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2007年11月15日

ひとごみのなかのダンス。

ひとごみが苦手でした。少なくとも遠い昔、トウキョウにやってきたばかりの10代の終りの頃には。

新宿とか渋谷のひとごみに出ると眩暈がして、気後れして帰りたくなったものです。交差点の信号が変わると、どどーんと打ち寄せる波のように押し寄せてくる人々。田舎もののぼくはうまくひとの海を泳げなくて、あっちでぶつかり、こっちで困惑し、ぎこちなく途方に暮れたものでした。

そんな田舎出身の純朴な少年たちが陥りやすい罠があります。

地方から上京する学生さんたちが陥りやすい罠ではないかと思うのですが、それは、向かってくる相手と位相を逆にしてシンクロしてしまうことです(笑)。

ああ、相手が右によけるなーと思って左に避けると、要するに相手の右は自分の左なわけで、同じ方向でごっつんこしてしまう。で、おっと失礼、じゃあわたしはこちらへ、と右に避けると同様に相手も同じ方向に避けるのでまたごっつんこする。

そんなわけで、右・左・右・左と知らず知らずのうちに、見知らぬ誰かと路上でダンスを踊ってしまうわけです。出会いの相性もあるかと思うのですが、ステップを踏みやすい性格もあるようで、もう辞めてしまったのですが、かつてうちの会社にはそんな“路上ダンス”の達人がおりました(遠い目)。

どういう状況か、わかるひとにはわかると思うのですが、何を言っているのかわからない、というひとのために図解いたしましょう。

まず、「ぼく」がとことこ歩いて来ますよね。えーと、これ、仮面ライダーの電王なんですけれども。

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すると、反対側から別のひとが歩いてくる。誰ですかね、これ。よくわかりませんが、赤いライダーです。

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東と西、南と北なのかわかりませんが、とにかく反対方向から歩いてきたふたりが出会う。

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で、ぼくが右に行こうとすると、相手は左に行くのでごっつんこ。

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あっ失礼!と左に避けようとすると、相手も同じ方向に行くのでごっつんこ。

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そんなことを繰り返すので、ダンスを踊ってしまうわけです。

たいてい、知らないもの同士が出会いがしらにダンス踊っちゃってなんだなかーみたいな気分で苦笑しながら立ち去るわけですが、この場面の正しい終わり方は、他にないだろうか。

いっそのことふたりでミュージカルやっちゃうとか。

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少女マンガ風だと、濃厚なちゅーしちゃうのもありだ、と。

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電王さんってば、積極的だ(照)そんなエンディングも心あたたまるのではないでしょうか。

この現象を言い表す言葉がないものか、と思っていたのですが、ミシェル・ゴンドリー監督の「恋愛睡眠のすすめ」という映画を観ていたところ、P・S・Rという造語(笑)で説明されていました。

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P・S・Rとは、「平行同時発生的無原則(パラレルシンクロナイズドランダムネス)」だそうです。「二人の人間が同時に波長し合い、行動や言動が永遠に平行線の状態に陥ること」とのこと。

路上ダンスに関わらず、いろいろな場面でありますよね。サラリーマンのおじさんとか宴会で、

「では、部長。あなたからどうぞ」
「いやいや、課長。あなたのほうからどうぞ」
「いやいやそんなこと言わずにまずまず」
「いやいやいやいや・・・どぞどぞどぞ」

みたいな微笑ましい譲り合いとか。

あるいは、愛し合うカップルが「あの・・・」「えと・・・」とか同時に話をして、

「あ、いま何か言おうとしたでしょ。お先にどうぞ」
「いや、ぼくはたいしたことないからいいんだ。きみからどうぞ?」
「えー、わたしもたいしたことないのよ。あなたから言って!」
「そんなー、ぼくはきみの話が聞きたいんだよう(照)」
「まあやーね(照)、わたしだってあなたのお話が聞きたいんだもの。もう」

のように繰り返す行為。

ちなみに「恋愛睡眠のすすめ」という映画は、主人公ステファンが隣人のステファニーに惚れるのですが、気持ちをうまく伝えられない。勝手に思い込みでステファニーを傷つけてしまうというような切ない物語が、ペーパークラフトのアニメーションという幻想的な映像で展開されます。ステファンとステファニーは恋人同士なのか、ただの友人なのか、とても曖昧な状態のまま平行線を辿っていきます。お互いに好きな気持ちがあるのに、相手を思いやるばかりに、前に進めないダンスを踊ってしまう。

