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2005年12月 1日

特別ではない一日でも。

12月になりました。今年も残すところ、あと1ヶ月あまりです。なんとなく急に身近に冬を感じてしまったのは、ぼくだけでしょうか。毎日の繰り返し、という意味では、11月29日と11月30日の間、11月30日と12月1日の間は同じといえなくもないのですが(そんなこといえば、大晦日と元日も同じなんですが)、カレンダーをばりっと破るように気持ちが変わるときがあります。一方で変わらないときもある。なぜでしょう。

とにかく、12月1日になって、何かのスイッチが押されたような、そんな感じです。あるブログで銀杏の葉が散っている、という表現を読んだところ、急に黄色く色づいている銀杏の葉が目に飛び込んでくるようになりました。とつぜん出現した銀杏にぼくは驚いたのですが、もちろん急に街路樹が色づいたわけではなく、少しずつ変わっていたはずです。けれども見えていなかった。それが、意識することによりきちんと紅葉を見ることができるようになった。

物事が繰り返されると、ぼくらの認識も次第に鈍っていくようです。だから刺激的なことや、大きなイベントを求めるようになるのですが、実はいたずらに大きな刺激を求めるのではなくて、ぼくらのセンサーの感度をあげてあげると、些細だけれども何気ない日々の大切なこととか、ちょっとした変化というのをとらえられるようになる。何も特別なことがない、何も起こらない毎日、というのを大切にしたい気がしています。

映画では、柴崎友香さんの原作で、行定勲監督による「きょうのできごと」という作品があります。これはほんとうに学生が集まって飲み明かして帰る、というただそれだけの物語です。途中に、酔っ払って髪の毛を切って失敗する、とか、浜辺に打ち上げられたクジラを見にいく、とか、短いエピソードが挿入されるのですが、人が殺されたり、エイリアンが円盤にのってやってくる、というような展開はない。淡々としていて、エンターテイメントを求めるようなひとには退屈な映画かもしれませんが、ぼくはなにかものすごく懐かしい気がしました。学生時代って、まさにそんな感じでした。まったり感が永遠につづくような。

小説としては、保坂和志さんの小説がそういう感じです。ぼくは「季節の記憶」の続編である「もうひとつの季節」の方から彼の作品を読みはじめてしまったのですが、鎌倉に住む息子とふたりぐらし(正確に言うと猫もいる)の主人公が、とにかくまったりと毎日を過ごしていく。何も起こらないのだけど、その空気感というか世界観というか浮遊感というか、ほわほわな感じが大好きで、「季節の記憶」を読んだときには、最後で「もう終わっちゃうんだろうか?」とものすごく名残り惜しい気持ちになったものです。物語のなかで、友人からあるビデオが送られてくるのだけど、その映像もとにかく日常の断片を詰め合わせたような映像だったというエピソードで、その箇所を読んでいたときに、どういうわけか泣けてきました。一時期、保坂さんの作品ばかりを読み漁っていたことがあります。

趣味の分野のDTM(デスクトップミュージック)的な用語でいうと、コンプレッサー/リミッターという機能があります。過剰に入力された音を抑えて圧縮したり、ちいさな音を大きくしたりして音の全体像を整える機能ですが、あんまり使いすぎると、のっぺりした音になる。自然な感じがなくなる。音楽を作っていて、どうにも音圧があがらなくて、その使い方が課題でもあるのですが、あまりコンプレッサーをかけた音は好きではない。もちろん、他のひとの作品を聴いていると、きちんと音圧のある曲は派手だし、かっこいいので、こういう音にしたいなあというのはあるのですが、効果をかけすぎると不自然になる。

やっぱり自然体がいい、ということでしょうか。センサーの感度をあげて、季節の変化をしっかりとらえつつ、とりたてて何も特別なことのない毎日を楽しむことにします。

もうすぐクリスマスです。

+++++

■保坂和志さんのサイト。創作ノートなどのコンテンツもあり、ファンとしてはうれしい。「季節の記憶」は新緑の若葉の装丁、「もうひとつの季節」は紅葉による赤の装丁で、こうして並べてみるとクリスマスっぽい配色です。
http://www.k-hosaka.com/

4122034973季節の記憶 (中公文庫)
中央公論新社 1999-09

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4122040019もうひとつの季節 (中公文庫)
中央公論新社 2002-04

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B0002ESL32きょうのできごと スペシャル・エディション [DVD]
行定勲
レントラックジャパン 2004-08-25

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七井李紗さんのブログ「ほっと!ぐらふ」を読んでいて思い出したのですが「tokyo.sora」という映画も、淡々と日常が描かれる映画でした。オムニバス形式のような感じなのですが、登場する女性のそれぞれの生活が描かれています(12月2日・追記)。

B000069B7Ztokyo.sora [DVD]
菅野よう子
レントラックジャパン 2003-04-04

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投稿者 birdwing : 2005年12月 1日 00:00

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