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2006年4月12日

分解する力。

豊聡耳(とよとみみ)と呼ばれた聖徳太子は10人の話を同時に聞いた、というエピソードを勝手に覚えていたのですが、Wiki pediaの聖徳太子の解説によると、どうやら同時に聞き分ける力に優れていたのではなく、順番に聞いた話を覚えていたらしい。つまり記憶力に優れていたようです。もちろん10人の話をすべて覚えている聖徳太子の能力もすごいと思うのですが、混在している音を聞き分ける能力もすごいと思います。

バンドをやっていた時期があるのですが、譜面がない曲は「耳コピー」といって、なんども曲を聴いてテープレコーダーにポーズをかけながら音を探したものでした。しかしながら他の音にかぶってしまっていてどうしても聴き分けられない音がある。何度聴いても聴き取れない。けれどもそれはぼくがシロウトだからであって、音楽を専門にされているプロの方は、絶対音感的なもので瞬時にその音を当ててしまうのもかもしれません。

全体としてまとまっているものを分解する力が必要になるときがあります。音に限らず、そもそも分析という科学的な手法は、分解能力を駆使する思考が求められるものです。先日も点描画の話を書きましたが、ジョルジュ・スーラが光の構成要素を色のドットに置き換えるのも、大変な能力が必要になるのではないでしょうか。また、例えば仕事で何か問題になっていることの解決方法を探るときも、この分解能力が必要とされます。問題というのは漠然と広がっているもので、それを体系的に腑分けしていくのは、結構骨が折れる。とはいえ、分解して何か見えてくるものと、分解することによって余計にわからなくなるものもあります。

昨日、DTMで音のドットを積み上げながら曲を組み立てていったのですが、ある域を超えると全体としての音の塊になってしまい、どの音がまずいんだろう、という分解不能な状態に陥ってしまうことに気付きました。それはたぶんぼくの能力不足によるものだとは思うのですが、たとえばマスタリングの作業などでも、プロの方はどの周波数が不鮮明になっている、ということを瞬時に判断できるような気がします。ぼくの場合はなんだかよくわからずに、イコライザーを上げたり下げたりしているのですが、プロの場合は、足りない周波数をちょい上げるだけでずいぶん音が変わって聴きやすくなる、などの技があるようです。

黒川伊保子さんの本にも、こんな話が書かれていました。ヴァイオリン奏者が演奏を前にして「今日はどの周波数でいこうか」という話をされていて驚いたそうです。つまり、コンサートホールによっていちばんよく響く音は違う。またその日の天候によって響きも変わってくる。そんな変化に合わせてプロの奏者は演奏も変えていくそうです。これはすごいと思いました。当然かもしれないのだけど、人間のコンディションも変わるもので、そのことも考慮しなければなりません。やはりバンドをやっていたときのことですが、ライブでアガるとリズムも走りがち(テンポが速くなること)になります。でも、バンドの全員が速いリズムになれば、それはそれでまとまって聴こえるものだよね、などという話を聞いて、納得したことがありました。

仕事にも同じことがいえます。打ち合わせや企画のプレゼンでも、いつも同じ状況ということはありません。一期一会といってしまうとなんだか胡散臭くなりますが、同じ場は二度とないものです。マニュアル通りにやればいいというものではなく、その日の気分を察知して、柔らかくいくか、硬めに押さえるか、フレキシブルに変える必要があります。柔軟に対応できるのがプロかもしれません。

昨夜、深夜までかかってあれこれ検討していた「Oxygen(弦バージョン)」は、自分でも判別不能になってしまい頭を抱えつつ、とりあえずアップロードしました。ピアノのパートだけは先日公開しましたが、最終形を数日後にはmuzieのぼくのページで公開する予定です。ピアノ+弦楽四重奏(?)らしきものができました。モーツァルトになりたいと思ったのですが、天才にはなれません。1分20秒の曲にへとへとになり、クラシックの方が聞いたら首をひねりそうな作品になりました。

シンフォニー(交響曲)を書いているモーツァルトの頭のなかはいったいどうなっているのでしょうか。全体として鳴っていたのか、個々の音が積み重なって鳴っていたのか、そんなことが知りたくてたまらない。モーツァルトの頭のなかは知ることはできませんが。

投稿者 birdwing : 2006年4月12日 00:00

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