と、ひとごみのなかで偶然に繰り返されるダンス、「恋愛睡眠のすすめ」用語でいうとP・S・Rについて書いてみましたが・・・。

現在はどうかというと、さすがのぼくもひとごみに戸惑うことはなくなりました。ひとごみをきれいに切り抜けて歩くことができるようになりました。ほとんど意識せずにひとごみの海のなかを泳いでいます。毎朝、そして終電に近いぐらいの夜遅くに通勤と帰宅のために新宿の駅で電車を乗り換えるのですが、ヘッドホンで音楽を聴きながら、あるいは携帯電話を見ながら、ほぼ自動操縦のように機械的にひとごみを抜けていきます。

ギターケースを抱えた学生。
折りたたみ式のベビーカーを押している主婦。
ネクタイを緩めたサラリーマン。

そんなひとたちとすれ違うのだけれど、ほとんどスルーで記憶に残ることはありません。床に寝転んだ浮浪者や、サンプリング商品を配るキャンペーンガールもスルー。もちろんひとりひとりを記憶にとどめておいては大変なことになるかと思うのですが、あまりにも通過するだけというのもいかがなものか。

ときどき。苦手なはずだったひとごみに、あえて行きたくなることがあります。

それはひとごみのなかに、スルーできないあたたかさを求めているのかもしれません。それがたとえ困惑するようなダンスであっても。

投稿者 birdwing : 2007年11月15日 23:53

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2 Comments

ぽろり 2007-11-16T12:38

こんにちは!な、何ですかこれはー!?笑
夜中に見たのですが、笑ってしまって神経高ぶって眠れなくなりました。

この写真に合わせて音を付けたら、劇になるなあと思いました。
できればこう、ピッポコパッポコ♪みたいな、マヌケな音を・・・ってそこまで時間かけなくてもいいのですが。。。笑

えーと、「路上ダンス」、あるあるですねぇ!ひとごみじゃなくても昔はよくやらかしてました。
さすがに歳を重ねるにつれ回数は減りましたが、どうも質が変わったような気がする。

狭い通路なんかで向こうからひとが歩いてくるのを確認したら、今までの苦い経験から早め早めに避けようとするのですが
相手も同じことを考えていると、かなり距離が離れた路上ダンスになってしまうことが。。。
射程範囲が広がったといいますか、当事者にしかわからない見えない火花が散っていてホント困惑。

正しい終わり方としては、やっぱりお互い苦笑いで「すみません」が一番かな?
そのままスルーしちゃうと、後々まで決まり悪い感じが残ってしまいますが、
同じ行為でも笑顔で終わると、むしろ「楽しいことに出会えてラッキー」という考えに落ち着く。あったかい気持ちになれるし、妙な仲間意識すら生まれる気もします・・・笑

うーん、あらためて考えてみると、牧歌的でいいかもしれないですね、路上ダンス。

長々と駄文失礼しました。ではでは!

BirdWing 2007-11-16T19:10

どーも! ぽろりさんを夜更かしさせてしまったのは
このエントリだったんですか。ははは、すみません。

実はこれは、もと会社にいた同僚さんが得意としていて
彼から聞いたネタを使っちゃいました(ごめん)。

射程距離が広がったって笑いました。
ずーっと前から準備しておくのは、ある意味大人です。
これ、自意識と他者意識のバランスによって
生まれるダンスかもしれないですね。
ぼくは疲れて判断力なくなるとやっちゃう。

笑顔で声をかけて終わるのは
ぽろりさんらしいエンディングだと思いました。
ココロがあたたまります。いいなあ(しみじみ)

お互いに知らないひとでも、むっとしたり困惑のまま
無言で別れるよりも、何かひとこと交わして
気持ちよく、さよならした方がいいですよね!!
そんなささやかなココロの余裕があるかどうかで、
結構しあわせになれそうな気もする。

おお、音はつけてみたいかも!
たぶん少しずつ人形を動かして静止画で撮影して
パラパラマンガ風に合成するとアニメーションになるのではないか、と。
クレイアニメ(粘土のアニメ)っぽい手法でしょうか。

たぶんチープなテクノっぽい、昔のゲームソフトみたいな音が
合うかもしれないですね。ニンテンドーというか。

よし!作るか!

・・・うーむ。作る気力がない(泣)
ごめん(諦めが早すぎ)。

BGMの音楽によっても雰囲気が変わりそうです。
ラブシーン篇は壮大な音楽がいいですね。

ちなみに、「ちゅー」と「注)」は、かけたつもりですが・・・
どうでもいいですかそうですか。。。。

では。

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