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2009年5月17日

遠くの空に消えた

▼cinema09-19:信じること、行動することで実現する奇跡。

B000ZLPT3C遠くの空に消えた [DVD]
神木隆之介, 大後寿々花, ささの友間, 大竹しのぶ, 行定勲
ギャガ・コミュニケーションズ 2008-03-07

by G-Tools

"ハチは航空力学的にいえば、飛ぶことはできない。けれども飛べた。なぜか。飛ぼうと思ったからだ"。冒頭で語られた、そんな台詞が印象的でした。

いい映画でした!すばらしかった!

大いに笑ったり泣いたりしたわけではないけれど(1箇所だけ号泣)、じんとこころに染みる映像と物語です。ノスタルジックであり、またジュブナイル(児童文学)の雰囲気もあり。行定勲監督ご自身が脚本も書かれたようですが、彼の映画のなかではいちばんじゃないかな。すくなくとも、今年ぼくが観た映画のなかではいちばんよかった。観てよかった。

物語の舞台は馬酔(まよい)村という日本のどこかにある田舎。この村の風景がそもそも日本であって日本らしくない。遠い日のふるさとのようでもあり、中南米のどこかのような印象もあったりして、懐かしくも美しい。

この村に、空港が建設されようとしています。村民は反対している。空港を建設するために村民を説得させる任務で、ひとりの役人とその息子がやってきます。地元の空港建設反対のひとびとは抵抗する。大人たちの問題にとどまらず、学校においても土地を売ることで寝返った子供をいじめるなど、暗い影を落とすようになる。けれども、そんな状況のなかでファンタジーのような、すばらしい出来事がいくつも起こります。生涯忘れられないような。

物語は重層的です。行定勲さんの脚本はうまい。ひとびとの関係が織り成す物語が複数、交差されて展開していきます。けれども、「信じていれば奇跡は起きる。飛べる」というテーマで貫かれている。

まずは、かつては同じ村に住んでいた大人たち、空港建設の役人である楠木雄一郎(三浦友和さん)、生物学者の土田信平(小日向文世さん)、バーのママ(大竹しのぶさん)の物語。

幼馴染なのだけれど、遠い昔の子供の頃、ふとした諍いがあって雄一郎はこころを閉ざしてしまう。そのまま大人になります。一方で、信平は子供のころの夢を追いつづけていて、こころは子供のままです。三浦友和さんは結構好きな俳優さんなのですが、ここでは小日向文世さんがいい味出していました。空港建設を推進する立場=雄一郎、地元の自然をまもる立場=信平という立場で対立しながらも、ふたりは親しく語り合える親友です。この親友の関係のなかで、頑なな雄一郎のこころはすこしやわらぐ。

そして、UFOを信じることでつながった3人の子供たち。父が役人でありハンティング帽にサスペンダーの服装がかっこいい楠木亮介(少年の頃は神木隆之介さん、成人して以後は柏原崇さん)、お父さんを異星人に連れ去られたというエキセントリックな少女柏手ヒハル(大後寿々花さん)、ちょっと抜けているけれどあったかい土田公平(ささの友間さん)の物語。

公平の父親は、ボーボー鳥を復活させるためにずーっと家にいなかったのに、ふらりと帰国します。父親と家族のそんな場面もこころがあったかくなる。さらに、鳩だけを愛して狂人とおもわれて生きている孤独な青年、赤星(長塚圭史) 。彼は村人から、からかわれたりいじめられたりするのですが、狂ってしまった理由として、いとしいがゆえに抱きしめすぎて弟トーマを殺してしまった、その日からおかしくなった、という話を聞いて、ぼくは不覚にも号泣でした。これ、ぜんぜん物語の本筋とは関係のない部分なんですけどね。この赤星も彼等三人の仲間に加わります。

さらに、好きでもない男性と結婚させられる運命にありながら、とつぜん出会った空から落ちてきたひとに憧れる先生(伊藤歩さん)の物語。このセンセイも美しいひとですが、彼女が恋慕う謎の男性(チャン・チェン)は渋い。レオナルド・ダ・ヴィンチの設計した飛行機のような翼をつけてふたりで飛ぶ練習をしたり、寄り添って月を眺めているシーンは美しかった。ジャックと豆の木のような蔓をたどって雲の上から月を眺めるシーンは、すこしだけ「未来世紀ブラジル」のような趣きを感じました。

