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2008年4月20日

科学的な思考と主観。

夕方に散歩しようとして外に出ると大粒の雨が降ってきたのですが、天気は変わらず晴れ。しばらくすると青空が広がりました。なんだったのでしょうか、あの天気。キツネの嫁入りというやつでしょうか。ちょうど趣味のDTMで雨に関する曲を作っていたところでもあり、なんとなく符号のようなものを感じたりもしました。単なる偶然ですけどね。

ちなみに趣味のDTMでは、かつて雨が嫌いであることをストレートに表現する曲を作りました(メインページのJuke Boxで聴くことができる「AME-FURU」という曲です)。けれども雨を煩わしく思う気持ちを突き抜けて、それでも冷たい雨を愛する曲を作りたいと思っています。Vocalを入れたいところですが、たぶんインストになる予定。潰したプロトタイプも多く、ぼくとしては久し振りにじっくりと取り組んでいます。仮タイトルは「LOVE RAIN」です。さて・・・どうなるのか。

スローなんとかじゃないですが、いろんなことに焦らずに取り組もうと思っています。昨日ひとつ歳を取っちゃったわけで(苦笑)、まだまだ迷いの多い年齢ではあるのですが、ゆっくり変わらない気持ちでさまざまなものに対して向かいたい。焦って結論を急ぐのではなく、地道に積み重ねていきたい。

と、そんな今のBGMはTom McRaeだったりします。孤高のシンガーソングライターの歌が染みる。

キング・オブ・カーズ
トム・マクレー
キング・オブ・カーズ
曲名リスト
1. Set the Story Straight
2. Bright Lights
3. Got a Suitcase, Got Regrets
4. Keep Your Picture Clear
5. Houdini and the Girl
6. Sound of the City
7. On and On
8. Deliver Me
9. One Mississippi
10. Ballad of Amelia Earhart
11. Lord, How Long?

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さて、複数の本を平行して読み進める傾向があるのですが、先日ふらりと書店に立ち寄って購入してしまったのは、大前研一さんの文庫です。ええと・・・まあ、50歳にはまだ遠いですけどね。でも、案外すぐなのだろうか。はぁ(ちょっと凹んだ)。ともかくぼくは先に先に読む傾向があり、20代の頃には35歳にどうするか、のような本を読んでいました。ちょっと読書傾向がおかしいのかも。

408746266850代からの選択―ビジネスマンは人生の後半にどう備えるべきか (集英社文庫 お 66-1) (集英社文庫 お 66-1)
大前 研一
集英社 2008-02-20

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一方で、スローテンポで読み進めている本に茂木健一郎さんの「思考の補助線」があります。ゆっくりと読みたい。そして考えたことを何度か分けて、書いてみたいと思います。

448006415X思考の補助線 (ちくま新書 707)
茂木 健一郎
筑摩書房 2008-02

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この本の前半では、茂木健一郎さんはご自身の大学時代の経歴などを振り返りながら、知の遍歴を確認されています。ところで、なぜ、ここで茂木さんは自分を語らなければならなかったか。

科学者は観察的な視点が重要であり、主観を排除しますよね。たとえば「情熱のせいか、ぼくの感情の粒子の運動が活発化して、なんとなく身体が変化してわずかに熱を帯びた」のような表現は科学的ではない。まず要因として感情やこころのような曖昧なものは、科学の対象にはならない。化学反応のようなものであれば別です。また、「なんとなく変化した」は許されない。数値的に計測できるものでなければ、科学として成立しないのではないでしょうか。

理系(という分類自体がどうかと思うけれど)の科学者だけではなく、たとえば新聞のようなマスメディアの報道記事の原稿作成についても言えることかもしれません。つまり報道の記事では、「私はこう思う」であるとか、「酷い」「悲しい」のような感情は排除して事実を事実として伝えることが望まれます。そうではないと、メディアを通じて情報を受け取った人間に混乱が生じます。とにかく、場所や数値を明確に伝えることがニュース性のあるメディアでは求められます。

けれども、この科学的な思考に主観を持ち込もうとしたのが茂木さんの試みだった、と認識しています。わたしのなかに存在する紛れもないクオリア、みずみずしい質感という感覚を提示したことにはじまり、茂木さんの語ることはどこか主観的です。そして「思考の補助線」で何度か繰り返される情熱(Passion)という言葉も、怒りのような言葉も、個人の感情を軸としている。だからこの本の茂木さんは、脳科学者ではないと思いますね。あくまでも主観的に考えを綴るエッセイストやコラムニストに近い。池谷裕二さんは印象として科学者であるのに対して、茂木健一郎さんはどこか文化人(芸能人、とはいいませんが)の印象が強い。そう演出されているのかもしれませんが。

