008-05-05T19:52

アップされてほどなく拝聴しました。キレイな音ですね☆フライト・レコーダーもそうだと思ったのですが、最近はキレイな音が多いですね。LOVE RAINの、ストリングスやエレピやベルの、爽やかさと愛らしさがすごくポップで好きです。アウトロまでキレイで、始終ほんわかした気持ちで聴いていました。私の住んでいる田舎村では昨夜しとしとと雨が降っていて(今夜は快晴です、残念。)、そんななかで聴いていると、なんだか身の回りの空気が澄んだ感じがしましたよ。
しかし、この曲・・・ぼ、ボーカル入りではないですかっ!これ、BirdWingさんのボーカル・・・ですよね?ファンといたしましては、セクシーなボーカルにやられました(笑)。というか、詩があるけれど歌が入らないので、途中まで、もしかしたら詩は書いてあるだけ?・・・と思って聴いていたのですが、盛り上がって、、ががーん!という感じ?
えーっとすみません、若干ボーカルに対する言及が多くなりましたが(笑)、よかったです!!おかげさまで梅雨時期もしあわせに過ごせそうです。

BirdWing 2008-05-05T20:40

ぽろりさん、感想ありがとうございます!うわー、嬉しいです。

性格のせいか、もとからあまりハードな曲は苦手だったですが、ロジャー・二コルスをはじめとして最近ソフトロックに傾倒しているせいでしょうか、きれいな音楽を作りたいと思っています。それから抽象的なエレクトロニカも好きですが、一方で、わかりやすいポップスも大好きです。なので、メロディメーカーでいたいなーとも考えました。
ええと、お恥ずかしいのですが、ボーカルはぼくの声です(照)実は、社会人バンドをやっていた頃から、ボーカルコンプレックスがありまして、自分の声が大嫌いでした。音域は狭いし、低いので。しかし、とある方に昔の録音を聴いていただいたところ評価いただいたので、じゃあやってみるかな、と。カラオケさえ大嫌いな自分としては大決心だったのですが、気に入っていただいて何よりです。しかし、セクシーなのかな?うーむ、どうでしょう(笑)。

東京では子供の日の今日、雨がぱらつきました。これから梅雨の季節を迎えますが、少しでも雨の時期を快適に過ごせるといいですね。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://birdwing.sakura.ne.jp/mt/mt-tb.cgi/925