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2007年11月19日

パフューム ある人殺しの物語

▼永遠に残したい想いと香り、芸術家で科学者で殺人者で。

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ベン・ウィショー.レイチェル・ハード=ウッド.アラン・リックマン.ダスティン・ホフマン トム・ティクヴァ


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芸術と狂気が紙一重であるように、純粋さと人を殺める衝動も紙一重なのかもしれません。

ということを書いていて思い出したのは、茂木健一郎さんのレオナルド・ダ・ヴィンチ論です。ダヴィンチは絵画と解剖学という芸術と科学のふたつの視点から人間を眺めていたという観点ですが(いま本がどこ行っちゃったのか探せずに断念)、美や愛を排除した科学的な視点を持ちつつ芸術に関わったからこそ、崇高な作品が出来上がったのかもしれない。けれどもその天才的な感覚も行き過ぎると、変質的になる。

この映画は、18世紀、類まれな嗅覚を持って生れた主人公ジャン=バティスト・グルヌイユ(ベン・ウィショー)が、究極の香水を作るために次々と女性を殺めていくという物語です。腐敗したサカナとか汚物とか、ぐちゃぐちゃな映像ではじまっておげっと思ったのですが、その映像があるからこそ崇高な何かも感じられる(気がする)。汚れた世界で育ったグルヌイユが、貧困と悪臭のなかから人間の力を超えた香りを追求していく過程に興味を惹かれました。彼は科学者的ともいえます。

グルヌイユは幼少の頃から匂いをかぎ分ける力に優れていたのだけれど、皮なめし職人の家に仕えながら、出かけた町でひとりの女性の匂いにひきつけられ、彼女を殺してしまいます。このとき、死体から彼女の匂いが消えていくのが我慢できずに、自分が惹かれた女性の匂いを“永遠に残したい”と思うわけです。

ちょっとヘンタイ的なのですが、わかるなーと思ってしまったわたくしはどうしたものでしょう(苦笑)。というのはですね、文章を書くのも、音楽を作るのも、そして写真や映像を撮るのも、究極の動機付けは「感情もしくは場の雰囲気を永遠に残したい」という切ない願いがあるような気がするからです。もちろんそうじゃない動機で文章を書き、音楽を作り、写真や映像を撮るひともいるとは思うのですが、少なくともぼくは何かを残したいという衝動が創作の原動力になっている。しかも、できれば永遠に。

どんなものでも色褪せていくことを止められないじゃないですか。美しいクリスマスのイルミネーションも、あと1ヵ月後には消えてしまっている。どんなに思い焦がれて、通じ合っていたはずの愛情も冷めてしまうことがある。そもそもぼくは過剰に熱しやすく急速に冷めやすいタイプでもあり、だからこそほんわかといつまでも持続して香るような何かに憧れます。だからこそ、永遠に残しておきたいと思う。

主人公はちょっとしたきっかけから調香師(ダスティン・ホフマン)の家で働くことになるのだけれど、そこでも匂いを永遠に残す方法にこだわります。蒸留することで香りのもとを精製することを学ぶのですが、鉄やネコ(!)を蒸留して「匂いにならないじゃないか」と怒ったりする。そして、永遠に香りは残せないことを知って、気絶したりする。ピュアといえばピュアなんだけど、どこか常軌を逸している。そして、究極の香水を作るために次々と女性を殺める。香水の「材料」を抽出するために殺人を繰り返す。

調香師が語った言葉で、香りは音楽と似ているという表現も印象的でした。トップ、ミドル、ベース(違ったかな)という最初に感じる匂いから残り香として持続する匂いを組み合わせることで、和音が生まれる。これは聴覚を嗅覚の比喩として使っているのだけれど、五感には共通の何かがあるのかもしれません。

それから嗅覚と官能って、どこか通じるものがありますよね。というのは、オルガスムスに達する窒息感が、すばらしい匂いで息を止めてしまう感覚に通じるからではないか。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、彼が作った究極の香水は、まるで麻薬のようにひとびとに効いて、そこに集まっていた群衆の怒りを消し去るばかりか、互いに愛し合うような状態にさせてしまい、えーとですね、なんか大乱交状態になっちゃうわけです(照)。あらららら、みたいな感じで、このシーンはどうだろうと思いましたが。

特に感動というわけではなかったのですが、映画的な深いトーンが気持ちよかった。そしてどちらかというとぼくは感覚的というよりも、考えさせられることの多い映画でした。11月18日鑑賞。

投稿者 birdwing : 2007年11月19日 23:13

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