ところで、主観がどのように形成されるかということを考えると、経験というパターン認識の連続が重要になります。こっぴどい失恋をした。ひとりになった。そして新しい恋をして今度はその過ちを繰り返さないようにした。うまくいった・・・こうした一連の経験があると、そのひと独自の恋愛感‐主観が生まれます。つまり自分がなぜこう考えるか、ということを詳細に説明しようとすると、過去のながーい文脈を引きずり出してくる必要があります。説明が長くなるひとの多くは、そうやって文脈をずるずる引き摺り出す傾向にあります。でも、その膨大なデータを読まなければ理解や共感ができないことも多い。ほんとうに誰かを理解したり共感することは、脊髄反射的にできるものばかりではなく、ものすごい時間がかかることがきっと多い。

ぼくは感情は情報のひとつであると考えるし、その謎を科学的に解明してほしい、五感に訴えるような新しいインターネットが生まれてほしいとは思うのだけれど、茂木さんのアプローチはどこかブンガク的な傾向に向かいすぎていて、科学者としての茂木さんには正直なところ期待できないかな、という気がしました。なんかものすごく失礼なことを書かせていただいていますね。すみません(苦笑)。

「自然科学vs.ニューアカ(P.30)」という部分では、浅田彰さんの「構造と力」「逃走論」などのポスト構造主義のブームを批判されているわけですが、やはり象牙の塔のなかで展開している話のように思えます。実は、ぼくも「構造と力」「逃走論」にかぶれた口であり(恥ずかしながらハードカバーで「構造と力」を持っていたりする)、その知の戯れを楽しんだひとりでもあります。

それがぼくはいけなかったとは思わないのですが、若気の至りとはいっても、ポスト構造主義にかぶれたことを恥ずかしがる自分がなんとなくかっこ悪い。

何がかっこ悪いかというと、自己否定しているところでしょうか。過去にはいろんな恥ずかしいことがあるんだけれども、それも自分ではないですか。有名なアインシュタインの愛嬌のある写真であればともかく、科学者であるのに「なーんちゃって」と舌を出して自分の研究に自分でちゃちゃを入れたり、思考の砦を築いてレベルの低い知にブーイングをかますことに快楽を見出すような姿勢は、かっこ悪いと思う。

多様性というのは個々ばかりではなくて、自分にも内在しているものです。

粉砕したいような過去や現在があるからこそ、よりよく(正しくではない)生きていこうと思う気持ちが生まれる。あれこれ哲学的な思考も生まれることもあります。たとえそれがアカデミックな思索ではないから世のなかに何も役に立たないかというと、そんなことはなくて、科学がひとの生命を救うように言葉がひとを生かしてくれることもあるはずです。

科学者ではない茂木健一郎さんに期待するのは、そんな感性のエバンジェリスト、人生のコンシェルジェのようなひとなのですが、期待しすぎでしょうか。というか、ぼくがそんなひとになりたいものであるなあ。

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えーと、今日はこの映画を観ました。

B00005V2LMエレクトリック・ドラゴン 80000V スペシャル・エディション
浅野忠信 永瀬正敏 石井聰亙
パイオニアLDC 2002-02-22

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どわはははは!これ笑った。すごい、面白い。最高だ!YouTubeからトレイラーを。本編観なくても、このトレイラーで十分という感じです。

■Electric Dragon 80,000V


全編モノクロで、俳優さんは、ほとんど浅野忠信さんと永瀬正敏さんのふたりといっていい。物語といえば、幼少の頃にカミナリでショックを受けて脳に障害を受けた竜眼寺盛尊(浅野忠信さん)が主人公。彼はエレキギターに出会い、ギターを弾きつつ逃げた爬虫類を探して生活しているわけですが、宿命のライバル雷電仏蔵(永瀬正敏さん)と戦うことになります。

「電気と感応し爬虫類と心を通わせる男、竜眼寺盛尊(りゅうがんじもりぞん)」「電気を修理し怪電波をキャッチする、雷電仏蔵(らいでんぶつぞう)」というキャラクターも面白いのですが、ノイズとロックと暴力的な映像、すっとぼけた台詞がたまりません。エンディングもよかった。

ああ、難しいことを考えようと思ったら、爆笑して終わってしまった(涙)。まあいいか。

投稿者 birdwing : 2008年4月20日 23:57

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