両手を広げてUFOを呼び寄せる呪文をとなえていたヒハルに「UFOって信じる?」と言われて、半信半疑のまま彼女に付き合い、星を眺めたりUFOを探すのを手伝う亮介と公平たちがいいなあ。隕石をゲットできる望遠鏡もよかった。そんなものはあり得ないのだけれど、三人は信じている。流れ星をみるたびに、機械の歯車を回して隕石を取ろうとしている。そうして、星を眺めてUFOを呼ぶための小高い丘に秘密基地のようなものをつくります。木を結びつけてアンテナのようなものをつくるわけです。ちょっとわくわくしました。子供のころに、そんなことを田舎の裏山でやった経験があるので。

東京では星はみえません。かろうじて金星がみえるぐらいでしょうか。月だけは明るくて、仕事で遅くなった夜、ぼくは月を眺めて帰ることが多い。しかし、ぼくの住んでいる田舎では、昔もいまも満点の星空を眺めることができます。最近、住宅が多くなってしまったのでいまひとつ鮮明にみえない気もするのですが、冬になると落ちてくるような星空です。プラネタリウムどころではなかった。東京で育った子供たちは星空を眺めても感動がありません。むしろ「どうぶつの森」というゲームの星空のほうがよかったりする。いいのかなあ、とは思うのだけれど。

ところで、ヒハルという女の子、つまり大後寿々花さん。12歳のぼくだったらぜったいに初恋に落ちた気がする(照)。彼女が登場するたびに、なんかぽーっとしてしまった。DVDのジャケットをちょっと拡大して掲載してみます。

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たぶん少年の頃のぼくは、こういうタイプに弱かった。おでこが出ていて、ヘアピンで髪をとめていて、髪の先端が外側に跳ねていて、ワンピースから細い二の腕とかふくらはぎとか・・・。入院の見舞いに来た亮介によろめいてもたれかかって泣くシーンがあるのですが、オトナのラブシーンよりどきどきしました。

ちなみにハンティング帽にサスペンダーの神木隆之介さんもかっこいい。いかにも・・・な感じはありますが、都会から出てきた洗練された少年という感じです。

そんな風にキャラクターのひとりひとりが立っている。バーのママはけばけばしいし、チンピラはチンピラらしい。田舎の子供の代表として公平はランニングシャツまるだしだし、マドンナである先生は美しく、そのフィアンセは気持ち悪い(笑)。こうした設定もまた、完璧です。

不甲斐ない大人たちを見捨てて、公平の指揮のもとに、子供たちで空港建設に反対するための奇跡を起こそうとする。途中で、ああなるほどね、と何をしたいかわかったのですが、実際にその結末をみて感動しました。いいなあ、こういうのって。馬鹿なんだけれど、行動することで奇跡も現実になる。であれば、ぼくは馬鹿でありたいですね。奇跡を実現するために。

ロケ地は帯広を中心とした北海道とのことですが、そこで思い出したのは、「神の子どもたちはみな踊る」「海辺のカフカ」など、村上春樹さんのUFOが登場する作品でした。けれども、おとぎ話でありながら現実的な「遠くの空に消えた」のほうが、ぼくは物語として好きかな。村上春樹さんの話は、すこばかりオカルト風味が強すぎるので。

映画に挿入された音楽も好きでした。ちょっとジュゼッペ・トルナトーレ監督の作品を思い出させます。勝手にぼくの好きなものを結びつけた感じはしますが。

トレイラーの最後の行定勲監督のことばが印象的でした。

何かを信じられなくなったとき、
信じ続けるパワーをくれる映画を撮りたかった。

信じることで奇跡を起こしたい。現実を変えたいものです。5月10日観賞。

■トレイラー

■公式サイト
http://to-ku.gyao.jp/
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投稿者 birdwing : 2009年5月17日 10:12

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