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2007年4月 7日
ブロークンフラワーズ
▼Cinema07-012:過去に会いに行くロードムービー。
ブロークンフラワーズ ジム・ジャームッシュ レントラックジャパン 2006-11-24 by G-Tools |
女たらしといえばドン・ファンですが、「ブロークンフラワーズ」はドンという名の中年の独身男が、過去に付き合った女性たちを訪ねるロードムービーです。
ドン・ジョンストン(ビル・マーレイ)はコンピュータ成金で、悠々としたリタイア生活を送っています。けれども独身貴族の彼は、結婚には興味がない。そんなわけで一緒に暮らしている女性に愛想をつかされて、出て行かれてしまう。なんとなく凹んでいると、20年前に付き合ったという女性から、ピンクの封筒に入った手紙が届きます。
手紙には、あなたと別れた後であなたの子供を生んだ、19歳になる息子が父親であるあなたを探しに行くのでそのつもりで、のようなことが書かれているわけです。けれども署名は何もなくて、誰なのか思い出せない。
彼の隣人が推理小説好きのおせっかいな男で、ドンに、これは何かの啓示だ、20年前に付き合った女を全部思い出せ、リストアップしろ、ネットで住所を探したから会いに行け、レンタカー借りといたぞ、のような感じですべてお膳立てしてしまい、彼は仕方なく過去の女性に会うために旅に出ます。
女性を見つけ出す鍵は「ピンク色(封筒)」「タイプライター(手紙の文字がタイプだった)」で、ドンは交通事故で亡くなった彼女を含めて5人の女性に会う。未亡人になってしまった昔の彼女と一夜を過ごすようないいこともあれば(その娘も裸でふらふらしていたりする)、野蛮な暴走族風の旦那(?)にぶん殴られることもある。それぞれの女性がそれぞれの人生を歩んでいて、不動産ビジネスで儲けて立派な家に住みながら子供を生まない選択をして殺伐とした生活を送っているひともいれば、動物と会話できるというあやしいドクターになってしまったひともいる。そんな彼女たちに、ドンはコンサバティブなスーツ+ピンクの花束という、おせっかいな隣人が仕立てたままの格好で会いに行きます。
ドンの旅はいわば過去に再会するための旅であり、彼が選択しなかった未来を傍観者として確認するための旅でもあります。もし彼女と付き合っていたら・・・という「もし」の世界を、再会した現在の彼女たちの姿に重ねてしまう。空白の時間を飛び越えて再会すると、とんでもなく変わっていたりもして、それでも時空を埋めるような仲になれる女性もいる。
幸運か残念なことか、ぼくは過去にお付き合いさせていただいた(妙にへりくだってるなー)女性とばったり遭遇することはないし、また探しに行くようなストーカー的な気分にもならないのですが、どうしているのかな?と思うことはあります。できれば遠くで、しあわせになっていてほしいものです。ネットがこれだけ活発になると、リアルライフはともかく、ネットで遭遇することもありそうですけどね(ひょっとしたら、ひそかにブログとか読まれていたりして)。
ドンが訪問する女性たちの家には、ピンク色の何か(バスローブであったり、名刺であったり、バイクのタンクであったり)があって、これが手紙を出した彼女かな?と期待させる。期待させるけれども、はっきりとはわかりません。物語の筋は単純なのですが、なんとなく疑問符を抱えつつ、さあ次の彼女だ、のような感じで好奇心が旅を急がせるような感覚がありました。
クルマでとんでもない田舎まで旅をするビル・マーレイの寡黙な感じがちょっと可笑しくて、特に台詞のない映像の間が秀逸でした。彼の魅力を引き出していると思います。ジム・ジャームッシュ監督の才能を感じます。サンドイッチをおごってやった若者に「過去は終わっちゃったし、未来はいまからでもどうにでもなる、現在が大事だ」などと語る言葉も印象的でした。
現在の自分がいちばんであり、生きてきたことに後悔していない、というような諦めにも近い安堵感がありながら、どこかにいるかもしれない隠し子の存在をほのかに期待してしまう動揺がよかった。成金で成功してリタイアしたし、人生を充分に楽しんで、もはや人生そのものを飽いてしまっていて、結婚もしていないけれど、やっぱり父親にもなってみたい、深層では家族のつながりを求めているドンの気持ちがよく描かれていると思います。
大笑いはしないけれど、口の端が緩むような上質のコメディです。観賞後に淡いようなあったかい気持ちを感じて、ほのぼのとしました。4月7日観賞。
*年間映画50本プロジェクト(12/50本)
投稿者 birdwing : 2007年4月 7日 00:00
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